新聞記事見出しは法的保護対象?
YOMIURI ONLINEの(10/6)の記事。見出し無断使用、ネット会社に賠償命令…読売逆転勝訴
新聞社がインターネット上で配信している記事の見出し部分を無断使用し、利益を得ているのは不法行為に当たるなどとして、読売新聞東京本社が「デジタルアライアンス」(神戸市)に、損害賠償と記事見出しの使用差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が6日、知財高裁であった。これは、新聞記事の見出しに著作権が認められるかどうかが争われた結構有名な訴訟だが、東京地裁が1審で読売新聞の請求を棄却したのに対し、今回の知財高裁では読売の主張を認めたようだ。この読売の記事を読むと、新聞記事の見出しが著作物であると認められたかのように思えるが、他の新聞記事を見るとそうではないことがわかる。ITmediaニュースに比較的丁寧に書かれているが、塚原朋一裁判長は、デジタル社の配信事業を不法行為と認め、請求を棄却した1審・東京地裁判決を変更、約23万7700円の賠償を命じた。使用差し止めは認めなかった。
問題となったデジタル社の事業は、新聞社がインターネットサービス会社「ヤフー」などに有料で配信している記事のうち、見出しの部分だけを盗用し、「一行ニュース」と称して配信、広告収入を得るというもの。ユーザーが電光掲示板のように流れる見出しをクリックすると、ヤフーなどのホームページに画面が飛んで、記事の本文が読める仕組みになっている。
読売側は、<1>見出しは著作物であり無断使用は著作権侵害<2>新聞の最終成果物である見出しの無断使用はニュース配信事業を妨害する不法行為――などと主張していた。
控訴審判決は見出しの著作物性は一審同様に否定し、使用差し止めは認めなかった。だが「見出しは、多大な労力や費用をかけた報道機関の活動が結実したもの」として法的保護に値すると認め、営利目的による無断の反復使用は不法行為が成立すると判断。デジタルアライアンスの不法行為責任を認め、損害賠償を命じた。とあり、新聞見出しは著作物ではないが、法的保護の対象であるということらしい。Sankei Webによると、請求金額は2480万円で判決はその約1/100だから、その程度の価値しか認められなかったとも言えるのだろうけど。。 それにしても、冒頭の読売の記事は、この裁判の重要な争点の1つについて全く触れていない点で、非常に意図的なものを感じさせられる。こういう時にはたとえ新聞といえども、当事者の主張だけで判断するのは危険であるという好例だろうか。
それにしても、法的保護の対象って何だろう? 少なくとも著作物ではないと言っているのだから、著作権法以外の法律で保護されるのだろうけど。。 営利目的による反復使用が駄目ということらしいから、人のふんどしで相撲を取るようなビジネスは駄目だということだろうか。
ちなみに、東京地裁の1審判決はH16. 3.24 東京地裁 平成14(ワ)28035 著作権 民事訴訟事件で全文が読める。法的保護に関連しそうな部分としては、読売側の主張としては
YOL見出しは,多大の労力を要する取材に基づいて作成される記事とともに,記事の内容と記事の対象事象を,最速かつ正確に読者に訴えるという重要な情報であり,財産的価値を有し,かつ,経済・社会的価値を有するものであるが,原告は,上記営業活動の一環として,原告が運営するヨミウリ・オンラインにおいて,YOL記事及びYOL見出しを掲出し,かつ,第三者の広告を掲出して広告料収入を得ている。また,原告は,ヤフーほかに対し,YOL見出しをそれのみで,あるいは記事本文とともに使用許諾し,許諾料を得ている。となっており、それに対する東京地裁の判断として
このような原告のYOL見出しを使用した営業活動は,法的に保護されるべきものである。
しかし,YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。とあり、ここら辺の判断が今回の知財高裁では異なると思われる。知財高裁の判決の全文は、現時点ではまだ掲載されていないが、今後速報が知的財産権判決速報に掲載され、その後知的財産高等裁判所 判決紹介で読めるはずだ。
また、この問題に関連する情報や考え方は、★パテントサロン★ リンク等についてがまとまっている。また、バーチャルネット法律娘 真紀奈17歳の★ 新聞記事の見出しの引用と無断リンクの禁止について ~Ver.2~★はとてもわかりやすい。
なお、現時点では被告ライントピックスの見解や対応はまだ掲載されていない。記事の見出しにリンクを貼る行為は構わないが、それを営利目的にするのはいけない、という解釈も今一理解しづらいのだが。。 読売が主張した、Yahoo!等に記事タイトルや記事本文を配信するビジネスを前提としているのだろうけど、記事本文の配信ビジネスはともかくも、記事タイトルだけの配信が何故ビジネスになるのだろうか? 記事タイトルそのものには著作権がないのに、一体どんな価値があるのか?ということがポイントだろうか?これに関してあちこちで専門家を交えた議論や解説がされるだろうと思うので、今後の動向を注目していきたい。
それにしても、新聞記事へダイレクトリンクが貼られることで、新聞社の利益が侵害されるという理屈は理解しづらい。新聞社のオンラインニュースのビジネスモデルの実態は知らないけれど、記事の周囲に貼られている広告も大きな収入源だろうと思う。だとすると、記事を引用されちゃう場合はともかくも、リンクされているのであれば、その記事をより多くの人が目にしてくれるチャンスがあるわけだし、ページビューが増えれば広告主との交渉も有利になるのじゃなかろうか?
そもそも、新聞サイトのトップページへのリンクしか認めないやり方も不思議だ。むしろ記事へのダイレクトリンクを積極的にしてもらい、どんな記事に注目が集まるのかのデータをビジネスに有効活用するほうが賢いのじゃないだろうか?
ついでに書いておくと、せっかく紙の新聞を有料で購読していてもネット上では何も特典がないのもつまらない。例えば過去記事データベースへのアクセス権で多少のサービスをするとか、何らかの読者サービスをしてくれても良いのじゃないだろうか?
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コメント
知財判決速報にhttp://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/d36216086504bdc349256fce00275162/0c642a4a124dc13d492570970018104b?OpenDocument" target="_blank">判決文が掲載されました。結構長いので、全部理解しきれていませんが、全体の印象としては、訴訟全体としては限りなく読売の負けに近いです。(訴訟費用についても、全体の1万分の9995 は読売側の負担と認定されてます。)
結局、デジタルアライアンス社が、ニュースを配信する意図を持ち、広告収入を得るという商行為として、大量の記事見出しに継続的にリンクを貼っていた、という行為に限定して、不法行為と認定したということのようです。その費用も見出し1つ当たりでは51円程度と随分と小さなものとなるようです。(月額10769円、1日7件×30日)
なお、判決での不法行為というのは、民法709条を根拠としています。
また、読売側は訴訟の中では不正競争防止法(商品の模倣)の適用についても主張していたようですが、不正競争防止法は無体物を対象とはしないと、極めて明確に否定されちゃってます。
投稿: tf2 | 2005/10/12 20:02
デジタルアライアンス社のhttp://linetopics.d-a.co.jp/" target="_blank">ホームページに彼らの見解が掲載されましたが、上告を見送るとのことです。読売新聞側も控訴はしないようなので、判決はこれにて確定ということになるようです。(参考:http://www.asahi.com/national/update/1026/TKY200510260292.html" target="_blank">asahi.com)
投稿: tf2 | 2005/10/26 22:17