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2005/03/08

化学反応で動く油滴

日経新聞夕刊(3/8)に「動く油滴を発見 動力は化学反応」という記事。

 小さな油滴がアメーバのように自発的に階段を上ったり、ぐるっと一回転したり--。生物ではない油滴がまるで生物のように周囲からエネルギーをもらって動く不思議な現象を吉川研一京都大教授らの研究チームが八日までに発見し、米物理学誌フィジカル・レビュー・レターズに発表した。

 洗剤の溶液中での現象で、油滴表面で起きる化学反応が駆動力になっているとみられる。吉川教授は「胃腸や血管の内部に入り込み、周囲の物質からエネルギーをもらって働く、衣料用の微小装置開発につながる可能性もある」と話している。
 チームは吉川教授のほか大学院生の住野豊さんと浜田勉さん、馬籠信之名古屋文理大講師。

 住野さんは「現在の技術では生物のように化学エネルギーから直接運動エネルギーを取り出せない。今回の現象を基に、それができる”化学エンジン”を作りたい」と意気込んでいる。

というもので、紙面には簡単なメカニズムを説明した図が載っているのだが、この説明だけではよくわからない。逆性せっけん分子がガラス基板表面に整然と並んでいて、油滴が「分子に引き寄せられ」、油滴が移動した後の「分子のいなくなったガラス表面が水を好み、油をはじく」という説明、およびその後逆性石けん分子が再び整然と並ぶような記載があるのだが。。

京都大学の吉川研究室で探してみると、この研究を担当した住野さんのページの研究内容に、実際に油滴がステップを登る動画が公開されている。階段を上るだけではなく、周期的に往復運動を繰り返しているのが興味深い。

Phys.Rev.Lett.のアブストラクトはこちらで読めるが、Physical Review Focusに、模式図と解説記事が載っていて、これがお勧めだ。この記事にも動画がリンクされており、ローラーコースターのような垂直の円形の壁をグルッと一回転する様子も納められていて、これまたなかなか衝撃的だ。記事の内容をまとめてみると、(間違っていたらごめんなさい)

 ・最初は界面活性剤分子がガラス基板表面に親水基側を向けて吸着し、疎水基が昆布の群落のように水中に突き出た状態となっている
 ・ヨウ化カリウムを含む油滴が、何らかのきっかけでガラス表面の疎水基を内側に向けて界面活性剤分子を取り込みながら少し移動する
 ・移動した後のガラス表面は界面活性剤分子が失われて親水性となり、結果として油滴をはじく
 ・はじかれた油滴はさらに前方の界面活性剤を取り込んで前進し、後方からは新たに生成する親水性のガラス面によって押される
 ・界面活性剤が剥ぎ取られて親水性となったガラス表面には水中にあるフリーの界面活性剤分子が吸着し、また昆布の群落のような状態に修復される
 ・油滴中に界面活性剤が取り込まれ飽和状態となるまでこの動作が継続する

ということらしい。なかなか面白いし、実際にこの動きを簡単なモデルで説明できるようだ。この運動をさせているエネルギーは何なのだろう? 最初と最後の状態を比べると、界面活性剤が水中に分散している状態から油滴中に取り込まれた状態へと変化しているだけだから、そのエネルギー差(水中にフリーで分散しているよりは油滴と(化学的に)結合した方が確かに安定そうだ)が運動に使われたということだろうか? 化学エネルギーが運動に直接使われるのは珍しいということだが、この手の相互作用で物質自身が移動するというケースは色々とありそうな気もしないではない。。

ただ、これで人体の中で仕事をするナノロボットのような機械に一歩近づいたというようなコメントについては、このままでは運動のコントロールが難しそうだし、最終形がどんなものになるのか想像がつかない部分もあるし、相当に実現までの道のりは遠そうだけどなあ。。

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