朝ごはんを食べると成績は向上するか?
文部科学省の新着情報を見ていてみつけた、文部科学省のマナビィくんの統計コーナーに、朝食を食べることとテストの結果を比べてみよう。という資料が掲載されている。「朝食の摂取状況とペーパーテストの結果との関係」と題した棒グラフが掲載されており、驚くべきことに、国語、数学、理科、社会、英語の5教科すべてについてテストの平均点が、朝食を「必ずとる」「たいていとる」「とらないことが多い」「全くまたはほとんどとらない」の順にきれいに並んでいる。
ここまでは、調査結果らしいので、(その調査に問題があるかもしれないが)、「朝食をきちんととっているほうが、各教科ともテストの結果が良いことがわかります。」という表現も、まあ間違ってはいないかもしれない。しかし、その下に描かれた子どもが、
朝ごはんを食べて成績アップだね!と言ってるのは、問題じゃないの? 朝食をとることとテストの成績にたとえ相関関係があったとしても、因果関係があるかどうかとは別の話だ。「朝食をとれば、他に何もしなくても成績が良くなる」わけがないことは、誰でも常識的に理解しているはずだけど、こういうデータで示されると、ついつい「そうは言っても、何か関係がありそうだ」と思ってしまうのかもしれない。
朝食の栄養分が脳に供給されて学習効率が良くなるのではないか、のような仮説もありえるだろうけど、せめて学習時間や睡眠時間など、もっと影響の大きそうな条件を揃えて議論しないと、こんなデータをいくら取っても検証の役には立たないだろう。それに、少なくとも大学受験生あたりで同じ統計を取ったら、朝食をとらないグループの成績がかなり高くなるような気もするし。。
この資料は、明らかに子どもを対象にしているようなのだが、これを見て、全てのデータが余りにもきれいな序列で並んでいるのは不自然じゃないかとか、朝食と成績の間に因果関係なんかあるだろうか、というような疑問を抱くような子どもの方が、よっぽど有望だと思う。(どの方面に有望なのかは議論もあるだろうけど。。)
別に朝食をとることを否定するつもりは全然ないけど、相関関係と因果関係の違いを見極める能力は社会生活を送る上で極めて重要だと思うので、子ども相手にこういう嘘のロジックを展開するのはいけないでしょう、ってことだ。(推奨図書:「社会調査」のウソ)
ちなみに、同じマナビィくんの統計コーナーに並んでいる、みんなは朝食をきちんととっているのかな?によると、朝食を「必ずとる」が中学3年でも70%もいて、これまた「たいていとる」「とらないことが多い」「全くまたはほとんどとらない」の順にきれいに並んでいる。ここまで来ると、元のデータが見てみたくなる。
そのものズバリのデータは見つからなかったのだが、良く似たデータとして、平成13年度小中学校教育課程実施状況調査の結果概要についてという資料のp22/23に中学2年生を対象とした朝食アンケートとテスト成績の関係が掲載されている。調査方法を見ても、この調査の対象者が何人だったのか非常にわかりにくいのだが、平成13年度小中学校教育課程実施状況調査の結果概要をみるに当たってを見ると、どうやら各学年88000人程度のようだ。これだけの人数を相手にしているとすると、こんなニュースのような少人数の統計でありがちな問題点はクリアしていそうだ。ちなみに、この資料には
今回,質問紙調査の回答状況とペーパーテスト結果の関係を示しているが,この表から見て取ることができるのは,結果として示された2つの状況に何らかの関係があるということだけである。としっかり書いてある。
もちろん,双方に何らかの因果関係がある場合もあると考えられるが,この結果からだけでは,双方に因果関係があるかどうかまでを判断することはできないことに,留意されたい。(p.9)
他の多くの要素を全く区別していないこういった調査では、判断できることは限られている。おそらく朝食を食べる習慣が、他のいろんな生活習慣の代表的な尺度となっているのだろう、と考えるのが常識的な線だろう。調べてみたら、なんと朝ごはん実行委員会なんてサイトがある。。(案の定、農水省がらみのようだ) 朝ごはん実行委員会ニュースを読むと、相関関係がいつのまにか因果関係に置き換えられ、学習意欲や夜更かしまで全て朝食が原因ということなってしまっている。。
| 固定リンク
コメント
「どれだけ親がちゃんと子供の面倒を見ているか」または「その生徒の『良い子』の度合い」とか、この辺の尺度ではないかというのが第一印象ですね。農水省の資料を見ると85%はよく食べる側なので、食べない側というのはかなり(いろいろな意味で)恵まれていない集団なのかなと。
体調の善し悪しは、朝食に限らず食生活そのものが問題かも知れず、夜更かしが多いから体調を悪くするというのはきっと無視できない要因です(というか夜更かしするから朝食を食べないのでは?)。
これは子供に言うよりは親に「朝食をちゃんと摂らせろ」と言う方が、結果として家庭環境の整備につながって効果が期待できるかも知れません。もっとも、子供を脅して親を変えさせるという手法は環境教育なんかでもときどき使われますが。
投稿: ESD | 2005/09/15 09:10
こんにちは
ちょうど僕のblog(URLに記載したところ)でも相関と因果の違いを議論したばかりでした。実例があってうれしいというか、悲しいというか。
よりによって文科省がこれやっちゃうとは、恥ずかしいですね。
こういうのって、結論(朝ごはんをたべよう)はもっともなだけに、つい書きたくなっちゃうんでしょうけど。
投稿: きくち | 2005/09/15 13:46
ESDさん、お久しぶりです。
ちょっと中学生時代の自分のことを具体的に思い出せなかったりするのですけど、この年齢ぐらいまでだと、規則正しい生活をしている生徒の方がマジョリティなのでしょう。逆に言えば、ご指摘のとおり、朝食を規則的にとらないグループが何らかの問題を抱えているケースが多そうです。
となると、ますます、朝食と成績を直接結びつけて議論することに対して反発したくなります。朝食をとらないグループの成績が悪い理由は、もっと本質的な解析をして明らかにすべきではないでしょうか?
また、朝食を摂る必要性を主張したいなら、成績が向上するからなんていう理由ではなく、もっとストレートな議論をすればいいはずですよね。
投稿: tf2 | 2005/09/15 19:34
きくちさん、コメントありがとうございます。kikulog は時々見ていたのですが、今回の話題とコメントのやり取り、中々興味深く読ませていただきました。
今回の朝食と成績の話については、そもそもそんな質問をするところから、何か胡散臭いものを感じます。結論が先にあって、それを裏付けるために「統計」という手段を利用したのではないか、と勘繰ってしまいたくなるのです。
投稿: tf2 | 2005/09/15 19:37
そうですね。先に結論ありきという印象を受けます。結論と言って悪ければ、予断でしょうか。これ、調査の結果として相関が見つからなかったら、発表しなかったのでしょうね。
投稿: きくち | 2005/09/15 22:34
朝食抜きは健康に良くない→生活習慣は子供のうちから→説得に一番有効な成績を使う
(朝食抜きだと覚醒度不足と低血糖でボーっとしてるから成績との相関も予想)
といった流れでは?
投稿: G.A. | 2005/10/04 11:02
G.A.さん、コメントありがとうございます。
まあ、普通は朝食を摂ることは良いことなので、こういう論理がまかり通ってしまうのでしょうけど、僕が気にいらないのは、子どもに対してウソの理屈でしつけをしようとしているところです。
「そんなことをしていたら、あの人みたいになっちゃうからやめなさい!」みたいな。。
投稿: tf2 | 2005/10/04 19:48
この統計は遠い昔ケロッグ社が、自社のコーンフレークを売るために流した、いわば都市伝説とも言える風評です。アホな母親が盲信し、ケロッグは大変な数売れたそうです。ちなみに、大人になると朝食を取らない方が健康なんて言う健康法すら有るくらいで、どっちでも良いと言うことでしょうね。だいたい過食は確実に死に至る訳で、少食くらいが良いわけです。子供は知らんけど。
投稿: たむらしん | 2010/01/19 23:36
たむらしんさん、コメントありがとうございます。
もともとは宣伝だったのですか。。 明確に因果関係を謳ったものだったのか、それとも因果関係を思い浮かべてしまいそうな巧妙な宣伝だったのか、興味があるところですね。
ところで、古い記事だったので、改めて読み直してみたらリンクが切れまくってましたが、どうにか修復できました。
投稿: tf2 | 2010/01/20 00:03