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2005/01/13

トヨタがバイオプラスティックに本格参入?

1月1日の中日新聞のニュースで、トヨタ バイオ本格参入 07年にも豪に工場というのがあった。

 トヨタ自動車は、環境に優しいサトウキビからできるバイオプラスチック(BP)原料の大量生産工場を2007年にも豪州に建設する方針を固めた。BPはプラスチック製の家電製品だけでなく、鉄や樹脂、アルミなど自動車部品の代替材としても注目され、トヨタは市販車部品に既に一部採用している。今後はBPを車体などに採用し地球環境に配慮した「エコ・カー」づくりとともに、バイオ化学業界への本格参入を目指す。

 トヨタは1998年、インドネシアでサツマイモを原料にBPの生産技術開発に着手したが、安定収量が見込めるサトウキビの方が原料に適していると判断し、広瀬工場(愛知県豊田市)内にサトウキビからBP原料を抽出する施設(年間生産量1000トン)をこのほど建設。今春から量産化へ向けた実証試験に入る。

 豪州の工場はこれを商業ベースにのせるのが目的。計画によると、建設場所は北東部のクイーンズランド州で、年産は当初5万トンを想定している。

 BPの世界市場は現在、年産2万トン強だが、プラスチック消費量の5分の1がBPに置き換わるとされる2020年にトヨタは3000万トンに急拡大すると推測。そのうちトヨタは2000万トンを生産し、5兆円を売り上げる計画だ。

 <バイオプラスチック(BP)>  微生物によって分解するプラスチックで、生分解性プラスチックとも呼ばれる。サトウキビやサツマイモから抽出したでんぷんや糖質を基に精製したポリ乳酸に、他の天然素材などを混ぜるなどして製品化する。従来のプラスチックは燃やすと猛毒のダイオキシンを出すが、BPは燃やしてもダイオキシンは発生せず、捨てても水と二酸化炭素(CO2)に分解されるだけ。

植物原料由来のポリ乳酸を始めとするバイオプラスチック(生分解性プラスチック)については、このブログでも何度か取り上げて議論している。(難燃性バイオプラPCソニーの植物原料樹脂旭化成の生分解性ラップポリ乳酸は処理が簡単?

正月のニュースだから、景気良くアドバルーンを上げただけかと思いきや、トヨタ自動車のサイトの、バイオ・緑化事業というページや、Special Story という資料にも、トヨタだけで数量 2000万トン、売上 5兆円と書かれているから、必ずしも夢物語ではなく、結構本気のようだ。

それにしても、この数量は途方もない数字だ。何しろ、日本のトップクラスの総合化学企業グループは、それぞれとんでもなく多くの製品を作っているけど、それでも各グループの連結売上高は 2兆円にも届かない。Fortune のランキングを紹介している、ここ によると世界最大の化学会社、BASFでさえ売上は300億ドル(約3.2兆円)に過ぎないのだ。

あるいは日本の主要プラスチックで見てみると、ポリエチレンポリプロピレンポリ塩化ビニルの出荷量は、それぞれ200~300万トンに過ぎないのだ。(日本のエチレンおよびプロピレン生産量はそれぞれ約750万トンと約500万トンだから、そんなものだろう。先のトヨタの資料の中では、日本のプラスチックの総需要量を1400万トンとしている。)

2020年にプラスチックの5分の1がバイオプラスチックに置き換わり、その量が3000万トンということは、その時点でのプラスチックの全量は1億5000万トンということになる。現時点では世界のエチレン生産量が1億トン程度だが、今後どの程度伸びるのだろうか。。経済産業省の資料は、現在の世界のエチレン・プロピレン系の生産量を見るのには役立つが、2008年までの短期予想なので、その先については不明だ。

ちなみにこちらの予測では、バイオプラスチックの世界全体の潜在的需要として1000万トン程度と予測している。数千万トンという量は、プラスチックの世界では非常に大きな影響力を持つ数値だが、農業生産全体からみると微々たる量ということのようだ。

それにしても、1社が 1種類のプラスチックを 2000万トン、5兆円も売るというのは、やっぱりとんでもないことなのである。もし、そんな事態になれば、世界の既存の樹脂原料産業の構造はガラリと変わってしまうだろう。その原料であるエチレン・プロピレンは当然、大量に余ってしまうだろうし、いわゆる石化コンビナートは多くの品目のバランスの上で資源・エネルギー効率を最適化してきたので、そのバランスが大きく崩れてしまう恐れもある。。 もちろん、それが地球環境のためになるならば、そういう流れがあっても良いのだけれど。

今のところ、特にこのニュースに対して大きな反響が見当たらない所を見ると、関係者は本気とは捉えていないのかもしれないし、あるいは違うストーリーを思い描いているのかもしれない。

それにしても、そんなにバイオプラスチックばかりにしてどうする?? もしもトヨタ自動車が、産業構造に大転換を起こすようなそんな大掛かりな構想を本気で考えているのであれば、何故バイオプラスチックなのかをきちんと説明する必要があるだろう。トータルの環境への影響や、産業構造への影響などを定量的に説明するべきだと思う。少なくとも

バイオプラスチックは、従来のプラスチックと同じ機能を持ち、使用後は土壌中の微生物によって分解される材料です。分解が進みにくい従来のプラスチックからの置き換えが可能なことから、今後の飛躍的な成長が見込まれています。また、二酸化炭素を吸収して成長する植物を原料にしているため、ライフサイクル全体でみても製造に要するエネルギー消費を除けば二酸化炭素を発生することがありません。
という説明ではまるで説得力がないだろう。(製造に要するエネルギー消費はどれだけなの??) 

様々な樹脂の一つとしてバイオプラスチックが適した用途もあるだろうとは思うし、全面的に否定するつもりはないのだが、これだけ大々的に展開するというのであれば、せめてここのブログの旭化成の生分解性ラップでも議論した「バイオプラスチックは本当に環境へのインパクトが小さいのか?」という疑問には答えて欲しいものだ。

これに関連して、立花証券の月報にトヨタ自動車が"化学会社"になる?という記事が掲載されており、他社のバイオプラスチック関連の動きも簡単にまとめられている。

*それにしても、冒頭の中日新聞だが

従来のプラスチックは燃やすと猛毒のダイオキシンを出すが、BPは燃やしてもダイオキシンは発生せず、捨てても水と二酸化炭素(CO2)に分解されるだけ。
なんてことをいまだに書く記者がいるのには驚かされる。何だかなあ。。

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