乳酸はエネルギー源だった?
日本経済新聞の1/18の夕刊コラム「からだのお話」に面白い話が載っていた。
乳酸の新しい常識 筋肉動かすエネルギー源さらに、ミトコンドリアでATPが生成される流れについての図が載っていて、これによると乳酸には「疲労物質=悪玉」のイメージがつきまとう。「アスリートの敵」と呼ばれることさえある。だが、最近のスポーツ科学では、乳酸は筋肉を動かすエネルギー源と考えるのが新しい常識だ。運動時のエネルギー代謝を研究する東大の八田秀雄助教授は「敵どころか、アスリートは乳酸と友達になると強くなれる」と話す。
乳酸は、激しい運動で手っ取り早くエネルギーが必要な時、速筋と呼ばれるタイプの筋繊維が糖質を分解して一気にエネルギーの元になるATP(アデノシン3リン酸)を作る際に発生する。
そのため、糖の搾りかすと考えられがち。悪玉イメージもそれが理由か。中学生のころの保健体育では「老廃物の乳酸は血液によって肝臓に運ばれて処理される」と習った記憶もある。
だが、今では乳酸の本当の役割が分かってきた。「乳酸は血液に出ても再び筋肉に入ってATPを作るために使われます」と八田助教授。
乳酸をエネルギーに変えるのは、持久的な運動で活躍する遅筋と呼ばれる筋繊維。休むことのない心臓は遅筋の固まりだ。体の化学工場といわれるミトコンドリアが大量にあり、酵素を使って脂肪や糖からATPを常に作っている。
ブドウ糖(グルコース)1分子から速筋は2個のATPしか作らないが、ミトコンドリアで完全に水と二酸化炭素に化学変化すれば、計38個のATPが得られる。
乳酸を日常生活での疲労感の原因とする見方は根強いが、八田助教授は明確に否定する。「アスリートでもないのに、体にたまる乳酸を意識する必要などありません」
日常生活では基本的に大量の乳酸が発生しない。階段を何階も上るような場合に乳酸が多く出ることもあるが、安静にして30分もすればなくなってしまう。翌日まで乳酸がたまって疲れが残るなどありえないという。
慢性的な疲労の原因は、実は科学的にまだ解明されていないのだ。
速筋: 糖 → ATP + ピルビン酸、 ピルビン酸 → 乳酸 (解糖系)
遅筋: 乳酸 → ピルビン酸
ミトコンドリア: ピルビン酸(+酸素、脂肪)→ ATP+CO2+H2O (酸化系)
という流れのようだ。でも、ブドウ糖1分子から38個のATPが得られるってのは何か違和感ある表現だな。新聞記者が誤解しているのだろうか? この辺の反応回路はややこしそうだしなあ。(参考:クエン酸回路、酸化系)
ということで、従来の乳酸=悪玉という常識は既に古いらしい。ちなみにhealthクリニックの記載は従来の常識での説明のようだ。 Wikipediaの記述には、若干この新しい考え方が反映されているように見える。
東大の八田研究室には、この辺の話が載っているが、いかんせん文章が多すぎ。。 この先生、多くの本を出版したり、乳酸研究会を発足させたりと、かなり積極的な様子だ。
探してみると、NHKのためしてガッテンで、常識が覆る! クエン酸ホントの健康パワーという放送で乳酸の話を紹介しているのだが、その中に、2004年8月に雑誌Scienceに同様の主旨の論文が掲載されているようだ。この研究、探してみると 2004/8/20の Volume 305, Number 5687 に載ったもので、こちらで日本語の概要が読める。
どうやら、体内でのエネルギー生成の仕組みはまだまだわかっていないことが多いようだ。まあ、とは言え、別に従来から乳酸を減らすために何か特別なことをしていたわけでもないから、我々の日常生活への影響は特にないような気もするのだけれど。。 スポーツ選手の場合には、トレーニング法などへの影響があるのかもしれないが、「乳酸と友達になると強くなれる」というのは、具体的にどうするんだろうか? 興味があるな。。
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