金属性と半導体性のカーボンナノチューブ
産業技術総合研究所のリリース(2/15)から。金属性カーボンナノチューブを簡単に80%まで濃縮
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】自己組織エレクトロニクスグループ 片浦 弘道 研究グループ長らは、過酸化水素を用いた短時間の処理で、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)中の半導体性SWCNTを除去して金属性SWCNTを80%まで濃縮する事に成功した。カーボンナノチューブに金属性と半導体性の2種類があることは、聞いたことがあったが詳しくは知らなかった。このリリースの下の方に、金属性と半導体性のカーボンナノチューブについての図解説明が載っている。どうやら、炭素原子が6角形状に並んだシート(グラフェン)がチューブ状に丸まる際の巻かれ方の違いによって、金属性と半導体性が変わるらしく、理論的に1/3が金属性で2/3が半導体性となるみたいだ。透明導電性薄膜ITO(酸化インジウムすず)は液晶ディスプレイ等広範囲に使われているが、現在、インジウムが希少資源であることからコスト増や資源の確保が問題となってきている。SWCNT薄膜は、ITOに代わる透明導電性薄膜として注目されるようになってきたが、今まで実用レベルの導電率に達していない。現在、市販のSWCNT中には高い導電性の金属性SWCNTが33%程度しか含まれず、電気を流しにくい半導体性SWCNTが多く含まれることが良好な導電性を得られない理由の一つと考えられる。今回、産総研では市販のHiPco SWCNTを用い、1時間程度、過酸化水素水により酸化処理するだけで、半導体性SWCNTを選択的に効率よく除去し、金属性SWCNTの含有量を80%まで濃縮することに成功した。この処理による純度の劣化や欠陥の増加は見られず、SWCNTの導電性フィラー、特に透明電極への応用が期待される。
金属性SWCNTと半導体性SWCNTの構造はわずかしか違わないにも関わらず、酸化反応(広義の燃焼反応)のような激しい化学反応でも、顕著な選択性が観測されることは重要であり、選択性の機構を解明、応用することにより、これまで不可能であったSWCNTの精密な構造制御技術の開発へつながると期待される。
本技術の詳細は、2月21日から東京ビッグサイトで開催される国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2006)で発表予定である。
産総研のカーボンナノチューブの説明(こちらやこちらなど)でも説明されているが、なかなか立体的にはイメージできない。九州大学先導物質化学研究所の辻研究室の説明には、金属性を示すアームチェア構造と半導体性を示すらせん構造の図が載っていて、理解しやすいようだ。
今回の産総研の方法は、金属性と半導体性の混合物を過酸化水素水で熱処理するだけのようだ。プレスリリースによると、47分間の熱処理により、試料の量が最初の1%にまで減少し、結果として金属性の割合が33%から80%に増加したということのようだ。ということは、半導体性のカーボンナノチューブが当初の0.3%まで減少する間に、金属性のカーボンナノチューブは当初の2.4%までしか減少しなかったということになりそうだ。
現時点では、確かに金属性の割合を大幅に増やすことができたものの、原料の99%がなくなっていまう(酸化してCO2になったのだろうか)し、特に半導性のナノチューブがなくなるのが辛いところで、到底現実的な手法とは言えないだろう。でも、こんな単純な処理で純度が上がったというのは面白いところだ。
ちなみに、国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2006)が近いということで、ここのところ産総研のリリースを見ると、ナノテク関係の話題が景気良く出てきているようだ。
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