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2005/09/22

青色発光ダイオードの進歩とLED照明

asahi.com(9/21)の記事。青色ダイオード、消費電力9割減 中村教授ら成功

 青色発光ダイオード(LED)の消費電力を10分の1にできる材料の開発に、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授らが成功した。同大のほか、筑波大などが参加する科学技術振興機構(JST)の「ERATO中村不均一結晶プロジェクト」の成果として、21日、東京都内で発表した。

 中村教授が90年代に開発した青色LEDは、明るく消費電力が少ないため携帯電話のバックライト用などに普及した。しかし、現在の製造法では、理論的にエネルギー効率に限界があることがわかっていた。

 プロジェクトでは、従来使っている窒化ガリウム半導体を、工夫した基板の上で結晶成長させ、新しい半導体膜を開発。この膜なら発光の効率が10倍にできるとわかった。

 窒化ガリウムに別の物質を混ぜることで青より波長の長い黄色などを出すようにできるが、従来の半導体膜では暗くなるため実用化に至らなかった。新しい半導体膜は発光効率が落ちず、黄色や赤色LEDやレーザーダイオードの開発も可能という。ほかの化合物の赤色LEDより高い発光効率が期待できる。

 グループは、この技術を使い、信頼性の高い長寿命の青色レーザーダイオードも開発中だ。次世代DVDの読み取り装置への応用が期待される。また、信号に使われているLEDをこれに置き換えることができれば、消費電力が少なくてすむ。自動車のヘッドライトなど、とくに明るい光が必要な分野にも応用の可能性が開けるという。

 「1、2年で実用につながるだろう」と中村教授は話す。

ということで、日亜化学との職務発明に関する訴訟で一躍有名人になった中村修二さんだが、アメリカの大学教授になってからも着実に成果を出しているようだ。このニュース、具体的にどんな技術なのかよくわからないのだが、NIKKEI NETの中村修二氏ら、次世代DVD光源向け半導体の新結晶開発という記事では、
米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授らの研究グループは21日、次世代DVDの光源として実用化が進む窒化ガリウム半導体の新型結晶を開発したと発表した。発光効率が高く、液晶ディスプレーのバックライトに使用すれば消費電力が10分の1以下になるとみている。共同研究を希望する企業を募り、1年以内にも実用化を目指す。
とあり、朝日の記事には出てこない「新型結晶」という言葉が載っている。このERATO中村不均一結晶プロジェクトについては、JSTのプロジェクトの紹介中間評価が読める。結晶欠陥を減らすことが課題となっているのだが、単に純粋な結晶を作るというよりも、結晶転位や不純物などの欠陥をコントロールしつつ意図的に導入するという考え方のようだ。また、プロジェクトメンバーの筑波大学秩父研究室にも専門的情報が載っているようだが、中に立方晶窒化ガリウムの話も出ている。

さて、朝日の記事には発光効率が10倍になると書かれている。しかし、LEDは既に発光効率は十分に高いんじゃなかったの? と思って調べてみた。省エネルギーセンターのLEDの特徴には、「電気を光に変換する効率が極めて高く、白熱灯約15%、蛍光灯約60%に比し、LEDは90%以上です。」と書いてある。うーむ、90%の効率がさらに10倍になるとどうなるんだろう?? 環境省の環のくらしの説明だと、LEDの消費電力は「同じ明るさの電球の約1/10、蛍光灯の約1/2」とあり、EICネットのQ&Aの書込みには、同じ数字だけどより詳しく

810ルーメンの光束(光源が全ての方向に放射する光の量)を発する機能を有する白熱電球、蛍光ランプ、照明用白色LED(光量を揃えるためにLED素子を30~100個程度集積したもの)を比較すると、白熱電球の消費電力が57W、蛍光ランプは14W、LEDランプは約6Wですので消費電力は白熱電球の約1/10、蛍光灯の1/2と言えます。
と書かれている。一方、国連大学の安井先生のエコプレミアム研究所では、
LEDの効率は改善されつつあるものの、まだ、蛍光灯の85lm/Wというレベルにはなっていない。ただし、将来は、この値を超す可能性がある。

B君:しかし、一般用照明の場合、光の量が問題。蛍光灯だと1本で3400lmといった光を出すことができるが、LEDだとまだ100lmといったところで桁が違う。まだ将来の課題。ここ5年ぐらいは、白熱電球を蛍光灯に変えるのが妥当なところ。

とあるし、日経エレクトロニクスには、
照明機器メーカーは,白色LEDを使った照明機器の開発に本腰を入れ始めた。2005年~2006年にかけて,発光効率が60lm/Wを超え1個当たりの光束が60lmを大きく上回る。この結果,蛍光灯の置き換えが,いよいよ始まると読むからだ。
とあるのだが、どうなっているんだろう? ちなみに、LED照明推進協議会のサイトでみつけた、世界最高発光効率の白色LEDは、発光効率が 70 lm/W、全光束が 245 lmとあるから、やっぱり蛍光灯には追いついていないように見える。どうも、「明るさ」の定義が、このような混乱状態の原因となっているような気がするのだが、ルクスとルーメンを読んでもやっぱりわからん。。

なお、現在のLED照明の開発状況についてはITmedia ライフスタイルが参考になる。Fuji Sankei Business iによると、新幹線の照明にも採用されるようだが。

いずれにしても、冒頭の記事にあるように発光効率が10倍になるとすれば、蛍光灯を大幅に上回るのは間違いなさそうだし、これは相当に画期的なのかもしれない。もっとも、このあたりは多くの企業が激しい開発競争を行っている分野だから、どんな技術が最終的に生き残るのかわからないと思うけど。。

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コメント

どうもこの lm/Wという単位、1Wの光エネルギーでどれだけ人間が明るく感じるかという単位のようです。Wikipediaの「光度(光学)」では「しかし光の色 (周波数) によって同じ電力を持つ光でも人間は明るく感じたり暗く感じたりする。この色ごとの明るさを 視感度 という。」とありました。
その波長ごとの視感度の比が(http://www.cybernet.co.jp/optical/course/optwords/SLE.shtml)このようなので、要するにどれだけ555nmに近い波長の光が出せるかということの競争であるように思われます。

もちろん、一方では投入したエネルギーが光に変換される比率を見るような効率もあって、これは環のくらしの記述ですね。

投稿: ESD | 2005/09/22 23:43

そうか、lm/W の W は入力した電気エネルギーではなく、出力される光エネルギーだったのですね。完全にごっちゃになってました。ご指摘ありがとうございます。

もう少し調べてみたら、http://www.dango.ne.jp/anfowld/Lights.html">光と光の記録という、非常に充実したサイトを見つけました。光の単位については、その基礎をきちんと理解するなり、具体的な例で使い方を会得するなりしないと、なかなか難しそうです。もう少し勉強してみます。

投稿: tf2 | 2005/09/23 16:01

JANJANの「今日のマスコミ」
http://www.janjan.jp/media/0510/0510033265/1.php
に、朝日新聞の訂正記事が載っていました。

●今日の「訂正記事」
『朝日』3面 【9月22日付「青色ダイオード 消費電力9割減」の記事で、「消費電力を10分の1にできる」とあるのは「4分の3にできる」の誤りでした。見出しとともに訂正します、新しく開発された半導体膜で黄色のダイオードをつくると、消費電力を約9割減らせる可能性があります。】
 ということです。波長を変えていると効率的にもなりうるということでしょうか。

投稿: おぐ | 2005/10/03 20:33

おぐさん、貴重な情報ありがとうございます。日経新聞にはそんな訂正記事は載らなかったようです。朝日は「青色発光ダイオードの消費電力を10分の1にできる」と書き、日経は「液晶ディスプレーのバックライトに使用すれば消費電力が10分の1以下になる」と書かれているので、確かに違うといえば違いますね。

液晶のバックライトは白色ですが、この技術は現時点では青色LED(または紫外LED)の発光を黄色の蛍光体に当てて合わせて白色を作り出すのが主流と理解しています。そのままであれば、青色LEDの消費電力も白色LEDの消費電力も似たようなものと思えるのですが、黄色LEDという単語が出てくるところを見ると、白色バックライトを従来とは異なる技術で作るということかもしれません。

投稿: tf2 | 2005/10/04 19:41

白色LED照明技術の最新の状況を報告した総説を見つけたので、エネルギー変換効率や光源効率(lm/W)を他の白色照明と比較して、新しいエントリにしましたので、興味のある方はそちらもご覧ください。
http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fdb7.html">白色発光ダイオード照明の効率

投稿: tf2 | 2007/08/07 20:01

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