« エクステンド2005 | トップページ | 「進化しすぎた脳」 »

2005/03/16

健康食品のナノサイズカプセル化

産総研のプレス・リリース(3/15)。食品素材の「ナノサイズ」カプセル化技術を開発

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境化学技術研究部門【部門長 島田 広道】は、株式会社 沖縄発酵化学【代表取締役社長 山里 秀夫】(以下「沖縄発酵化学」という)と共同で、食品素材をナノサイズで封入、包装が可能な、新しいカプセル化技術の開発に成功した。

 本技術によれば、食品の有効成分の体内での安定性や吸収率等が大きく改善されるため、少量の摂取でもより大きな効果が期待できる。健康食品素材の場合、従来の製品に比べ、有効成分の量が半分から6分の1以下でも同様の効果が得られることが検証されている。本技術は加工プロセスも簡便であることから、今後は安価で高機能な健康食品の開発が期待される。
(中略)
食品分野へのナノサイズでのカプセル化技術の導入のため、今回の研究開発では、まず安価な食品素材からカプセル化材料を探索し、リン脂質を選定した。ある種のリン脂質は、特定の条件下で、自発的に集合・配列してカプセル状の構造を作ることが知られている。この特性を活用した混合技術を独自に考案し、ナノサイズでのカプセル調製と、カプセル内への有効成分の封入を同時に達成した。

 本技術によれば、有効成分の多くを100~500 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)サイズのカプセルに覆うことが可能で、カプセルで保護されているため、有効成分が胃で分解を受けにくい。また、カプセルのサイズが非常に小さいため、腸からの吸収率も高くなる。ウコン抽出エキス(主な有効成分:クルクミン)をナノサイズでカプセル化した場合、胃酸や膵液による有効成分の分解が抑制され、従来の製品に比べ、2倍近い有効成分の残存率であることがわかった。また、アガリクス抽出エキス(主な有効成分:β-グルカン)をナノサイズでカプセル化した場合、従来の製品に比べ、有効成分の量が半分から6分の1以下でも、同様の抗腫瘍効果があることが、動物試験から確認されている。
(後略)

というものだが、ナノテクノロジーが流行しているおかげで、これもサイズはサブミクロンというところだが、ナノサイズと呼ぶようだ。さて、このリリースによると、このカプセル化技術はリン脂質と閉じ込めたい物質を特定条件で攪拌混合するだけらしく、工業化も容易だと書かれている。実際に、きれいな球状カプセルの電子顕微鏡写真が載っている。

リン脂質のカプセルに包まれたことで、胃酸や膵液で分解されにくく、かつ腸で吸収されやすくなったということで、良いことずくめのようだ。例としてあげられているのがウコンの有効成分であるクルクミン。従来は胃で半分程度が分解していたが、このカプセル化により残存率が90%程度に増加したそうだ。しかし、カプセルが壊れずに腸まで到達したとして、そこでそのまま吸収されるものだろうか? 模式図では数百ナノメートルのカプセルのまま腸で吸収されるような絵になっているのだが。。

胃酸で分解されるのは生物が作り上げた防御システムの一つだろうし、この障壁をカプセル化ですりぬけるというのは、うまく利用すると確かに有効なのだろうけど、逆にいうと有害成分も防御システムをすり抜けてしまうことを意味しているのではないだろうか?

それにこの方法は、人体に対して有益な効果だけが都合よく効率アップするわけではなく、副作用などのネガティブな効果も増幅されると考えた方がよさそうだ。きちんと検証され、摂取量も厳密にコントロールされる医薬品ならともかくも、現在の健康食品の作られ方や売られ方を見ると、この技術がこの分野に広く応用されるのは何となく危険な印象もないではない。

例えばウコンについては、「健康食品」の安全性・有効性情報によると、

アキウコンは、俗に「肝臓の機能を高める」といわれ、消化不良に対しては一部にヒトでの有効性が示唆されているが、信頼できるデータは十分ではない。ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)は、アキウコンの消化機能不全への使用を承認している。安全性については、通常食事中に含まれる量の摂取であれば、恐らく安全と思われるが、過剰または長期摂取では消化管障害を起こすことがある。アキウコンは胃潰瘍または胃酸過多、胆道閉鎖症の人には禁忌とされ、胆石の人は医師に相談する必要がある。
ということで、実は健康への効果も信頼性は不十分なようだし、マウスへの投与ではむしろ肝毒性も見られるようで、当然のことながら、多量に吸収すれば良いというものではなさそうだ。ということで、このカプセル化技術の効果が発表の通りに2~6倍もあるのだとしても、摂り過ぎは危険な場合もあるようだから注意すべきだろう。

この技術については、地元沖縄で報道されており、3/16の沖縄タイムスには、沖縄発酵化学が健康食品開発という記事が掲載されている。ところが皮肉なことにと言うか、健全なことにと言うべきか、同じ沖縄タイムスにはその前日、ウコン摂取上の注意促す/リスク表示で指針案という記事が掲載されており、沖縄県の健康食品産業協議会のウコン分科会が、摂取上の注意として「本品は多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません」など5項目の表示を決めたという記事が載っている。。

なお、株式会社 沖縄発酵化学は、いわゆる健康食品に特化した会社のようで、長寿県沖縄のイメージを活用し、オリジナリティのある色んな製品を生み出しているようだ。

|

« エクステンド2005 | トップページ | 「進化しすぎた脳」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 健康食品のナノサイズカプセル化:

« エクステンド2005 | トップページ | 「進化しすぎた脳」 »