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2006/02/20

液体炭酸による人工降雨

日本経済新聞の2/20朝刊、科学面の記事から。

薄い雲から人工降雨、九大など 厚み1キロで実験成功

 九州大学などの研究グループ(代表・真木太一 九大教授)は、比較的薄い雲から人工的に雨を降らせる実験に成功した。これまでは雲の厚みが2、3キロメートル以上必要だったが、1キロメートル程度でも雨が降ることを実証した。雨をダムなどに降らせて水不足の解消などに役立てる基礎的な成果だ。

 実験には防衛大学校やユタ州立大学、海上自衛隊が酸化した。2月初旬、長崎県の壱岐上空で、飛行機から二酸化炭素の液体(液体炭酸)約1キログラムを雲の底にまいた。

 液体炭酸は大気中の水蒸気を冷やし、雨のタネになる氷の結晶を大量に作った。約1時間後に液体炭酸をまいた雲だけが、福岡県と佐賀県の県境でみぞれを降らせたことをレーダーで確かめた。雨量は1時間当たり約1ミリだった。

雲が山にさしかかる前に液体炭酸を雲に含ませると、雨量が増えた。同様の方法で「過去に2-3キロの厚さの積雲から約百万トンの水をダム流域に降らせた」(九大)という。
今回の雲の厚さは約1キロメートルで、あまり厚くない雲でも雨を降らせることができることがわかった。海辺から少なくとも20-30キロ内陸の広範囲に雨をもたらせるという。

従来も地上からヨウ化銀の煙を立ち上らせて、人工的に雨を降らせる方法があったが、煙が思うように雲まで届かないのが難点だった。雲の上からドライアイスの粒をまく方法もあるが、雲にまんべんなくまくのが難しいという。

以前、中国の人工降雨というエントリーを書いたのだが、その時の印象としては、人工降雨技術というものにやや怪しげな印象を持った。(撒いた、降った、という関係だけを強調されると、怪しげな健康食品の宣伝と通じるものがあるし。。)その際に紹介した、気象研究所の村上さんの第8回WMO気象改変に関する科学会議出席報告(pdf)というレポートは、URLが変わっていたので、再度リンクを貼っておく。

今回の実験も、撒いた、降ったという話のようなのだが、どうなのだろう? この技術については、毎日新聞のなぞなぞ科学で紹介されているが、「人工的に雨を降らせるのは可能だが、『雨が降りそうで降らない雲』が存在することが前提だ」とある。降りそうで降らない雲から雨が降ったのか、それとも降りそうで降らない雲のように見えたけど、実は降る雲だったのか、どうやって区別するんだろう?

もう一つ気になったのは、液体炭酸という重くて冷たいものを雲の底にまいても、雲の本体とは相互作用することなく、液体炭酸が降下してしまうのではないか? という疑問。炭酸ガスはガスとしては空気よりもかなり重く、液体状態であれば水と同等の密度のようだ。(参考

調べてみたら、自然災害科学60 Vol.20, No.4 (2001)の p.19/23 から、九州大学の脇水さんらの報告が載っていて、この中で、液体炭酸による人工降雨のメカニズムや実験結果の説明がされている。それによると、この方法はヨウ化銀やドライアイスを噴霧する方法とは異なるメカニズムによるもので、福田理論と呼ばれるものらしい。

この理論によると、雲の底にまいた液体炭酸により、気流や熱の出入りが複雑に絡んで、氷晶が成長し、これが融けて雨となって降下するらしいが、なかなか難しい。実際の実験の際のレーダーエコーの動きが、このメカニズムで説明されるものと一致したことから、この理論が実証されたと考えられているようだ。

人工降雨技術は、水不足の解消のために雨を降らせるという目的以外にも、例えば今年の豪雪のような際に、日本海の上で多くの雪を降らせてしまい、内陸部の降雪量を減らすことができると結構有用だと思われる。あまり大幅な気象改変などは、どんな副作用があるかわからない恐ろしさもあるが、今後は地球温暖化の影響からか、極端な気象現象が頻発するという予想もあるので、少しでもそれをマイルドにするような改変技術の有用性は今後大きくなりそうな気がする。

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