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2005/10/24

退職年齢と死亡リスクの関係

asahi.comの記事(10/21)から。早めの退職、長生きにつながらず=米研究者チーム

 早めの退職と長生きの間には相関関係がないとする調査研究を、米国の研究者チームがブリティッシュ・メディカル・ジャーナル誌のオンライン版で発表した。

 研究者らは、シェル・オイルの工場に勤務していた退職者3500人を対象に、退職時の年齢を55歳、60歳、65歳の3グループに分け、26年間にわたり健康状態をモニターした。

 その結果、退職年齢60歳と65歳のグループの死亡年齢はほぼ同じだったが、55歳で退職したグループの死亡率は他のグループよりも高かったという。

 同研究者チームの1人であるシャン・ツァイ氏は、「55歳または60歳で退職したグループが長生きする確率は、65歳で退職したグループと比べて決して良くはなかった。むしろ、退職時の年齢が上がるほど死亡率は低くなるという結果が出ており、それは高所得層でも低所得層でも同じだった」と指摘した。

というもの。こういう統計調査の結論は、眉にツバをつけながら、十分に注意を払って見る必要がある。例えば、

   ・対象者の数は十分なのか?
   ・特定の条件の対象者についての調査を、十分な根拠もなく一般化していないか?
   ・表には見かけの関係が現れているだけで、実は別の関係が隠れていないか?

などの項目はチェックした方が良さそうだ。また、たとえ、早期退職は長生きしない、という(相関)関係が正しかったからといって、早期退職が早期死亡の直接の原因になっているかどうかは全く不明であり、当然のことながら、長く働けば、それだけで長生きできるという話ではないので要注意。

ということで、この朝日の記事では、早期退職はまるで好ましくないような印象を持たせる書き方となっているが、関連記事を探してみると、10/24の NIKKEI NETの記事、「早期退職して長生き」統計的に効果薄・米研究者論文には、

 国際石油資本(メジャー)ロイヤル・ダッチ・シェルの米部門(ヒューストン)の従業員のうち、1973年から2003年までに55歳、60歳、65歳で退職した計約4500人について調査を実施。

 その結果(1)55歳や60歳で早期退職した人は、65歳で退職した人と比べ“余命”は延びていない(2)それどころか55歳で退職した人の死亡率は65歳での退職者より高かった(3)しかし60歳で退職した人の死亡率は65歳での退職者とほぼ同じだった――などの点が判明した。

 特に55歳で退職した人の当初10年の死亡率は働き続ける人と比べ2倍近くになるが、その理由として論文は「55歳の退職者には(もともと)健康上の理由で辞める者も含まれるため」としている。

とあり、調査対象人数にも違いがあったり、調査結果のまとめ方にも違いが見えて興味深いのだが、何よりも一番の違いは、55歳の退職者にはもともと健康上に問題があるケースが含まれる、ということが書かれている点だろう。実際にこの文のために、記事全体の印象もかなり異なってくる。

そもそも、アメリカでは65歳まで働くのが一般的なのだろうか?経済企画庁の資料によると、アメリカには「雇用における年齢差別禁止法」というのがあって、日本のような定年制度はないようだから、働く意欲と能力のある人は65歳まで働くのが普通なのかもしれない。

今回の調査については、British Medical Journal の論文の全文がこちらで読める。

まあ、人間の健康や寿命を考える際に、退職年齢との関係だけを見出そうとしても難しいのは当然だろう。退職するまでの状況も、退職後の生活も、それぞれのケースで千差万別だろうし。しかも、この調査の早期退職者が、一般に期待されるような、優雅で悠々自適な生活をエンジョイしている人ばかりではないことは確実だろうし。。 恐らく、調査対象者数を増やせば増やすほど、この程度の単純な分類では明確な相関関係が見られなくなっていくのではないだろうか?

google.newsでこのニュース関連の海外の関連記事を探すと、
  Younger Retirees Face Higher Death Rate:Forbes
  Work harder, live longer:TIMES
  Don't Retire to Save Your Life:Medical BREAKTHROUGHS
  Retiring early could cut your life short:Daily Mail
などなど、日本以上に相関関係を(意識的に)因果関係にすりかえたような見出しが目立つ。どこの国でも新聞はセンセーショナルがお好きなようだ。

ところで、今回の調査は、あのアメリカの特定の大会社が調査対象である。ということは、日本と比較すれば定時退社がかなり多いだろうことが容易に想像される。とすれば、少なくともこの結果は、日本の長時間残業を続けるサラリーマンに当てはめるのは無理がありそうな気がするが、どうだろう?

もっとも、日本の場合でも、早めに退職したからといって、その後の生活がサラリーマン生活を続けるよりも心身にとって健康的なものになるかというと、それはまた別の問題だろうけど。。

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コメント

私の知人が都内某所で講演したときに使った分析で、東証一部上場企業の役員の平均年齢とその企業の収益性の相関を縦横にプロットしたものがありました。R2は0.8を越えていたと思います。もちろん、年齢が高い方が収益性が低いわけですが。。。

投稿: jitsuko2 | 2005/10/25 20:17

なかなか面白いお話ですね。

そこからいきなり、「若いものを役員に抜擢すれば収益が向上する」という結論を導くとダメダメでしょうけど、企業の構造改革のための切り口を提供しているのは間違いなさそうです。

若い人が役員になれるような会社は、大体成長性の高い分野のような気もしますが、他にも色々と検討すべき要素が潜んでいそうです。

投稿: tf2 | 2005/10/25 22:02

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