RNA新大陸の発見
セントラルドグマの見直しに繋がるかもしれない大ニュース。さすがに各紙が取り上げている。
asahi.comのマウスゲノムの70%に重要な機能 理研など解析という記事。
理研ゲノム科学総合研究センターの林崎良英氏らが、マウスの細胞で作られているRNAを詳しく調べた。たんぱく質を作る遺伝子の領域が2万929個あり、たんぱく質を作らないがRNAを作る遺伝領域2万3218個が新たに見つかった。これらを合わせて、何らかに使われている領域はマウスゲノム全体の長さの約70%に達した。ということで、従来DNAのうちのほんの一部だけがアミノ酸を合成するためのコードとなっており、残りの大部分がジャンクであった、という概念そのものを覆す可能性があり、さらにRNAが従来考えられていた役割とは別の重要な役割を持っていることを示したようだ。たんぱく質を作らない遺伝領域のRNAを調べると、他の遺伝子の働きを調節するものがあることも分かった。たんぱく質を作らないRNAが、生命活動の重要な役目を担っていることになる。
YOMIURI ON-LINEの生命に役立つ機能、ゲノムの7割も…定説は2%もほぼ同等の内容。一方、MSN-Mainichi INTERACTIVEでは、RNA:遺伝子を起動 ”がらくたDNA”が大量作成という記事と、もう1つRNA:解説=生命解明の新鉱脈 糖尿病などの新薬へ道という解説の2本が載っている。この解説記事には、朝日や読売が扱っていない「二本鎖RNA」という聞きなれない言葉が出てきている。その点、Sankei Webの記事、遺伝子制御などRNAが調整役 理化学研チーム解明は、その両者に触れているようだ。
ゲノムは、染色体のDNAに4種類の塩基の配列で記された「生命の設計図」。マウスゲノムはヒトゲノムとほぼ同じの約30億個の塩基配列からなる。ヒトゲノムではタンパク質の設計情報が書かれている領域は全体の2%程度とされ、RNAはこの部分の塩基配列をコピーして、タンパク質合成のための情報伝達や材料運搬が主要な役割と考えられていた。一般向けの速報記事としてはこんなものかもしれないが、内容が従来の「常識」を覆すような重要なもののようなので、もう少し詳しく突っ込んで書いて欲しい気がする。いずれわかりやすい特集記事が出ることを期待しよう。研究チームは新たに開発した技術で、約450万個のマウスのRNA分子を解析した。その結果、塩基配列のなかで何らかの意味を持つ遺伝子は4万4147個にのぼり、7割の領域を占めていた。このうち約2万3200個はタンパク質の合成に関与せず、転写したRNAが遺伝子の働きを制御するなど調整役として生命活動を支えているとみられる。
また、RNAの72%は、DNAと同じ2本鎖の構造を持つことも分かった。2本鎖RNAには遺伝子の発現を阻害する働きがあることが最近の研究で確認され、病気に関連する多くの遺伝子が2本鎖RNAを形成することもわかっている。研究チームの林崎良英・理研プロジェクトディレクターは「2本鎖RNAを作る遺伝子を突き止めれば、その遺伝子の制御方法が見つかったのと同じ。新たな治療法の開発につながる」と話す。
一方、従来から難解なことで定評のある(?)、理化学研究所のプレスリリース、哺乳動物のトランスクリプトームの総合的解析による「RNA新大陸」の発見は、やっぱり非常に難解で、タイトルからしてよくわからない。専門的な内容はちんぷんかんぷんなので置いておくとして、この研究の意味について
本研究を通じて、遺伝子とは何か、という基本的概念にパラダイムシフトが起きたと考えています。ゲノムというもののなかに遺伝子がオアシスのように散在するという旧来のゲノム観から、かつてジャンクDNAと呼ばれていた領域は実際には機能しており、ゲノムは総体として働いているという新しいゲノム観が生じたといっても言い過ぎではありません。と書いている。これが本当であれば、教科書から何から大幅に書き換える必要が出てくるわけで、是非とも各階層向けのわかりやすい解説を理化学研究所から出して欲しいと思う。ちなみに、今回のポイントとなるRNAは、非タンパクコードRNAと呼ばれ、通称はncRNA(Non-coding RNA)らしい。(参考:Wikipedia、やっぱり難解だけど)さらに、本研究における「RNA大陸」の発見は、「タンパク質が最終生理活性物質であり、遺伝子とは、単にタンパク質をコードするもの」であるという既成概念を崩す結果となりました。遺伝子から、表現形質を分子レベルで説明するネットワークの中に、新たにncRNAが登場することとなります。これにより、RNAがいろいろなレベルで遺伝子の発現を調節する新たなメカニズムの研究がスタートすることになるでしょう。
2本鎖RNAについては、同じく難解だが、理化学研究所のプレスリリースがある。
2%から70%まで一気に増えてしまったということのようだが、数字の部分をまとめてみよう。ゲノムの30億の塩基配列のうち、従来の知見だと 2%程度にたんぱく質がコードされていると考えられていた。今回、たんぱく質合成に関与するRNAが20927個、関与しないRNAが23218個、合計で44147個の何らかの意味を持つRNAが見つかった。しかも、この44147個でゲノム全体の70%を占めるらしい。ということで、何だかよくわからないのだが、たんぱく質に関与するRNAは全体の2%で、関与しないRNAは全体の68%を占めるということだろうか? ということは今回見つけたncRNAというのは、非常に長い塩基配列を持つということだろうか? どこかで間違えたかな?
これに関して、NIKKEI NETでは、
これまでRNAはたんぱく質の設計情報を伝え、材料のアミノ酸を運ぶ仲介役として考えられており、DNAの約3割の部分で作られていることしか確認できていなかった。とあるのだが、結局どういうこと?
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コメント
>2%から70%まで一気に増えてしまった
この数字のカウント方法については
私も良く分からないのですが、
多分、「2%」というのは
イントロンを抜いた数字ではないか、と思います。
一方
「70%」の方は、プレスリリースを読む限りでは
イントロンを含んだ数字ですね。
今回、読んだRNAは、
恐らく、スプライシング済みのイントロンを含まない
RNAだと思われます。
(完全長cDNAの配列を読んでいるので)
そう考えると
「タンパクをコードしている部分と
ほぼ同じくらいのコードしていない領域も
RNAに転写されていた」という事を
示したデータなのかな、と思います。
原本の論文は読まずに
プレスリリースのみを読んだ上で書いた
「解説記事」をトラックバックさせて頂きました。
投稿: めたか | 2005/09/03 01:09
めたかさん、ありがとうございます。
うーむ。70%はイントロンを含んだ数字なんですか? 改めてリリースを読んでみたんですが、やっぱりよく分からなかったです。 cDNAというのは、イントロンが取り除かれているのですよね?
投稿: tf2 | 2005/09/04 23:01
村上和雄さんや天外伺朗さんの本を読むと、人間の成長の過程は悟りを開く過程と同じであり、病気も煩悩の一つで、梵我一体を求めていくうちに解決するだろうと思うようになった。ブリティッシュ・コロンビア大学の遺伝学教授であるデヴィッド・スズキ氏の「相互依存宣言」ですべての生物の歴史は人間の遺伝子に刻まれているとある様に、動物実験、虫を殺すことをやめない限り、新たな病気が出てくると思う。
投稿: つるちゃん | 2005/12/06 10:17