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2005/05/13

「バイオマス」

シリーズ「地球と人間の環境を考える」の新刊。このブログでは、今まで
  No.5 エネルギー
  No.7 水と環境
  No.8 ごみ問題とライフスタイル
  No.9 シックハウス
  No.12 これからの環境論

を紹介している。帯には「芋(イモ)からできたプラスチックは、環境にやさしい? いま、注目されるバイオマスの功罪を科学の視点で明らかにする。」とあり、「バイオマス」というと何だか地味な印象があるが、バイオプラスチックに鋭い突っ込みを入れている本のようだ。

シリーズ 地球と人間の環境を考える 10
 バイオマス 誤解と希望
 奥 彬 bk1amazon

著者は有機合成の専門家のようだが、プラスチックリサイクル関係に深く関わっている立場らしい。今はプラスチックのケミカルリサイクルに取り組んでいるらしく、本書の中でもPETやポリカーボネートのモノマーへのケミカルリサイクルについては、比較的高い評価を与えている。それはともかく、本書が主張することはかなり明確だ。

一つは、生物由来プラスチック(BBP)がカーボンニュートラルの考え方からみて優れているとしても、それを使い捨てるような使い方は却って環境に対して悪影響が出る。その理由としては、植物や動物を育てるためにも化石エネルギーを多量に使用していること、それをプラスチックにする過程では石油由来プラスチック以上のエネルギーを使用すること、さらに生分解性プラスチック(BDP)として、使い捨てやポイ捨てを許容もしくは奨励するかのような風潮は、結局エネルギーや資源を無駄使いするライフスタイルを助長するだけであることを挙げている。

二つ目は、地球温暖化対策として、短期的な炭素収支の有利さから、単年性の植物(ケナフ、イモ、トウモロコシなど)を育てる傾向が見られるが、長期的視点に立って森林の回復を行うべきであること。これは、単年性植物を育てるためには、多大なエネルギー、労力や肥料などが必要で、カーボンニュートラルとはならないことや、さらに土地が徐々に痩せ、いずれは荒廃する恐れがあることなどを理由としている。

このブログでも、生分解性プラスチックが地球温暖化対策として高く評価されている最近の傾向に疑問を投げかけてきた。

  難燃性バイオプラPC
  ソニーの植物原料樹脂
  旭化成の生分解性ラップ
  ポリ乳酸は処理が簡単?
  トヨタがバイオプラスチックに本格参入?

マスコミでは、何故かこれらについて、ほとんど批判的なことは書かれないので、ちょっと自分の判断に自信を失いかけていたところだったが、本書は強い味方が現れたという感じである。さすがに会社名はTとかSとかイニシャルになっているが、沢山の具体例をあげてコメントしている。多くの製品例に対して、製品の回収・分別・リサイクルを進めるのが本筋なのに、生分解性を免罪符とし、さらにそれを宣伝文句として使いながら、実際には環境に対してむしろ有害でさえあると厳しく批判している。

また、開催中の愛・地球博の会場で生分解性プラスチックの食器を採用し、これを堆肥化していることについても、これでは一度限りの使いきりであり、どこが環境に優しいのか? と疑問を投げかけている。何度も回収・再利用するのが、環境への負荷を考えた使い方であることは間違いないだろう。

ただし、本書の主張は、議論のたたき台としては非常に有効だと思うし、最終的な結論も一部を除いて納得がいくのだが、途中の論理にはやや問題があるように感じる。というのは、科学的な話と倫理的な話がごっちゃに扱われたり、対象となる問題のタイムスケールが長短混ざり合って混乱している部分があるように思うのだ。

出てくる数字も、自分に都合の良いところだけ持ってきているような印象もある。細かな部分は数値で議論している一方で、著者が提案する持続可能性のある生活に関しては、地球全体でのカーボンバランスがどうなってるのか何も数字が出てこない。現在の石油の用途は、プラスチックに使われる分よりもエネルギー資源として使用されるのが圧倒的に多いのだから、その視点を欠いてしまうと、何だか話がおかしくなってしまうように思う。

本書では、プラスチックを焼却処理して熱エネルギーを回収したり、土に戻してCO2にしたりするのは、最終手段であり、石油由来もバイオ由来も含めて、プラスチックをリユース→リサイクル→マテリアルリサイクル→ケミカルリサイクルと骨までしゃぶりつくすべきだという主張である。これ自身間違っていないのだが、残念ながら、このブログのコメント部分で議論したような、むしろバイオ資源は下手にプラスチックにせずにエネルギー源としてしまう方が効率的ではないか?というような話は出てこない。

本書を読み終えても、結局のところ、どんなバイオ資源をどのように、食料、プラスチック原料、およびエネルギー資源として使用していくのが望ましい姿なのか、については余り語られていないため、全体像をつかもうとしてもやや欲求不満気味ではある。。

ところで、本書では、以下の生分解性プラスチックの使用例に著者が評価を下しているのだが、それぞれ、○か×か、またその理由は何かわかるだろうか? 

  1. 魚網
  2. 疑似餌と釣り糸
  3. 農業用マルチシートとハウス栽培用シート
  4. 生鮮野菜、魚介類の保冷箱
  5. パソコンの筐体
  6. CD
  7. 包装フィルム
  8. 食品用ラップフィルム
  9. レジ袋
 10. 使い捨て食器、食品トレイ
 11. 生ごみ袋
 12. おむつ
 13. 生分解性繊維製品
 14. 自動車部品

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コメント

奧先生とは何年か前に仕事でご一緒したことがあり,その時からある印象を持っていますので,少しコメント.
基本的に“もったいない”がベースというか,最優先,という感じで,そのためにはトータル最適,とかはあまり眼中にない.それはそれで悪いというのでなく,皆が“もったいない”主義者になって,かつまっとうな判断をするようになればそれが一番いいのですから.
プラスチックのケミカルリサイクルも,今1500万tつくられて1000万tが廃棄されている、この状態で燃やすのを容認すべきでない、というのがあって,例えば廃棄分を1000万から500万→200万と下げ(そのためには使い方の抜本的改善が必須),その分をエネルギー回収(単純焼却はNo!)するなら構わないのでは,と酒の上ですが意見は一致したように思います.(もしかして当方だけの独り合点で先生はNoというかもしれませんが)
で,ケミカルリサイクル,というのも作った化学関係者の責任を感じて,ではないでしょうか? 純効率的には,どうせ9割は燃やされてしまう化石資源のエネルギー利用の代替にしても変わるところはないし,特定種類の(廃棄)ポリマーの選別は実際上不可能,なのは認めざるをえないのですから
バイオマスに関していえば,世の中で真剣にバイオマスをという人はほとんどエネルギー転換派だと思います,その理由は桁が全然違うからで,エネルギーであれば数百万t~億の単位が対象ですが,化学品など高々数万とか数十万t,とかホントにニッチの話でしかない場合が多いから.だからそんなに心配しなくても,バイオマスはエネルギー源として使われていって,化学品用に回ってくる分などあったとしてもごくわずかでしょう.
なお,効率を無視して建設された廃プラ油化プラントはずっと優る高炉/コークス化に蹴られて,原料入手できずつぶれています(昔ドイツ,そのあと日本で繰り返された)が,それと同じ構図が起こるだけではないか? 最終的にそれで悲しいのは開発費用を負担した人間・企業(税金なら国民も!)で,開発者自身は仕事はできるのでさほど悲しくはないし,当座は技術のPRもおこたりなく実施する,というのが現状でしょう.中西先生のおっしゃるごとく,自らの仕事をつぶす方向を積極的に主張する科学者・技術者というのはほとんどいないので.(バイオプラに関しては安井先生からは冷ややかな視線が投げかけられていますが)
奧先生に話を戻しますと,今全然使われていない,零点だ,としますと,“もったいない”理論だと少しでも使えば50点,でずっといいじゃないか,かもしれません.エネルギーにしてしまう方が多分高得点,というのは最初の零点からの脱却に比べてインパクトが弱く見えるかも知れませんね.でもこのサイトの論法,決してメジャーデビューしている訳ではないので,比較検討してどちらを採択して,と一般に可能というわけでは全然ない.もう一度,お酒でも飲みながらゆっくり先生とこんな議論もしてみたいものです.

投稿: KS | 2005/05/24 20:24

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