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2005/10/15

森林浴と抗がん三兄弟

asahi.com(10/13)の記事。見落としていたのを発見。抗がん力持つ細胞、森林浴で機能向上 森林総合研究所

 森林浴をすると抗がん能力が上がるとの研究成果を農林水産省系の独立行政法人・森林総合研究所がまとめた。森林浴の新たな一面として、注目を浴びそうだ。

 森林総研が日本医大公衆衛生学教室のチーム(責任者=李卿・講師、川田智之・教授)に委託した研究で、林野庁が13日午後、発表する。

 実験の対象は東京都内の企業に勤める37~55歳の男性会社員12人。それぞれ残業や通勤時間が長く、高いストレスにさらされている人を選んだ。

 12人は、9月2日から3日間、長野県飯山市内の森林に滞在。1日目は雑木林で午後から2時間、2日目はブナ林とスギ林に囲まれた遊歩道を2時間ずつ散策した。

 2日目と3日目に血液検査をし、ふだんの状態と比べたところ、がん細胞を破壊するナチュラル・キラー(NK)細胞の元気度を示す「NK活性」が、2日目で平均26.5%、3日目で同52.6%上がった。血中のNK細胞の数や、NK細胞が出す抗がんたんぱく質も増えていた。

 NK細胞の機能が高まれば、抗がん能力は高まると考えられている。研究チームは、樹木が発散するフィトンチッドが緊張をほぐし、NK細胞の働きを抑えるストレスを低下させたと判断。「仕事を休んだことの影響も考えられるが、3日目の数値が格段に上昇したことなどからも、森林浴による効果と考えてまず間違いない」と結論づけた。

というもの。森林浴については、2004/10/20のエントリーで取り扱っているが、また学会の季節がやって来て、この1年の成果が発表されたようだ。しかし、いくらなんでも、この新聞記事に書いてある結果だけで、フィトンチッドが緊張をほぐしたとか、森林浴の効果と考えて間違いない、という結論を出すのは無理があると思うのだが。。

林野庁のサイトに行くと、プレスリリースが掲載されている。このうちの1番目が上記新聞記事に対応する研究だが、このタイトルが「森林浴が、ヒトNK細胞を活性化する!」なんてビックリマーク付きで気合いが入っている。しかし、中を読んでみると、どうやら新聞記載の内容がメインで、他に比較のための実験などはしてないようだ。。 本当に、こんな実験だけで上の結論を出したのだろうか? ざっと考えてみただけで

  ・実験対象者が12人というのは少なすぎないか? バラツキはどの程度なのか?
  ・実験の指標とした数値は、同一人物でどの程度の時間変動があるものなのか?
  ・森林浴以外の方法でリラックスする場合や、何もしない場合と比較してどうか?

なんて疑問が湧いてくる。森林浴に何らかのリラックス効果があるだろうことには同意したいのだが、今回の発表の論理には同意しにくいなあ。大学の先生を始めとしてこの研究に関係する人たちは、誰も疑問を感じないのだろうか? 人間を対象としたこの手の研究は微妙なものとなりやすいだけに、きちんとした手順と論理で詰めてもらいたいものだが。。

ところで、NK細胞が放出する3種類の抗がんタンパク質、パーフォリン、グランザイム、グラニューライシンのことを、通称「抗がん三兄弟」というらしい。本当かいなと思って、色々と検索してみたが、こんな怪しいページぐらいしかヒットしない。それどころか、「抗がんタンパク質」という単語も、ヒットするのは全て今回の林野庁の発表関連のページばかりじゃないの。。 ということは、今回の実験の指標そのものが独自ということか??

ちなみにNK活性については従来から多くの知見があり、測定法などはこちらで、ストレスや生活習慣とNK活性との関係はこちらこちらに知見が載っている。つまり、NK活性は森林浴じゃなくても、リラックスや軽い運動だけでも向上する可能性は高く、森林浴単独の効果がどれだけあるかは疑問ということ。従って、森林浴単独の効果を明らかにするためには、比較対照実験をいろいろと行うことが必須だろうと思うのだが。。

フィトンチッドだとか、何か特別な効果を持つマジックを持ってこなくても、森林浴は適度な運動と精神のリラックスが同時に達成されるので、健康に対してとても好ましい、という結論じゃ駄目なのだろうか? 

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2006/2/28のYOMIURI ONLINEにhttp://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060228i501.htm">ストレスホルモン減少、森林浴「お薦めの森」認定へという記事が載った。引き続き、何だかよくわからない理屈なのだが、今度はストレス改善に効果がある森林を選定したのだそうだ。

 自然豊かな森林の中を歩くと、リラックス効果が本当に体に表れることを、独立行政法人森林総合研究所や日本医科大学の研究チームが科学的に裏付けた。

 ストレスホルモンの減少など、身体の生理学的データが改善していた。森林総研などでは、調査した10か所の森林でリラックス効果の高さを個別に評価し、お薦めの森として認定する。

 森林総研の宮崎良文・生理活性チーム長らは、男子学生12人を2班に分け、国内の森林浴発祥の地とされる長野県上松町のヒノキ林など森林10か所と都市部で、それぞれ歩行や休息をしてもらった。翌日は森林と都市部で班を入れ替え、心拍や唾液(だえき)、血圧などを比較した。

 10か所中5か所で、リラックス度の指標となる副交感神経の働きが高まり、ストレスを示すホルモン「コルチゾール」の唾液中濃度も5か所で減少。そのほか血圧も5か所で下がるなど、総合的にみて、10か所すべてで森林浴の効果が確認できた。

 一方、日本医大の李卿講師らは、37~55歳の会社員12人に、長野県飯山市の森林に3日間滞在してもらい、血液中の免疫細胞(NK細胞)を調べた。その結果、森林浴の後には、細胞数自体が多くなるとともに、抗がん作用を持つとされるたんぱく質も増え、免疫力も5割アップすることがわかった。

 宮崎チーム長は「鳥や虫の種類が多く、規模が大きく樹種も豊かな森林ほどリラックス効果が大きい傾向があった」と話している。

 ◆リラックス効果が裏付けられた森◆

 ▽岩手県岩泉町・早坂高原▽山形県小国町・温身平(ぬくみだいら)▽長野県上松町・赤沢自然休養林▽長野県飯山市・心のふるさと▽長野県信濃町・癒やしの森▽長野県南箕輪村・経ヶ岳▽長野県佐久市・癒やしの森▽山口市・東大寺再建のふるさと▽高知県津野町・天狗高原自然休養林▽宮崎県日之影町・自然の恵みが人を呼ぶ里

ということなのだが、何のことはない、調べた森林10か所が全てリラックス効果が大きいと認定されたわけで、要するに森林だったら何でもいいんかい? というか、森林以外の運動や、単なる安静などとの比較を是非お願いしますね。。

投稿: tf2 | 2006/03/02 00:14

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ちょっと前にこんなニュースがあった。 asahi.com: 抗がん力持つ細胞、森林浴で機能向上 森林総合研究所?-?健康  森林浴をすると抗がん能力が上がるとの研究成果を農林水産省系の独立行政法人・森林総合研究所がまとめた。森林浴の新たな一面として、注目を浴びそうだ。 ..... [続きを読む]

受信: 2005/10/17 16:10

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