「進化する自動車」
タイトルに魅かれて、中身も見ないままにbk1で購入した。岩波科学ライブラリーを購入して読むのも初めて。現在、自動車はその歴史上の大きな転換点に来ているのではないか、と思うのだが、そういう視点からの将来展望が読めるものと期待して読んだのだが。。
岩波科学ライブラリー 107
進化する自動車
原 邦彦 著 bk1、amazon
著者は、デンソーのエレクトロニクス分野の技術者だった方で、専門は半導体デバイスとのこと。どこにも、本書の内容の紹介がないので、目次をリストアップしておくと、
1.自動車の進化ベクトル
安全性向上の進化ベクトル
快適性の進化ベクトル
環境負荷軽減の進化ベクトル
情報化の進化ベクトル
自動車は未来社会の実験場
自動車はロボットになるのか
モータースポーツと自動車の進化
2.自動車にとってエレクトロニクスとは何か
自動車のエレクトロニクス化
急激な進化のまえぶれ
自動車のエレクトロニクス制御の将来
自動車のパワーエレクトロニクス
救世主はシリコンカーバイド半導体
3.自動車を取り巻く環境
交通事故
自動車の普及量
テトラレンマの克服
自動車と地球環境問題
自動車と電気エネルギー
終章 好ましいクルマ社会の実現に向けて
となっている。何となくタイトルから自動車の将来を見据えた本だと思ったのだが、どちらかというと、最近の進歩と現状がメインである。従って、燃料電池車だとか電気自動車の話はほとんど出てこない。第1章の項目を見てもわかるように、安全性や快適性の向上が主な注目点である。これはこれで、現場に近い人の自動車観が見えるようで興味深いものもあるのだが、ちょっと拍子抜けである。
環境関連では、DME燃料を使用した内燃機関と水素燃料の燃料電池について触れている程度だが、特に燃料電池自動車については、水素供給、燃料電池、電気系などの各分野でまだまだ課題が多く、実現はまだまだ先の話、というニュアンス。
安全性向上対策やITS(知的交通システム)などについても、普段まとまった形で目にする機会の少ない分野だが、一通り概観することができる。こうやって一つ一つを見てみると、確かに現在の自動車の持つ幅広い機能には感心させられる。もしも、その一つ一つに値段を付けて積算したら、数百万円という現在の価格には到底収まらないような気もしてくる。
本書でなるほどと思ったのは、自動車のパワーエレクトロニクスの分野の話。あまり話題にならないが、クルマの消費電力がどんどん増大しており、ハイブリッド車ともなると50~120kWにもなるそうだ。これを実現するためには、電源系の高電圧化が必要で、それに伴ってエレクトロニクス系も高電圧化されていく方向らしい。
そこで期待されているのが、シリコンカーバイド系の半導体。これは、バンドギャップがシリコンの3倍、絶縁破壊強度が7倍、熱伝導率が3倍、ということで通電時の損失をシリコンの200分の一に低減できるし、高温動作も可能なので、かなりインパクトが大きいようだ。具体的には、ハイブリッド車用のインバータ、発電機の整流回路などへの搭載が考えられているとのこと。結局、現在はどのレベルにあるのかよくわからなかったけど、これが実用化されることで、総合的な効率はかなり向上するようなので、覚えておこう。
ということで、内容はエレクトロニクスに偏っており、どう見てもタイトルと内容が不一致だと思う。もう一つ気になったのは、これは岩波科学ライブラリーというシリーズの位置づけなのかもしれないが、一般向けにしては専門用語の解説がほとんどないし、専門家向けにしては内容が浅すぎる、という具合で、いかにも中途半端な感じがすることだろうか。。
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