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2005/07/07

エリスリトールによる蓄熱と熱輸送

nikkei.bp(7/6)の記事。神戸製鋼、トラックと蓄熱装置によるエネルギー輸送技術を開発

神鋼環境ソリューションと神戸製鋼所は、製鉄所や工場、ごみ焼却所などで発生する中・低温域(200℃以下)の排熱を熱エネルギーとして蓄熱装置に蓄え、トラックで遠隔地に輸送する技術を開発した。輸送先で90℃以上の高温水として再利用できる上、パイプラインなどインフラ整備も不要。こうした廃熱利用形態は「世界初」(両社)という。暖房用途のほか、市販の吸収式冷凍機と組み合わせることで、冷房用のエネルギとしても使える。

蓄熱装置の蓄熱材には、単位質量当たりの蓄熱量が76kcal/kgと高いエリスリトールを採用。熱エネルギを伝達する熱媒体(熱媒油)と蓄熱材との熱交換を直接接触式としたことで、蓄熱装置の伝熱効率や充填効率が良くなり、装置を小型化できた。

記事のタイトルだけだと何のことだか良くわからなかったのだが、事業所で発生する中低温の排熱を蓄熱してトラックで遠隔地に輸送するということで、面白い発想である。単位質量当たりの蓄熱量ってのは何で決まるんだろう?

探してみたら、日経新聞のプレスリリースにCO2排出削減に貢献する熱エネルギー輸送技術についてというリリースが載っている。

 既に欧州では、酢酸ナトリウム(融解潜熱:63kcal/kg、融点温度58℃)を蓄熱材として使用した熱エネルギー輸送技術が実用化されています。
このたび両社は、
1)単位質量当たりの蓄熱量が大きく(融解潜熱:76kcal/kg)、高い融点温度(119℃)を持つエリスリトールを蓄熱材として使用。
2)蓄熱装置に独自開発の特殊構造(特許出願中)を採用。蓄熱材に、熱エネルギーを伝える熱媒体(熱媒油)との熱交換に、直接接触式の採用を可能としたことで、蓄熱装置内の伝熱効率・充填効率が高くなり、従来比で30%小型化。
などにより、熱エネルギーの輸送効率を向上させました。
ということで、融点と融解潜熱がポイントとなるようだ。このページの末尾に添付されている概念図を見ると、熱発生場所で140℃の熱媒を回してエリスリトールを融解させ、溶融状態のままエリスリトールを輸送し、熱利用場所で熱媒を回すことでエリスリトールを凝固させ、奪い取った熱を使用するというシステムだ。いわゆる温度差(顕熱)だけでは貯蔵できる熱量は大したことがないから、潜熱を利用するわけだ。ということで、使用温度範囲で相変化が起こり、その潜熱および比熱が大きいものほど有利ということのようだ。

熱の輸送ということでは、氷や雪を運ぶってのは聞いたことがあったけど、従来あまり有効に利用されていなかった低温排熱をこうやって使うってのは面白い発想だ。

エリスリトールと言えばノンカロリーの甘味料として有名な糖アルコールであり、その性質はC☆Eridexに詳しいが、ここのグラフによると、120℃前後で融解するものの、冷却しても凝固が始まるのは43℃程度となっているけど、大丈夫なのだろうか? 何か添加物を加えて、この辺の特性を調整している可能性はありそうだ。ん? 逆に過冷却を利用して、少々冷えても大丈夫という使い方もありそうだな。。 

それにしても、エリスリトールの意外な使い道だと思って検索してみたら、関西電力のR&D News Kansai(1999)のp25/42に「小電力型業務用給湯システムの開発研究」というレポートが載っており、この中でエリスリトールを蓄熱剤として使用しているから、これを使うこと自身は既に知られていたことらしい。

なお、酢酸ナトリウムを使用したシステムについては、例えば三洋電機など、蓄熱搬送システム「トランスヒートコンテナ」の実証試験などの記事が見つかる。

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コメント

いつも楽しく拝見させていただいております。
廃熱輸送とは面白い発想ですが、輸送するトラックのエンジンで発熱した方が効率がいいんじゃないでしょうか。90度程度の熱湯を作るぐらいなら無駄なのではないかと思ってしまいましたがいかがでしょうか。それよりはわずかでも熱発電素子で発電した方がましではないでしょうか。

投稿: 応援魂 | 2005/07/17 14:05

応援魂さん、コメントありがとうございます。

超大雑把に計算してみましょう。例えば、10tonの蓄熱剤を50km離れた場所に運ぶことを考えてみます。

10tonの蓄熱剤に、潜熱分だけで 76kcal/kg×10000kg= 760Mcalを蓄熱できます。一方、トラックの燃費を3km/Lと仮定すると、往復で使用する燃料(軽油)は約 33Lとなります。

軽油の発熱量は約10940kcal/kg、密度は0.83g/cm3なので、1Lを燃焼させて得られる熱量は、ボイラーの効率を80%として、約 9Mcal。33Lでは 300Mcalを発生できます。

ということで、この仮定では、760Mcalを得るのに300Mcalを使用したことになりますが、もっと近距離の輸送であれば、それなりに意味があると言えるのではないでしょうか? これは、超概略の見積りですが、まあ、エネルギー収支面で意味がないのであれば、さすがにここまで真面目に検討はしないのではないかと思われますし。。

温度差発電とどちらが有効か?というのは、それこそ、熱源の質と量によって、ケースバイケースなのかな、と思いますが、現時点での技術の実現性も加味して判断するとどうなのでしょう? 機会があれば、調べてみたいと思います。

投稿: tf2 | 2005/07/17 19:04

なるほど。さすがに黒字にはなるようになっているのですね。しかし150kmぐらいの距離だと赤字になるのではやはり実用面ではあんまり期待できるような話ではないようですね。
熱差発電は現時点ではあまり進んでいないようですが排ガスを出して輸送するぐらいならこの方がましかな?と思ったのですがどうなんでしょうね。いずれにせよあまる熱を利用したいと思う気持ちはよくわかります。

投稿: 応援魂 | 2005/07/20 18:51

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