大量生産可能なマイクロリアクタ
FujiSankei Business iの記事(3/28)。日立製作所 年間最大72トンの薬液合成 化学反応実験プラント開発
日立製作所は二十七日、数十マイクロ(一マイクロは百万分の一)メートルという微細な溝の中で効率よく化学反応を起こす化学反応装置(リアクター)で、年間最大七十二トンの薬液合成を可能にする実験プラントを開発したと発表した。マイクロリアクターと呼ばれる同方式による薬液合成は現在、ドイツのメーカーが年間十トン以下の装置を販売しているが、大量合成は困難だった。マイクロリアクターと言えば、普通はごく微小量を反応させる反応器というイメージだが、年間72トンの合成が可能というのはすごい。この記事には、装置の外観写真も掲載されているが、このやや大型の実験機器でそんな大量の合成が可能となるんだ。ちなみに、72ton/年 = 197kg/日 = 8.2kg/時 である。毎時8.2kgというのはやっぱり大きい。本当にそんな大量の処理ができるのか?今回、幅・高さともに一・五メートルの装置の中に、マイクロリアクターを最大二十個まで並列して搭載できるため、大量の薬液合成を可能にした。
今後一-二年の間に装置の量産化を目指す。
同装置を活用することで消炎鎮痛剤のアスピリンの生成など、医薬品や化粧品、農薬などを高効率で生産でき、約二割のコスト削減が期待できるという。
マイクロリアクターは、医薬品などの生成過程で、二種類の液体をマイクロレベルの溝の中に流して合成させる。従来の液体を攪拌(かくはん)する方式に比べ、約15%効率的に合成できるため、副生成物が減り、コストが削減できるなどの利点がある。今回は撹拌方式と同規模の大きさの装置で、同量規模の薬品合成を可能にした。
また、マイクロリアクターの筐体部にニッケル合金、液体が流れるチップ部には石英ガラスと耐腐食性の高い素材を使用し、対象となる薬液の幅を拡大させた。
同社の北野誠・機械研究所主管研究長は「本格的な工業化への第一歩を踏み出せた」と語り、実用化が近いことをうかがわせた。
同社によるとマイクロリアクター市場は二〇〇七年から立ち上がり、一〇年には約一千億円規模になると見込んでいる。
日立製作所のニュースリリースにも、単位反応器のサイズなどの詳しい情報は掲載されていない。最大20個の反応器を並列に接続した場合の最大生産量が72トン/年ということなので、反応器1個当たりの処理量は 410g/hr = 6.8g/minとなる。
この記事やリリースにはマイクロリアクタの特徴があまり詳しく書かれていないのが残念だが、日立のサイトで探すとバイオMEMSが見つかった。これはバイオ系の研究用途のマイクロリアクタのようだが、化学工学系の大量合成を想定したものとしては、例えばこの研究などが典型的な例だろうか。
従来の化学工学では、実験室での試験管規模の合成から工場での大量生産までの間に何段階かのスケールアップが行われ、反応器や配管などの全てのサイズが大きくなることで起こる様々な問題を工学的に取り扱うことで実用生産に漕ぎつけていた。マイクロリアクタでは微小空間で反応を起こすことで、温度や組成の均一性を確保し、個々の装置をスケールアップする代わりにリアクタの数を増やすナンバリングアップの手法により生産量を増やすことを狙う。
これによって、従来の反応装置では合成できなかった物の合成が可能になったり、極めて危険な反応も安全に行えるといったメリットを享受し、なおかつ大量合成ができるという期待が高まった。実際に多くの企業や研究機関がマイクロリアクタの実現に向けて研究開発を行っているだろうけど、今回の成果は、実用的なレンジの処理量を持った装置がついに実現したということだろうか。
どの程度複雑な反応に適用できるのか、そして、この装置がどの程度の価格となるのかにも興味のあるところだ。この装置をさらに数十台並べれば1000トン/年規模の生産ができることになる。安全装置をフル装備したとしても、千トン規模のプラントを建設するのと比べれば相当に安上がりとなりそうだし、ほとんど無人に近い運転が可能となるとすればランニングコストもかなり安くなるだろう。
しかし、一つの反応器で数グラム/分という処理量は、やっぱりマイクロリアクタとしては異例の大きさだろう。反応器のサイズが数十μmとのことだから、例えば直径 50μm、流量 7cm3/minと仮定すると、流速は 59m/sec(時速212km!)になる。うーん、いくら何でも速すぎるよな。。。 それに、もし反応時間を1時間程度取ろうとしたらどうするんだろう?? (まあ、瞬間的に終わるような反応を対象とするんだろうけど。)
検索してみたら、山形大学工学部の宍戸さんの私的マイクロリアクタ論というなかなか興味深い論説を見つけた。ここには、マイクロリアクタがパラダイムシフトともてはやされた時期を振り返り、今冷静に考えてみた結果、ナンバリングアップといっても、実用的にはせいぜい数十個程度に収める必要性があるだろうと述べている。その意味では今回のリアクタが最大20個というのは興味深い一致と言えるかもしれない。
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石英板(100Lx70Wx1t 2枚で1セット)に幅100ミクロン、深さ15ミクロン、長さ50mmの溝を150本、150ピッチで作りそこに酸化チタンを担持したものを作って欲しい。溝の前後には幅22.5mm、長さ10mm、深さ15ミクロンの拡大溝を製作しそこにφ1mmの入口(前側)反対側に出口(後側)を製作し溝面をあわせ外周に金属でガイドホルダーを取り付ける。
その他別に本体(φ16)内部に一辺が8mmの正三角形の穴を開ける、入口と出口はφ16x10の開口部を作る。その部分に直角に入口と出口ノズルを取付。
本体内部にφ0.5x149mmのガラス棒(酸化チタン触媒を担持)を濃密充填する。これを製作して欲しい。
投稿: 小山 斎 | 2010/04/14 16:43