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2006/01/24

『「白い光」のイノベーション』

サブタイトルは「ガス灯・電球・蛍光灯・発光ダイオード」で、主として産業革命以降の照明技術の進歩を技術史として語る本である。帯には「人と明かりの50万年、太陽の光にできるだけ近い無色透明な光を手に入れるために人類が積み重ねてきた創意工夫と試行錯誤」とあり、なんと50万年前にまでさかのぼってしまうらしい。

朝日選書 790
 「白い光」のイノベーション ガス灯・電球・蛍光灯・発光ダイオード
 宮原 諄二 著 bk1amazon

第1話では、本書を通して流れる主題の一つである「白い光」とは何かについて、物理学および生物学の面から解説し、第2話では、人類の文明の歴史を追いかけ、明かりの役割や変遷について概観している。そして、第3話以降は、サブタイトルにあるそれぞれの照明技術について詳しく述べるという構成となっている。

全体として、かなりすっきりと読み終えることができた。ともかくとても読みやすい本である。何よりも著者の主張したいことがきちんと整理されており、それぞれの時代背景を含めて非常にすっきりと頭に入る点がありがたい。

さて、本書は「白い光」を追い求めて発展してきた、照明技術の変遷を解説するという側面と同時に、照明を例にして、新しい技術がどのように開発され浸透したのか、というイノベーションやパラダイムシフトについての著者の論説となっている。

確かに、ガス灯、電球、蛍光灯、発光ダイオードというのは、実用化された時間の順番に並んでいるけど、技術的には決して連続したものではなく、それぞれが全く別の原理で光を放つものである。ということで、例えばガス灯から電球へ、電球から蛍光灯へ、という移り変わりの時期には、技術的に大きな飛躍が起こっており、この段階の開発の経緯を詳しく見ることで、それぞれのイノベーションがどのように起こったのかを知り、そこから多くのことを学ぼうという趣向である。

ガス灯が実用化される段階では「原料のくびき」が足かせとなり、白熱電球が実用化される段階では古い技術の最後の輝き「帆船効果」との闘いがあり、蛍光灯の実用化段階では大企業の研究所によって「リニアモデル」による開発が進められ、そして白色発光ダイオードの開発では「辺境効果」により日亜化学が勝者となった、という具合である。

著者のものの見方が絶対的なものとは思わないが、なかなか説得力のある説明であり、勉強になった。他にも、インベンションは必ずしもイノベーションにはつながらないことや、セレンディピティの話、あるいはエジソンが決して純粋な発明家ではなく、優秀な技術開発者であると同時に先進的な起業家であった話や、初期の蛍光灯開発競争の様子などの興味深い話が満載である。

ということで、本書は個別の照明技術、およびその変遷について興味のある人はもちろん、より一般的な技術イノベーションについて考えたい人にもお勧めしたい。特に、いわゆる企業の製品企画や研究企画部門の副読本として、若い研究者などが、今自分が行っている仕事が全体の中でどんな位置付けにあるのか、なんてことを考えながら読むと良いかもしれない。

敢えて難を言えば、本書の特に化学面の記述で、いくつかの間違いや不具合が見られることだろうか。

 ・p.94他の何ヶ所かで、希土類元素のNdを「ネオジウム」、Prを「プラセオジウム」と表記しているが、正しくはそれぞれ「ネオジム」「プラセオジム」である。これはかなりよく見られる間違いではあるのだが、やはりこの手の本では正しく表記して欲しい。ちなみに英語では "Praseodymium"、"Neodymium"となる。

 ・p.97に「ブンゼンとキルヒホフは1860年には希土類元素のセシウムを、1861年にはルビジウムを発見している。」とあるが、どちらもアルカリ金属元素であり、希土類元素ではない。セリウムとセシウムを取り違えたのだろうか?

 ・付録として巻末に掲載されている周期表が、「IA属、IIA属、IIIA属、・・・」と表記されているかなり古いタイプの周期表である。現在は1族から18族までの数字で表すことになっている。例えば文部科学省の一家に1枚周期表のようなタイプである。

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