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2005/03/02

質量の定義とアボガドロ定数

Wired News(2/26)の記事。100年ぶりに変わるか? 「キログラム」の定義

 数人の科学者による提案が通れば、約2.2ポンドの金属の塊である国際キログラム原器は、間もなく時代遅れになるだろう。

 メートルを含む他の6種類の基本単位と同じく、キログラムの定義も、普遍定数に基づいた新しい定義へと移行される可能性がある。キログラムは長い間、国際キログラム原器の質量と同一であるとされてきた。

 キログラムを物理的なモデルで定義することから、相応する定数に切り替えようという作業は、およそ25年間にわたって行なわれている。2月28日に発表される論文では、アボガドロ定数とプランク定数という有名な2つの普遍定数のいずれかの値を定めることで、キログラムを再定義することが提案されている。前者は、質量数12の炭素0.012kgに含まれる原子の数を指し、後者は、量子――電磁エネルギーの最小単位――の大きさを説明するために使用されている。

 1889年に開催された第1回『国際度量衡総会』で、白金・イリジウム合金の円柱が、キログラムを定義する国際基準であると宣言された。この円柱はフランスの国際度量衡局(BIPM)に保管され、数個の複製が世界各国に配られている。(後略)

普段は気にもしないが、なるほど、質量は未だに実物のキログラム原器で定義されているんだな。ちなみにウィキペディアによると、国際キログラム原器は1870年代に作られたとのことで、それはこんな奴のようだ。他の時間や長さの単位の定義は無用の便覧のSI単位の定義がコンパクトにまとまっている。

ふむ。新しく採用されそうな質量の定義はアボガドロ定数かプランク定数をベースにしてキログラムを再定義するということらしい。ちなみにモルの定義を見ると「0.012キログラムの炭素12の中に存在する原子の数と等しい数の要素粒子を含む系の物質量」とあるから、今はアボガドロ定数は質量をベースに決めているのだが、今度はこれを逆にしようということらしい。

*SI単位におけるモルの取扱いは専門的にはややこしい議論もあるようだ。

さて、この新しい質量の定義に関する論文は、Metrologia 42(2005) 71-80で全文が手に入る。なかなか難しいのだが、プランク定数の方はよくわからないので、アボガドロ定数に関してのところを読むと、欠陥の極めて少ない純粋なシリコンの単結晶を用いてX線回折によって格子定数を求め、ここからアボガドロ定数を既知として質量を定義しようということらしい。

もっとも、プランク定数の場合もアボガドロ定数の場合も、要求される質量の精度である10のマイナス8乗に対して現時点では1~2桁精度が悪いようで、それが問題なのだが、この論文の著者はそれでも質量の定義は変えたほうがメリットが多いと述べているようだ。

ちなみにこの論文のAppendixによると、現時点で最も確からしいプランク定数とアボガドロ定数は
  プランク定数 :6.626069311×10-34
  アボガドロ定数:6.022141527×1023
というところらしい。ウィキペディアにはマイナス8乗の精度で測定できると書かれているが、ここの数字とは8桁目で異なっているから、やはりそんなに精度は高くなさそうだ。

さらに調べてみると、日本分析化学会の雑誌「ぶんせき」のアボガドロ定数はどこまで求まっているかという記事が、アボガドロ定数やプランク定数の測定法の解説と質量の定義を変える話にも触れていて、わかりやすい。

ん?? アボガドロ数は6.023×1023と記憶していたような気がしたので調べてみると、確かにかなり古い本には 6.0225×1023と書かれていた。。("アボガドロ 6.023"で検索すると、大学のページも含めていくつかヒットする。。)

*そもそも「アボガドロ数」と「アボガドロ定数」は違うのかどうか? というのは、化学の広場で話題になっているが、結論がよくわからないままのように見える。。

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コメント

CNN.co.jpに面白い?ニュースが掲載されている。http://www.cnn.co.jp/science/CNN200709130016.html">「国際キログラム原器」が謎の減量50マイクログラム

パリ──フランス・パリ郊外のセーブルにある国際度量衡局で、厳重に管理・保管されている1キログラムの標準器「国際キログラム原器」が、50マイクログラム(μg)軽くなっていることが判明した。同時に作られた複製品には変化がなく、質量が変化した理由も見当が付かず、研究者らが困惑している。(中略)

国際度量衡局の物理学者リチャード・デイビス氏は、「同じ時期に同じ材料から作られ、同じ条件で保管している複製には変化がなく、納得のいく説明がつかない」と話す。

国際度量衡局に保管されている原器は、3重に鍵がかかった金庫の中にあり、ほとんど外に出されることはない。定期的に、世界各地で保管されている公式複製と比較する場合のみ、金庫の外へ出される。

「国際キログラム原器」の質量が変化したことについて、ドイツ計量標準当局のミヒャエル・ボリス研究員も、「原器が軽くなったのか、公式複製が重くなったのか、はっきりしていない」と原因をつかめない様子だ。

ということで、質量の大元締めのキログラム原器と、その複製品との質量に50マイクログラムの差が出たようだ。前回比較したのがいつなのか書かれていないが、ちょっと面白いミステリーではある。

現時点ではどういう観測結果が得られたのかが不明なので、よくわからないが、普通に考えれば、勝手に軽くなるとは思えないから、複製品が何らかの理由で重くなったのではないか? と思うのだが。。 もっとも、複製品の質量をチェックするための測定器(天秤)や、それをさらにチェックする測定器などがすべて同時に同程度ずれるというのも考えにくい事態だろうし。。 

とはいえ、質量の定義から言えば、原器が軽くなったなんてことはないはずで、複製品が重くなったと判断するしかないのでは? こういう時にはどうするのかが予め決められていると思うのだが。

いずれにしても、これでシリコンの単結晶を使用した定義に移行しようという議論が活発になる可能性が高いのだろうな。

投稿: tf2 | 2007/09/13 19:55

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