成田空港の新たな爆発物検査装置
NIKKEI NETの記事(10/18)。爆発物検出の実験、成田空港で開始
テロ対策を強化する一環として、成田国際空港会社は17日から、旅行客の手荷物に残ったごく微量の爆発物を検出できる「ふき取り式爆発物検査装置(ETD)」の実証実験を始めた。来年6月にオープンする予定の第1旅客ターミナルビル南ウイングでの預かり手荷物検査への導入を検討している。ということで、荷物の外側に付着している微量の粉末を分析して、爆発物であるかどうかを迅速に判定する装置のようだ。日本経済新聞の10/18の朝刊(38面)には、これに加えて荷物に付着したわずかな量の成分から、爆発物の有無を検知することができるという。1グラムの10億分の1(ナノ)グラム程度の微量でも反応する精度が売り物だ。専用シートで手荷物の取っ手や表面をふき取り、装置にかけるだけで、分析が済む。
日立製作所が装置メーカーとして参加している。実験に使う装置を日立が提供した。
ETDは成田空港では、客室持ち込み手荷物の検査用としては既に導入されている。実証実験では、預かり手荷物の検査に使う場合の精度や操作性などを約二週間かけて調べる。とある。どんな方法で微量の爆発物の検出を行っているのかに興味があるところだが、日立製作所のニュースリリースによると、この装置は質量分析計で、イオン化にコロナ放電を採用しているとのこと。この分析装置 DS-110E-Wの仕様も見られる。南ウイングでは、搭乗手続き後、CT(コンピューター断層撮影装置)スキャンを使って預かり手荷物を調べるシステムも導入する予定。CTスキャンや目視でも安全を確認できなかった手荷物をETDで調べることで、より精度が高くスムーズな検査を実現する。
質量分析法は、Wikipediaに詳しいが、サンプルを何らかの方法でイオン化し、そのイオンの質量を何らかの方法で測定するもので、この装置では四重極型という一般的な検出方法を採用している。四重極型というのはあまり感度は高くないと思うのだが。。 一方、コロナ放電によるイオン化というのは、液体試料の場合にはここの5番めにある大気圧イオン化法(ESI)があるが、今回は固体試料である。TNTとか黒色火薬などについても、コロナ放電でイオン化できるということだから、何か新しい工夫がされていそうだ。一般的な検出方法でありながら感度が高いということだから、イオン化の効率も高いのだろうと思われるのだが詳細は不明だ。
日立製作所の2005/7/20のニュースリリースには、この装置がアメリカのTSAの認証を得たことが書かれており、ETDが Explosives Trace Detection の略号であることがわかる。
Web東奥のニュース百科によると、成田空港での手荷物検査については、既にアメリカ製の装置が2002年から導入されているようだ。航空最新情報によると、アメリカでも2002年の1月から全ての荷物の爆発物検査が行われるようになったようだ。そう言えばアメリカの空港で、荷物に鍵をかけていると、錠を壊して開けられちゃうから、最初から鍵はかけないでおけ、と言われたな。。
今回の装置は、従来の装置よりも操作が手軽で高感度ということが売りなのかもしれない。でもあまりにも感度が高いと、誤報が多くなって大変という可能性もある。何しろ、荷物の外側についたナノグラム規模の粉を分析してしまうのである。まあ、一般人が普通に生活している限りは、爆発物の粉末と接触する機会はほとんどないだろうけど、それに関係する仕事(花火関係、火薬会社、発破作業関係など)も世の中には多いから、タクシーのトランクだとか、近くに置かれた他の荷物からの汚染なども考えられなくもない。ということで、感度が高ければ高いで逆に調べる手間が増える可能性もありそうだ。
素朴な疑問としては、「CTスキャンや目視でも安全を確認できなかった手荷物をETDで調べる」とあるけれど、CTスキャンや目視によって安全が確認できる荷物ってどういうものだろう? というか、目視で安全を確認できるものって相当に限定されそうだ。。 一般的に、危険であることの判定は比較的容易だとは思うが、安全であることの判定は難しいのでは? となると、結局ほとんど全ての荷物をETDで調べることになるのではないだろうか?
| 固定リンク
コメント
3月にアメリカに行ったときにはボストンでノートパソコンを拭き取られました。内部構造が複雑なのでCTを撮っても判別が難しいものだからではないかと思いました。シカゴでもCTを通すときにパソコンは手荷物から出して別のかごに入れろと言われました。
検査員と世間話を二言三言交わす程度の時間は掛かるので、利用する範囲は割と狭そうです。
投稿: ESD | 2005/10/19 00:56
パソコンは必ず「出せ」と言われますね。でも、私の場合には、手荷物やパソコンをふき取られたことはありません。全部を検査するのではなく、彼らなりの何らかの基準でスクリーニングしてるんですかね。。
以前は、パソコンを目の前で起動してみろ、と言われることもあり、なかなか立ち上がらずに時間が掛かったりしたようですが。
投稿: tf2 | 2005/10/19 20:06
そうか、あれは爆発物検査だったんですね。今までずっと、薬物検査かと思っていました。ちなみに、昨年の夏に大連に行ったときには、係員が私のバッグに入っていたボールペンを何故か注射針だと言って騒ぎだし、えらい目にあいました。。。科学的手法の早期普及を切に願っています。
投稿: jitsuko2 | 2005/10/20 18:16
jitsuko2さん、貴重な体験談ありがとうございます。空港の手荷物検査では、皆さん結構いろんな珍しい体験をしているようですね。その体験談を集めるだけで、相当面白い(失礼)読み物になりそうです。
投稿: tf2 | 2005/10/20 19:54