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2005/12/22

「地球の内部で何が起こっているのか?」

光文社新書のラインナップとしてはちょっと異色な印象の本だが、現役の研究者が地球科学の基礎から最新事情までを紹介したとてもまじめな内容である。このブログでも 8/2に紹介したマントルまで掘り進む船「ちきゅう」のことや、それを使ってやろうとしている研究内容の紹介もされている。

光文社新書 214
 地球の内部で何が起こっているのか?
 平 朝彦、徐 垣、末廣 潔、木下 肇 著 bk1amazon

前半は、プレートテクトニクスの話や、地球の歴史の話についてわかりやすく解説されている。また、どうやってそういう地球観が得られたのか、というストーリーも織り交ぜ、科学の面白さも伝わってくる。断片的にはテレビなどで知っていたけど、何しろ「地学」を学校で学んだのは数十年も前のことになるので、最新の考え方をコンパクトにまとめてあって、ありがたい。

一方、後半は最新の掘削船「ちきゅう」についてや、これを使った掘削の計画について語られている。関係する研究者が寄せたコメントが数多く紹介され、正に現在進行中のプロジェクトについて、さまざまな面から説明されている。ところが、この後半部分はどうも今一つまらない。どんな読者を想定して書かれたのかが不鮮明な印象で、技術的な解説も中途半端だし、これを使って得られる将来像についてもどうもピンと来ない。

前半部がとてもわかりやすくて面白かっただけに、後半もその調子で、素人を対象として、海底の掘削というのがどういう技術で、一つ一つの課題をどうやって解決し、どういう情報から何がわかるのか、といったことをもっと丁寧に語って欲しかったのだが。。

そもそも、どうやって海底深くの地層を数千メートルも削り取って来れるのか、という根本的な技術の部分が、どうもうまくイメージできない。特に、従来の技術の壁となっていたものを、「ちきゅう」ではどうやって乗り越えたのか、というような点がよくわからない。この辺は、JAMSTECの 地球深部探査船「ちきゅう」のサイトあたりを読んだ方が図が多いこともあってわかりやすい。

やっぱり、こういう最先端の部分については、科学者自身が語るのでは限界があって、「メタルカラーの時代」のように「プロの素人」が突っ込まないと、わかりやすくならないのかもしれない。。

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コメント

(関係者といえば関係者なのですが、直接の関係者ではありません。しかもこの本は「見た」だけで読んでいないのですが....)

掘削技術の部分、情報源はほぼ同じはずなのですが、この本とweb siteがどう違うか考えてみると、ひとつの要因は、この本の著者たちは地球科学者(掘削で得られたサンプルやデータを使う人たち)であって、掘削技術者ではないことです。つまりこの部分については(技術の)プロ自身が語っているわけではないわけです。Web siteのほうの掘削技術の部分は、広報担当者が書きなおしたかもしれませんが、材料は、掘削技術のプロか、掘削船の予算をもらうために技術の説明を何度もしなおした事務系の人(ある意味で、おっしゃるところの「プロの素人」に近いでしょう)が書いていると思います(実際にだれが書いたか聞いたわけではなく内容からの推測ですが)。

(一般的に科学者は技術について書くのに向かないというわけではありません。新しい探査技術のアイディアを科学者が出した場合は、その人が書けば、意義も見えているだけに、すぐれたものになることもあるでしょう。この著者たちの場合も、そういうふうに技術を語れる仕事もあると思いますが、掘削はそうでなかったのかもしれません。)

図の使いかたも、おっしゃるとおり、わかりやすさに影響していると思います。ことばだけでは伝えにくい対象であることに加えて、このごろの科学者はスクリーンに図を示しながら講演するのに慣れており文章だけで説明するのは苦手になっているという事情もあるかもしれません。他方、一般向けの読みものの本を作る出版社の人たちは、文章を続けて読めるものがよい本だと思い、図に頼ることを避ける傾向があるのではないかと思います(「図解」と銘打った本では逆ですが)。少ない図を使って説明する能力のある科学者が必要な場合も、たくさんの図を使いこなした読みものの本をつくれる編集者が必要な場合もあると思います。(もちろん、第3の立場から「突っ込む」人がほしい場合もあるでしょう。)

投稿: macroscope | 2005/12/23 21:31

macroscopeさん、ありがとうございます。なるほど、研究者は掘削技術の専門家ではないのですね。その点は意識していませんでした。

科学者や研究者が先端分野について一般の人を対象とした本を書いたり、講演をするというのはとても大切だと思います。本書はそんなチャレンジをしている点だけでも高く評価できると思いますし、少なくとも前半部分はとても面白かったですから、半分以上成功しているんじゃないでしょうか。

後半が今一おもしろく感じなかったのは、私個人の興味と著者の書きたかったことがマッチしなかっただけかもしれません。本書もこの手の本としてはかなり多めに図表を使っていると思いますし、決して説明がわかりにくかったわけではないのです。

まじめな研究者ほど、未知の部分を語る際に慎重に言葉を選ぶ傾向があるように思いますから、それもあって、これからのことを書いた部分でわくわく感が伝わって来なかったのかもしれません。

これから、「ちきゅう」が活躍して、成果がニュースで報道されたときにでも、また本書を読み返してみたいと思います。

投稿: tf2 | 2005/12/23 22:16

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