« 4月の天気予報の傾向 | トップページ | ココログ16か月 »

2005/05/06

「光触媒とはなにか」

最近は、光触媒という言葉も随分と一般的になり、色々な用途で様々な製品に実用化されている。しかし、その一方で本当に光触媒機能を発揮するのかどうか、さすがにウソじゃないのと思うようなケースも見られるように思う。もっとも、このブログでも関連するコメントを書いたりしている割には、実は光触媒についてきちんと書いてある本を読んだことはなかった。

本書はサブタイトルが「21世紀のキーテクノロジーを基本から理解する」となっており、触媒について、光励起について、光触媒について、ホンダ・フジシマ効果についての説明にそれぞれ1章ずつを割いており、正に光触媒を理解するための基本的な知識をきちんと説明しているように思える。

講談社 BLUE BACKS
 光触媒とはなにか
 佐藤 しんり 著 bk1amazon

著者の佐藤しんり氏は、1978年から光触媒の研究をしてきたこの道の専門家。サトシンの光触媒のページを開設しており、ここでも一般向けのわかりやすい説明が展開されている。

本書では、酸化チタン光触媒の反応機構としてよく使われる「ヒドロキシラジカル」による酸化反応機構を明確に否定している。それが証拠に水がなくて酸化反応が進むこと、さらに水が存在しても反応が促進されないことを指摘した上で、この反応は「原子状酸素」によるものであるということを、他にも具体的な証拠を上げて説明している。

そもそも、酸化チタンの光触媒反応にヒドロキシラジカルが関与しているという「誤解」のルーツは、著者の調査によると 1995年にカリフォルニア工科大学のホフマン教授らの書いた総説らしい。

本書では、光触媒による酸化反応のメカニズムを丁寧に説明するだけでなく、通常の触媒反応との違いを踏まえて、その研究の難しさや、それ故に巷に蔓延している誤解についても解説している。説明は非常にわかりやすい部分と、妙に専門的で具体的な説明を省略した部分が同居しているようで、何度か読み返してみる必要のある部分もないではないが、総じて信頼できる本と言えるのではないだろうか。

例えば、現在の酸化チタン系の光触媒が実際に反応させることのできる量は決して多くはなく、これを塗布したパネルで表面の汚れを除去するような用途には非常に有効ではあるが、大量の大気を浄化するような応用は最初から無理であることや、当然のことながら、魔法のように都合のよい反応を起こすような特別なものではないことも指摘されている。

一方で、超親水性と光酸化反応を活かすことによって、非常に効果的な応用がなされているのは事実であるし、今後ますます応用が進んでいくだろう。しかし、メカニズムが完全に解明されていないという現状につけ込むかのように、事実をベースにした怪しい理論的仮説に基づいた怪しい製品が出回っていたりするので、理論の面でも製品の面でも、本物と偽物の区別をきちんとする必要があるようだ。

また、本書を読んで初めて知ったのだが、いわゆるホンダ・フジシマ効果(光による水の電気分解)を個々の触媒粒子で実現させたとも言える「光電気化学型光触媒」と呼ばれるものがある。具体的には白金つき酸化チタン光触媒がその実例で、粉末を水に濡らして光を当てると、本当に水が電気分解されて、水素と酸素が出てくるようだ。これは実に面白い発想だと思う。もっとも、現実には色々な制約もあって、実用的に使えるレベルにはならないようだが。。

|

« 4月の天気予報の傾向 | トップページ | ココログ16か月 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「光触媒とはなにか」:

» 光が当たるだけで抗菌消臭する光触媒ストッキング(アツギ) [新商品ログ〜企業発表から]
アツギは、光が当たるだけで抗菌、消臭する光触媒ストッキングを発表した。 最近よく聞く「光触媒」。 マイナスイオンみたいに名前先行、イメージ先行の感があって、本当に科学的に意味のあるものなのか? とむくむく疑問が湧いてきたので軽く検索してみた。 ちなみに、マイ..... [続きを読む]

受信: 2005/05/15 09:29

« 4月の天気予報の傾向 | トップページ | ココログ16か月 »