温度を上げると縮む物質
理化学研究所のプレスリリース(12/13)。温度が上がると縮む新物質を発見
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と独立行政法人科学技術振興機構(沖村憲樹理事長)は、温度が上昇するにともない連続的に体積が小さくなる新たな物質を発見しました。理研中央研究所高木磁性研究室(高木英典主任研究員)の竹中康司先任研究員らによる研究成果で、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・チーム型研究(CRESTタイプ)の研究課題「相関電子コヒーレンス制御」の一環としても進められたものです。というものだが、負の熱膨張を示すというのは確かにかなり珍しい。ここでは、氷が水になる例が出ているが、これは固体→液体の相変化に伴うものなので、ちょっと違うような気もする。ちなみに、水の場合には 0℃から 4℃の間も、温度の上昇と共に体積が減少するが、これはもちろん液体状態の話である。固体の場合にはどんなものがあるだろう?通常、物質は温度が上昇すると体積が大きくなります。これが「熱膨張」で、グラスに熱湯を注ぐと割れることなど、生活になじみの現象です。ところが、ごく希に、温度が上昇すると逆に体積が小さくなることもあります。これは「負膨張」と呼ばれ、身近には氷が水になると体積が小さくなる例があります。竹中先任研究員らは、「逆ペロフスカイト」と呼ばれる構造をもつマンガンの窒化物が、構成元素の亜鉛、ガリウムや銅の一部をゲルマニウムで置き換えると、室温付近で大きな負膨張を示すことを発見しました。
負膨張物質は、材料の熱膨張を抑制・制御できるため、温度による形状の変化を極端に嫌う精密光学部品はじめ各種精密デバイスに利用される他、最近ではファイバー・グレーティングと呼ばれる光フィルターの性能安定化に貢献するなど、様々な分野で活躍しています。しかし、これまで実用の負膨張材料は、タングステン酸ジルコニウムなどほんの数例に限られていました。(後略)
身近なところでは、耐熱性の結晶化ガラスが負の熱膨張をする結晶を、通常の正の熱膨張をするガラスと混ぜることで、熱膨張がほとんどゼロのガラスを作り出している。
調べてみると、RuO2 などのように結晶の特定方向だけに負の熱膨張を示すものもあるが、上のプレスリリースにもある ZrW2O6 などは等方的に負の熱膨張を示すようだ。
普通の物質が正の熱膨張をするのは、温度の上昇と共に原子の熱振動が激しくなり、原子間の平均結合距離が長くなるためだ。一方、負の熱膨張は、例えば低温では何らかの歪みを含み、隙間の多い構造をしているものが、温度の上昇とともに歪みが解消することで体積が減少するケースなどがあるようだ。
今回の理研が発見した物質は、「逆ペロブスカイト」という構造を持つマンガン窒化物 Mn3XN で、Xの位置にある亜鉛、銅、ガリウムなどの一部をゲルマニウムに置換したもの。(プレスリリースは「逆ペロフスカイト」となっている。)プレスリリースに掲載されている熱膨張のグラフを見ると、室温付近の100℃程度の温度範囲に限られるものの、確かにきれいな負の熱膨張を示す領域がある。この負の熱膨張は、磁気体積効果と呼ばれるもので、インバー合金で知られる現象と同じとのこと。これは温度の上昇に伴い、その磁気特性が変化することによって体積が減少するようだ。
このMn3XN(ガリウム置換マンガン系窒化物)の特徴として、組成を調節することで熱膨張率を制御可能であること、大きな負の熱膨張を示し、それが等方的で均一であること、電気伝導性や熱伝導性が高いこと、機械的強度が高いこと、安価な原料からなることなどがあるそうで、今後の応用が期待できそうだ。
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