今日の社説では、朝日・読売・毎日の3紙とも、羽越本線の特急脱線事故について論じている。
朝日:特急脱線 冬の強風、北国の悲劇
読売:[特急脱線転覆]「強風対策は万全だったのか」
毎日:特急転覆 安全管理で浮ついてないか
タイトルを見ただけでも大体想像がつくが、朝日、読売、毎日の順にJRの安全に対する姿勢に対する批判的な姿勢が強くなっている。まだ事故の全貌も、原因も明らかとなっていない時点で社説でどこまで主張するのか、結構悩ましかっただろうと思う。
朝日は、
風速計に故障がなかったとすれば、鉄橋付近を予想もしない局所的な突風が襲ったのだろうか。
この鉄橋は、川面からの高さが8~9メートルある線路がむき出しの「開床式」だ。運転士は「突風が吹き、車体が浮き上がった」とも語っている。下から吹き上げる風にはもろい車体が持ち上げられた、と推測する専門家もいる。
国土交通省の事故調査委員会や山形県警が原因の調査を始めている。強風にさらされる鉄道は各地にある。効果的な再発防止策をとるためにも科学的な原因解明の努力を尽くしてほしい。
とあり、今回の事故は避けることが難しかったかもしれないというニュアンスをにじませ、ともかく原因究明を徹底的にして欲しいという主張である。まあ、朝日にしては穏健な主張と言えるのではないだろうか。
読売は、
原因究明に向け、国交省の航空・鉄道事故調査委員会が調査を始め、山形県警も捜査本部を設置した。自然現象による不可抗力の事故、などといった先入観を持たず、原因の徹底究明が必要だ。
運転士は「橋の上を走行中に突風を受けて車体が浮いた」と話している。「ものすごい突風が吹いた」とか「風がすごくて窓がバリバリと鳴るほど」だったという乗客の証言もある。しかし、JR東日本の輸送指令室は、徐行運転や運転停止の措置を採っていなかった。(中略)
複数の要因が絡んで起きた可能性はある。だが、山形地方気象台も暴風雪警報を発令中だった。
沿線の気象に細心の注意を払わず、マニュアル頼みだったとすれば、刻々と変わる状況に対応できない。鉄橋上に特有の強風を計算せず、適切な指示や改善を怠った人災ということはないのか。安全運行システムや車両性能にまで踏み込んだ検証が欠かせない。
現場は緩い下りの直線で、時速120キロまでの高速運転が可能な区間だが、運転士の運転に問題がなかったかも、詳細に調べる必要がある。
ということで、マニュアル任せではなく、現場の状況に最新の注意を払っていれば避けられたのではないかということらしい。さらには、運転士の運転にまで言及している。運転士が現場の判断で勝手に徐行するようなシステムを作ったら、日本中のダイヤが大変なことになりそうな気もするけど、どうなんだろうな?
毎日はもっと過激で、現時点でここまで書くか?という印象を持たせるものなので、ちょっと長いけど全文載せておく。
4月の兵庫・尼崎の悪夢がよみがえった。山形県の羽越線で起きた特急「いなほ」の脱線転覆事故。先頭車両は今度も線路脇の建物に激突し、車体を「く」の字形に曲げていた。閉じ込められた乗客の救出に時間を要したのも、尼崎の事故と同様だ。死者4人、負傷者三十余人を数える痛ましい事故である。乗客が少なかったのがせめてもの救いで、込んでいれば、さらに大きな惨事となっただろう。尼崎の事故後、鉄道事業者は安全対策に万全を期していたはずだが、年も変わらぬうちに再発させるとは利用者への背信行為だ。取り組みの姿勢や関係者の意識を疑わずにはいられない。
強い横風が原因、とみられている。運転士も「突風で車体がふわっと浮いた」と話しているという。雪国では冬の嵐に見舞われ、台風並みの強い風が吹き荒れることが珍しくない。その風にあおられたらしい。現場付近の風速は毎秒約20メートルで減速規制するほどでなかったというが、平時と同じ時速約100キロで最上川の橋梁(きょうりょう)を渡ったことに問題はなかったか。突風とは言いながら、風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ。暴風雪警報下、日本海沿いに走るのだから、運行には慎重であってほしかった。
風速25メートルで速度規制、30メートルで運転中止--というマニュアルに違反していない、との説明にも納得しがたいものがある。設置場所が限られた風速計に頼っているだけでは、危険を察知できはしない。五感を鋭敏にして安全を確認するのが、プロの鉄道マンらの仕事というものだ。しかも86年の山陰線余部鉄橋事故などを引き合いにするまでもなく、強風時の橋梁が危ないことは鉄道関係者の常識だ。ましてや「いなほ」は秋田県の雄物川では風速25メートル以上だからと徐行したという。現場では計測値が5メートル低いと安心していたのなら、しゃくし定規な話ではないか。
国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会は直接の原因だけでなく、列車の遅れとの関係、運転士や列車指令の強風への危機意識なども徹底的に調査し、再発防止に資する具体的な提言をすべきだ。
惨事を繰り返しても、関係者の安全意識が高まらないことが歯がゆくてならない。JR西日本では先月、30カ所のカーブなどに設置した自動列車停止装置(ATS)が設計ミスのため、通過列車が速度超過しても作動しない状態になっていたことが発覚し、問題となっている。JR各社の在来線では国鉄の分割・民営化後、輸送障害と呼ぶトラブルが増加し、他の大手私鉄よりも安全面で劣っていることを示す国交省統計もある。
鉄道のほか航空機、バス、タクシーも規制緩和された後、コスト削減によって安全面で不安が生じているとの指摘が相次いでいる。耐震偽造事件でも民間が参入した建築確認のあり方が問題化したが、経済規制を緩和しても、安全面までむやみに緩めるべきでないことは言うまでもない。この際、公共交通のすべてについて、安全対策を総点検すべきである。
今回脱線した特急「いなほ」は、秋田発新潟行きだったが、以前の「いなほ」は新潟回りで秋田と上野をつなぐ特急で、僕自身何度も利用した経験がある。今回の事故現場付近は、多分数十年前から大きくは変わっていないのではないだろうか? ここを時速100km程度で走行する列車は、一日に何本も走っているはずだから、数十年間に延べ数万本の列車が走って、今回初めて事故が起こったのだろうと思う。
偶然が重なって起こった事故なのか、それとも偶然が重なって今まで事故が起こらなかったのか? 確かに、鉄橋の構造に問題があったのかもしれないし、風速の観測システムや、規制の基準に問題があったのかもしれない。それでも今まで数万回問題がなかったわけだし、だから安全だろうと思い込むことは、果たして安全を過信していたという非難を受けるべきことなのだろうか? これだけ大規模な事故の発生確率は、通常百万分の一以下レベルを目標とするのだろうと思うから、今回のケースは結構微妙だと思われる。 それに対して、毎日の社説は随分と断定的で、JRを思いっきり非難している。しかも、今回の事故が、まるでコスト削減の結果起きたかのように書いてあるけど、そんな因果関係は今のところ出ていないと思うのだが??
もちろん、こういった事故はできることなら起きて欲しくないし、起きたからには原因を究明して、再発防止をするべきだ。でも、それはやっぱり結果論だ。むしろ「すべての事故は未然に防ぐことができる」という信念を持つことの方が、よっぽど安全を過信していると言えるのではないだろうか? 想定外の現象が起こればどんなシステムでも事故は起こりうるのだ。それを許さないとするならば、当然コストは膨大となるし、ダイヤも乱れ放題ということになりかねない。それでも、人の命は守られるべきだ、というのであれば、皆が納得してコストや時間を負担すればよいのだが、本当にそこまでの覚悟があるのだろうか?
もちろん今回の事故の犠牲者の方は、不運だったと思うし、無念だろうと思う。謹んでご冥福をお祈りしたい。でも、考えてみると、いわゆる不慮の事故で亡くなる方というのは結構多くて、死亡数、死亡率、性×死因分類別(Excel表)を見ると、年間4万人弱もいるのだ。世の中は結構不条理だし、人の命は思った以上にはかないものだという悟りのような感覚も必要だと思う。
それと、目に見えるところで人の命をあまりにも尊重しすぎると、全体のバランスを欠くことになり、却っていろんな弊害があるようにも思うのだが。。
最近のコメント