「世界最速のF1タイヤ」
早くも今シーズンのF1グランプリでは第2戦まで終了した。先日のマレーシアグランプリではトヨタが初の表彰台に上った一方で、ホンダは2台とも早々にエンジントラブル、王者フェラーリは7位がやっとという状態で、上位陣の顔ぶれも昨年とは大きく変わっており、この世界の技術的な進歩の早さを示しているようだ。そんな中で発売されたのが、今年もブリジストンのF1エンジニアを率いている浜島さんが書いた本書だ。
F1の成績を左右する要素の中でも、タイヤはその影響力が大きい割には目立たないというか、素人にはさっぱりわからない。エンジンはスペックの数字だけでも違いが感じられるし、悪ければ壊れちゃうし、良ければ最高速度や加速の違いとしてわかりやすい。空力も、見た目で違いがわかるし、それなりに解説書もあるし、情報も比較的豊富に手に入る。ところが、タイヤは見た目では違いがわからないくせに、タイムへの影響は相当に大きいらしい。
今回のフェラーリの惨敗も、どうやらタイヤの責任が大きいらしい。(有力チームの中で唯一フェラーリだけが旧型マシンなので、これもわかりにくいのだが。)そんなタイミングで出た本だけに、その秘密の一端でも垣間見れるのを期待して読んでみた。
新潮新書 110
世界最速のF1タイヤ ブリジストン・エンジニアの闘い
浜島 裕英 著、bk1、amazon
本書は著者の浜島さんがブリジストンに入社して、F1に参戦するまでの経緯や、そのF1の現場での日々の闘いの様子、それにF1ドライバやチームの横顔などを紹介している。現在実際にF1に参加してライバルチームとしのぎを削っている状況なので、最新の技術の中身を公開するのはもちろん無理だろう。しかも、超多忙な中で本を書く時間などどこにあったのかと思うのだが、どうやら講演会などで一般の聴衆を相手に話した内容をまとめたもののようだ。
F1の世界での技術開発のスピードは、他の通常の企業内の技術開発とは大きく異なる印象がある。ともかく掛けるお金が桁違いに大きいのだが、それに見合ったスピードと成果を要求される。従来特にエンジンやエアロダイナミクスなどの開発については色々と紹介されていたけど、本書を読むと、タイヤの世界の争いも全く同様に厳しい世界だなということは十分に伝わってくる。
本書の主旨が技術的な中身を解説したり、レースタイヤのイロハを説明したりするものではなく、人間的な面などに焦点を当てたもののようなので仕方ないのだろうけど、もう少し技術面にも触れて欲しかった。。 残念ながらF1についてある程度興味があって知識のある人は、内容的に目新しかったり、今まで不明だった謎が解けたりという、お得感が感じられるような内容はほとんど期待しない方が良いだろう。
最近のタイヤをめぐるレギュレーションの違いや、それにも関わらずラップタイムがどれだけ上がってきたのか、その内タイヤの寄与分はどの程度なのか、といったことはタイヤ開発の熾烈さを示すのに格好の材料だと思うし、是非数値で紹介して欲しかったのだけどなあ。あるいは、基礎的なことだけど、レースタイヤの「ソフト」と「ハード」は何を変えているのかとか、レースタイヤの寿命を延ばすために何をしているのか、などの技術的なトピックというのは、よく聞く話の割にはほとんど詳しい情報が得られないのが実情だから、結構コアなファンにはニーズがあると思えるのだが。
なお、ブリジストンのモータースポーツ情報には、F1に限らず、モータースポーツ関連の各種情報が載っている。今回のマレーシアグランプリ終了後のリリースはまだ掲載されていないが、明らかな惨敗を受けてどんなコメントが掲載され、今後どんな巻き返しをするのか楽しみではある。何しろ成績を盛り返さないと、本書の「世界最速」のタイトルが泣くし。。
| 固定リンク
コメント