ニューホライズンズとプルトニウム電池
CNN.co.jpの(1/20)の記事。冥王星探査機の打ち上げ成功 到達は10年後
米航空宇宙局(NASA)は19日午後2時(日本時間20日午前4時)、フロリダ州ケープカナベラル米空軍基地から太陽系の第9惑星、冥王星に向けて無人探査機「ニューホライズンズ」を打ち上げた。冥王星に到達するのは約10年後になる見通しだ。ということで、無事に地球から冥王星に向けて旅立ったようだ。それにしても、月まで9時間というのはものすごいスピードだ。探査機の名前の「ニューホライズンズ」を目にして、思わず中学校の英語の教科書を思い出してしまったが、あちらは NEW HORIZON(まだ同じ名前で出ている!)だが、こちらは複数形の New Horizons である。Horizonといえば「水平線」と覚えていたので、複数形はおかしくないか? と思って調べてみると、複数形の horizonsに は知識の限界といった意味があるようだ。ニューホライズンズはアトラス5ロケットで打ち上げられ、約43分後にはロケット切り離しに成功した。打ち上げは当初17日に予定されていたが、強風と電源異常のため2回にわたり延期されていた。
ニューホライズンズは、69年にアポロ11号で3日間かかった月を、約9時間後に通過。約1年後には木星の重力を利用して、時速7万5600キロまで加速する。世界初となる冥王星探査では、本体だけでなく、衛星や外側の小惑星帯カイパーベルトなどを観測する計画だ。
太陽から遠く離れると太陽光発電が使えないため、ニューホライズンズにはプルトニウム電池が搭載されている。打ち上げが失敗した場合の環境汚染を懸念する声も上がったが、NASAは「事故でプルトニウムが漏れ出す確率は620分の1にすぎない」と、安全性を強調していた。
Wikipediaのニューホライズンズを見ると、月と木星までのスピードはやっぱり最速で、木星には13か月で到達するのだが、それでも冥王星までは9年半掛かるとのことで、冥王星はとっても遠い。。
CNNの記事で気になったのは、プルトニウム電池搭載の件。事故でプルトニウムが漏れ出す確率が 1/620 というのは、結構大きい数字だと思うんだけど、これで関係者は納得したんだろうか?(場合によっては我々だって関係者と言えなくもないだろうけど。。)
そもそもプルトニウム電池って何? 時々聞くけど、実は原理や構造は知らなかったので、ちょっと調べてみると、原子力百科事典の原子力電池には、図も掲載されており説明もわかりやすい。今回のプルトニウム電池は、238Puを主とする燃料から発生する熱を熱電対で電気に変換するもので、構造も相当にシンプルのようだ。通常の化学電池や太陽電池とは全く異なる原理と構造であり、電池と呼ぶのもちょっと抵抗を感じる。
調べてみると、NASAの土星探査機カッシーニは、スイングバイのために1999年の8月に地球に接近したのだが、その際に事故を起こし、搭載するプルトニウム電池から放射線が地球に降り注ぎ、ノストラダムスの予言が現実になる!と騒いでいた人たちが沢山いたらしい。。
で、NASAの公式ホームページNEW HORIZONSを見ると、このプルトニウム電池についてはPOWERのページに詳しい説明が載っている。ここに掲載されている資料を見ると、今回の電源は RTG(Radioisotope Thermoelectric Generator)と呼ばれていて、電池とは呼んでいないようだ。JAXAの資料によると、ニ酸化プルトニウムを11kg搭載しているとのこと。
問題の事故確率については、Final Environmental Impact Statement (Vol. I)にまとめが掲載されているが、ざっと見たところ、打ち上げ時にプルトニウムが大気中に漏れ出す事故の起こる確率が1/620で、その時に最大の暴露を受ける人の暴露量が0.3レム、暴露集団の発がん致死率の増加が(百万分の?)0.4とのこと。この調査では、他のケースも計算しており、トータルでの事故確率は1/300となっている。詳細は見ていないので、読み間違っているかもしれないが、思ったよりも事故時の放射線による被害が小さい気もしないでもない。
カッシーニの際に大騒ぎした人の資料を見ると、プルトニウムによる被害をいわゆる(吸入)毒性で評価し、全てのプルトニウムを均等に致死量分ずつ摂取させた場合の死者を求めているらしい(計算が桁違いに間違っているような気がするけど)。 一方、このNASAの計算は大気中に飛散したプルトニウムからの放射線暴露による発がんで計算しているようだ。(参考:プルトニウムの毒性) まあ、どういう事故を想定し、どういう暴露経路を想定するか?という問題であり、その事象が起こる確率をきちんと計算して評価するのであれば、どんなにありえそうもない事態を想定しても構わないわけだが。。
それにしても、数百分の一の事故確率って結構高い。スペースシャトルの打ち上げ失敗確率は実質1/50(114回中2回の爆発事故)だから、それに比べれば相当に低いと言えなくもないのだが。。
ちなみにプルトニウム(Plutonium)の元素名の由来は冥王星のプルート(Pluto)とのこと。
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コメント
TBさせていただきます。お見知りおきを。
投稿: トヨコカ0119 | 2006/01/20 22:49
TB先、読ませてもらいました。なるほど、超大型ロケットにコンパクトな探査機を搭載することでスピードを稼ぎ出したのですね。
手持ちの資源の有効利用ということになるでしょうか。もっとも、将来に向けてさらに高性能ロケットの開発をしてくれる方が夢がありますけど。。
投稿: tf2 | 2006/01/21 19:46
今日のネタは冥王星だと思ってました・・・
投稿: sakai | 2006/08/24 00:01
今のところ、まだ結論が出てませんし、ここのところ日々状況が変化しているようですし、これだけあちこちで報道されていれば、敢えて突っ込む余地もなさそうですから、とりあえず静観してます。
投稿: tf2 | 2006/08/24 01:42