「世間のウソ」
実は著者のメールマガジン、ガッキィファイター(有料)を購読している。TBSラジオのサイエンス・サイトークというトーク番組の内容が、新潮OH!文庫から3冊出ており(番組は続いているけど、刊行は止まってしまっているのが残念)、著者とはこのシリーズで出会った。著者はもともと文系なのだが、このトーク番組では科学の専門家との対談が、非常に科学的なレベルで成立しているのが印象的で、中西準子さんとも対談している。一方ダイオキシン騒ぎの時に、その虚構をいち早く見抜いた(「文藝春秋」1998年10月号)ことや、「週刊金曜日」や「買ってはいけない」に対して終始論理的に反論してきたことでも一部では有名だ。
新潮新書 099
世間のウソ
日垣 隆 著 bk1、amazon
本書はかなり良く売れているそうだ。有料メルマガの読者なので、頼めば著者直筆サイン入りの本を入手することもできたようだが、普通に書店で初版を購入した。
毎週のメルマガで見たような話題がほとんどなので、新鮮味はないが、まとまっていることはありがたい。我々が日頃なんとなく「そんなもんだ」と思っていることの根拠がかなり危ういものであることや、日々のニュースに関しても、その裏側を常に意識して受け取らないといけないことを痛感させられる。
といっても、本書は別に誰かの陰謀を暴くことを主眼としたわけではなく、あくまでも、物の見方を少し変えてみると世の中が違って見えるよ、ということを多くの実例をもとに教えてくれるものだ。まあ、いわゆるメディアリテラシーの一つとして多くの人がこのような物の見方を身につけていることが望ましいのだろうと思われるが、著者もまえがきで書いているように、副作用として多少皮肉っぽくなるという問題がありそうだ。
第一章がリスクをめぐるウソ、第二章が事件をめぐるウソ、第三章が子どもをめぐるウソ、第四章が値段をめぐるウソ、第五章が制度をめぐるウソ、ということで全部で15のテーマについて述べられているのだが、残念ながらそれぞれの話題についての突込みが分量の制約なのか浅い傾向があるので、例題として見る分には良いのだが、個々の話題について深く知りたい向きには消化不良気味だろう。
それでも、日々のマスコミ報道に何となく違和感を覚えるようなケース、たとえば、少年犯罪対策として生きる大切さを教えることが本当に有効なのか、有名人の実名報道は行き過ぎていないか、児童虐待は本当に増えているのか、などのテーマにズバリと切り込んでくれていて、考えるきっかけを提供してくれていると思えば許せるだろう。
鳥インフルエンザ問題についても、これをベースとする新型インフルエンザでの世界中の死者を数億人とする科学者たちの予測は恫喝レベルだという著者の主張には、ある程度は同意したいと思うが、あまり軽視するのも逆に危険だと感じさせられた。それはともかく、鳥インフルエンザ騒動のさなかに、ハトやカラスが死んでいたというだけで連日全国ニュースになっているのが異常だと感じるセンスや、この件での日本での直接の死亡者は自殺した養鶏場の経営者だけだったという、極めて皮肉で不幸な事態であったことに気付かせてくれることがすごい。だからこそ、お金を払ってまでメルマガを読む気にさせられるのだ。
これらの問題への著者のスタンスを見ると、まず全体像を捉えることに努め、たとえ専門家が数字を根拠に主張しても、素人なりに別の数値を調べだし、これと比較検討し、何が真実なのかを追求しようとする、非常にシンプルだが素人にはなかなか困難な方法論を貫く姿勢が見られる。
もう一つ重要なのは、著者のこれらの主張が、決して後から冷静になって見直してみたらこうだった、というような後出しジャンケンになっていない点だと思う。毎週有料のメルマガが送られてくるのでわかる(証拠が残っている)のだが、著者は鳥インフルエンザ問題の真っ最中だとか、少年の犯罪事件が起こった直後に、ほぼこの本に書かれているような主張を正々堂々としているのだ。よっぽど洞察力に優れるか、それともとんでもない頑固者か、どちらなのだろうか。
もちろん著者の主張が全て正しいとは思わないし、あくまでもこういう見方もできますよ、という一例として捉えるべきだろうが、それでも、終始一貫して筋の通った見方ができるようになるためには相当に修羅場をくぐってきたのだろうし、これに対して批判するのであれば、覚悟してきちんと論理的に行わないと相手にしてもらえそうもない。
ともかくも、本書はあれよあれよいう間に読み終えられる。それだけ面白いとも言えるのだが、実は新潮新書はページ当たりの文字数が少なすぎるのではないか?
ということで、手元の各社の新書の1ページの文字数を数えてみた(暇やな~。。)結果を以下に比較して示すが、直感はやっぱり正しかったようで、新潮新書が一番文字数が少なかった。
*あくまでも手元の数冊をざっと見た限りであり、同じシリーズでも本や時期により異なる可能性もある。
岩波新書 42文字×15行=630文字/ページ
岩波アクティブ新書 40文字×14行=560文字/ページ
岩波ジュニア新書 41文字×15行=615文字/ページ
角川oneテーマ21 41文字×16行=656文字/ページ
講談社現代新書 40文字×16行=640文字/ページ
講談社α新書 43文字×16行=688文字/ページ
講談社BLUE BACKS 43文字×15~17行=645~731文字/ページ
新潮新書 39文字×14行=546文字/ページ
集英社新書 42文字×16行=672文字/ページ
宝島社新書 40文字×15行=600文字/ページ
ちくま新書 40文字×16行=640文字/ページ
中公新書 41文字×15行=615文字/ページ
中公新書ラクレ 41文字×16行=656文字/ページ
文春新書 42文字×16行=672文字/ページ
洋泉社新書 41文字×15行=615文字/ページ
丸善ライブラリー 42文字×15行=630文字/ページ
NHK出版生活人新書 41文字×15行=615文字/ページ
PHP新書 41文字×15行=615文字/ページ
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コメント
「週刊金曜日」も売れていますよ! 私の使っている「マイプレス」の管理人は、本多先生マンセーです。
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/
「ヒロさん日記」遊びにきてください。
投稿: Hiro-san | 2005/02/25 06:59
Hiro-san、コメントありがとうございます。私自身は週刊金曜日を直接読んだことはないのですが、確固たるファンを獲得しているようですね。
投稿: tf2 | 2005/02/25 19:00