スーパーインテリジェント触媒
nikkeibp.jp(10/7)の記事。ダイハツなど、自動車用触媒の貴金属を大幅に削減する技術を開発
ダイハツ工業は日本原子力研究開発機構、キャタラー、北興化学工業と協力し、「スーパーインテリジェント触媒」を開発した。自動車触媒については、多少は興味を持ってウォッチしていたつもりだったけど、このダイハツのインテリジェント触媒については知らなかった。自己再生機能というのは何だろう? 本来、触媒は自分自身は変化せずに目的とする反応を促進する物質だけど、そうは言っても、実際には使用していると性能の劣化が起こるのが一般的だ。自己再生というからには、この性能劣化に対して何らかの改善を行うということだろうか。なかなか優れものだと思うのだが、その割にあまり知られていないような気がするのだが。。スーパーインテリジェント触媒は、ガソリン自動車用触媒に使用するパラジウム・白金・ロジウムの3種類の貴金属に自己再生機能を持たせ、排出ガス浄化性能の劣化を防止する機能を持つ。貴金属の使用量を大幅に低減しながら、低コストでクリーンな排出ガスを実現する。
2002年に実用化した「インテリジェント触媒」は、排出ガス浄化機能を持つ貴金属のうち、最も劣化しやすく使用量の低減が困難とされていたパラジウムに自己再生機能を持たせることにより、使用量の大幅な低減と触媒コストの削減を実現した。2005年9月末で、インテリジェント触媒を搭載した車両は150万台を突破した。
今回開発したスーパーインテリジェント触媒は、インテリジェント触媒でのパラジウムの自己再生時とは違う新しい材料での組み合わせにより、白金・ロジウムに自己再生機能を与えることに成功したという。
調べてみると、パラジウムの自己再生機能を持つインテリジェント触媒については材料科学振興財団の山崎貞一賞というのを受賞しており、ここにわかりやすく解説されている。この技術は、2002年にはNatureに掲載されたとのこと。また、Spring-8 Newsにも技術的な解説が掲載されている。
これは、触媒の活性成分であるパラジウムを、通常の触媒のように金属としてではなく、ペロブスカイト型のLa(Fe,Co,Pd)O3セラミックスとして担持しているようだ。自動車排ガスが還元雰囲気の時には、このセラミックスが還元され、中からパラジウムが外に出てきて貴金属触媒として働き、酸化雰囲気ではパラジウムがセラミックス内に戻り、ペロブスカイト型触媒として働く、ということを繰り返すらしい。
理屈はともかく、実用的なレベルでパラジウムの出入りを繰り返し、しかも触媒性能が劣化しない、というのがすごい。結果としてパラジウムの使用量を70~90%も削減できるようだ。日経Automotive Technologyによると、現在はトヨタビッツにもこの触媒が搭載されているようだ。
さて、今回のスーパーインテリジェント触媒は、インテリジェント触媒をさらに発展させ、白金とロジウムについてもパラジウムと同様にセラミックス内に取り込むことに成功したということらしい。ダイハツのニュースリリースを見ると、パラジウムの時とは異なる新たなペロブスカイト型セラミックスを開発し、これに白金やロジウムを固溶させたようで、Ca(Ti,Zr,Pt)O3や Ca(Ti,Zr,Rh)O3が使われているようだ。
自動車の排ガス浄化触媒は3元触媒と呼ばれ、ダイハツの補足資料にもあるように、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を一つの触媒で浄化する。HCとCOは酸化反応、NOxは還元反応によって浄化されるので、自動車排ガスが酸化雰囲気の時に主としてHCとCOを浄化し、還元雰囲気の時にNOxを浄化する。
このインテリジェント触媒は、貴金属が酸化雰囲気ではセラミックス結晶内にあり、還元雰囲気では金属粒子となるようだから、酸化反応(HCやCOの除去)はペロブスカイトが触媒として働き、還元反応(NOxの除去)は貴金属が触媒となるのだろうか? 田中氏の博士論文要旨でも、元々ペロブスカイト型の酸化触媒に貴金属を担持して3元触媒化する検討をしていた時に、貴金属が結晶内に入り込むことを発見したというような開発ストーリーが読み取れるようだ。
一方、ホンダでもペロブスカイト型の3元触媒を既に開発しており、2001年のニュースによると、こちらはインテリジェントとはうたっていないし、模式図によるとメカニズムも異なるようだが、やはり貴金属の使用量を大幅に削減できるらしい。。 いずれ自動車触媒はペロブスカイトが主流となるのだろうか? 教科書を書き換えちゃうような成果だな。。
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コメント
以下、ご存知でしたらすみません。
担持金属触媒は一般にシンタリングという問題を抱えています。
シンタリングとは、複数の粒子が寄り集まって1つの大きな粒子になる現象のことです。
白金の融点などは2000℃に近く、融点までかちっとした不動の固体を想像される方も多いかと思います。
しかし、触媒である白金のサイズは数~数十nmしかありません。
数百度の温度でも動き出してシンタリングを起こします。
シンタリングを起こすと、単位物質量あたりの表面積がどんどん小さくなります。特に触媒活性点となるようなサイト(エッジなど)が見る見る減少していきます。
(ちなみに、この話題には無関係ですが、金は単に表面積の問題だけでなく、量子サイズ効果が絶大な影響をもたらします)
従ってシンタリング抑制は、触媒の寿命を考える上できわめて重要な課題のひとつです。
スーパーインテリジェント触媒が凄い点は、ペロブスカイトへの吸収と析出というプロセスを経ることにより、この問題が見事にクリアされている点にあります。
小さな粒子径が維持できるので、少ない貴金属の物質量でも高い活性を維持できるわけです。
投稿: 触媒屋 | 2008/11/01 23:13