血液から異常プリオンを検出
MSN-Mainichi INTERACTIVE(8/29)の記事から。異常プリオン:生体から検出可能に BSE診断に効果--米研究者が開発
脳がスポンジ状に侵される難病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や牛海綿状脳症(BSE)の病原体「異常プリオン」を、血液中から検出することを可能にする方法を、米テキサス大などの研究者が開発し、28日付の米医学誌「ネイチャー・メディシン」電子版に発表した。極少量の異常プリオンを試験管内で1000万倍に増幅し、従来は事実上不可能だった生体からの検出を可能にした。実用化されれば、CJDやBSEの早期診断、治療や拡大抑制につながる。news@nature.comの記事Blood test detects deadly prionsによると、今回のキーとなる増殖方法についてもう少し詳しく書かれている。異常プリオンは主に脳などに蓄積するたんぱく質の一種で、正常プリオンに接触すると異常化させる。確実な検出にはこれまで、死後に脳の組織を採って検査するしかなかった。
同大医学部のクローディオ・ソト教授(神経学)らは微量の異常プリオンに大量の正常プリオンを加えて培養した。すると両方のプリオンは固まりとなり、正常プリオンの一部が異常化した。この固まりに超音波を当てばらばらにし、さらに培養を続ける「PMCA法」を何度も繰り返すことで、異常プリオンの量を増やし検出を可能にした。
異常プリオンを注射して発病させたハムスター18匹を検査すると、89%にあたる16匹の血液から検出できた。また健康なハムスター12匹の検査ではすべて「異常なし」との結果となり、検査の信頼性は高いと見られる。ソト教授らは「生化学的方法で血液から検出したのは今回が初めて」としている。
異常プリオンの量を増やす手法そのものは4年前に開発したが、その後、作業の自動化を進め、増幅の効率もアップさせた。検査の際は電子レンジ程度の大きさの装置で144回の培養を行い、この過程を6回繰り返したという。
The technique involves mixing normal proteins with tiny amounts of the infectious version in a test tube, causing the abnormal molecules to multiply and clump together over a period of about half an hour. A pulse of sound then breaks up the clumps, freeing the misshapen proteins to repeat the process.異常プリオンを正常プリオンと混合し、異常プリオンを増殖させる反応時間は1回がわずか0.5時間とのこと。これに超音波を当てて塊をほぐし、このサイクルを70時間かけて140回繰り返す。このセットを2回実施すると検出率が50%、6回行うと89%となったようだ。Soto and his team have now improved and automated this process, making it a viable test. A microwave-sized machine can run 140 of these cycles in about 70 hours.
Tests on 18 diseased and 12 healthy hamsters revealed that this method could detect prions 50% of the time they were present after two 140-cycle runs. After six runs this was boosted to 89%. The test did not give any false positives, they report in Nature Medicine.
最初に加えた異常プリオンの量(濃度)は、恐らく現実的なレベルなのだろうけど、わずか30分で反応するものなのか。実際の生体内での増殖よりも相当に加速しているんだろうけど、これを読むとその秘訣は超音波での解凝集操作にあるように見える。異常プリオンとの接触で異常化した正常プリオンを、正常プリオン中に再分散させることで、接触頻度を増加させたということだろうか。それにしても、それだけでこんなに簡単に増殖できたのだろうか?
Natureの記事は、BSEに感染した牛の検査のことには触れられていない。むしろ、人間の血液からvCJDの感染有無の検査ができることを大きく扱っている。イギリスにはまだ大勢いるであろう潜在的な感染者の検査ができることや、献血用血液の安全性検査への応用などが期待されると書かれている。
アメリカではどうかというと、例えばUSA TODAYでも、人間の感染を検出できることが大きい成果という基調で書かれており、牛の検査についてはほとんど触れていない。このSoto教授は、vCJDの危険性を結構煽っていて、
"It is very important because we could have an idea of the magnitude of the problem. We might be sitting on a time bomb and 20 years from now it could be too late," Soto said in a telephone interview.ということで、ヒトへの爆発的感染が起こる前に、検査方法の確立が必要と訴えているようだし、実際、次の段階ではヒトの血液で感染がみつけられるかを検討すると言っている。
要するに、従来BSEの有無を調べるためには、脳などの細胞を検査する必要があったが、牛の場合に食用に適するかどうかを調べたいのであれば、今後とも従来どおり、食用に屠殺した牛の脳から試料を採取して検査すれば良いということだろう。一方、人間が罹患しているかどうかを生存中に検査する有効な手法は今までなかったので、これが大きな前進につながるということだ。もっとも、治療法がない以上、検査で陽性と診断されることの意味についての議論も必要ということがNatureにも書かれている。
ということで、この方法では、感染していないのに陽性と診断される「偽陽性」がないことが第一に重要で、感染してるのに陰性と評価されるケースがあっても、それはまだ許されるという理屈になっているようだ。
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