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2006/03/10

「ソフトランディングの科学」

比較的売れているようで、硬めの本の割には書店でも平積みになっているようだ。タイトルの「ソフトランディング」とは軟着陸のこと。このままでは今の大量生産大量消費をベースとした我々の文明社会はいずれ破綻してしまう。著者が自ら実践する省エネ生活の実態を紹介しながら、その破綻の影響を少しでも小さくするソフトランディングの方法論を展開するという試みらしい。難しそうなテーマだと思うが、著名な物理学者である著者がどのようにこのテーマを料理するのか、なかなか興味がある。

七つ森書館
 ゆっくり、時間を長く ソフトランディングの科学
 池内 了 著 bk1amazon

実は著者の本としては、以前「私のエネルギー論」(bk1amazon)を読んだことがある。しかし、自分で実践している省エネルギー生活を紹介する分にはいいのだけど、それが「エネルギー論」として語られると随所に違和感が残り、正直に言うとあまり印象がよくなかった。今度こそはと(本の価格も高いことだし)期待を込めて読んだのだが。。

読後感としては「うーん、お金返してぇ」というところか。。。 そもそもこの本のどこが「科学」なんだか分からない。確かに、著者が自ら実践している省資源・省エネルギーの生活は素晴らしいと思うし、見習いたいとも思うのだが、そんな体験談を読むために買ったわけじゃないのだ。こちらは物理学者が論ずる「ソフトランディングの科学」を期待して買ったのに、冷暖房は極力控えめにして夏は暑さを冬は寒さを我慢しようとか、無駄なモノを買うのはやめて長く使い続けようという、ありがちな提案をされてもなあ。。。 こんなケチケチ生活は何だか全然夢がないし楽しくなさそうだ。おもしろいところでは、

クーラーがないことに慣れてしまえば、案外平気なものである。(扇子や団扇も使わない。それを振ることによる体温上昇の方が高いから、エネルギーを余分に使うことになってかえって暑くなると思うからだ。)(p.177)
なんて書いてあるけど、ウチワって本当に逆効果なんだろうか? 物理学者の言うことだから信じた方がいいのかなあ。。

こういうのは、一個人の信念としてはそれでいいのかもしれないけど、皆がそんな生活を始めたら世の中がどうなってしまうのか?なんてことはほとんど考察されていないようだ。少し考えても、これだと経済が破綻してしまうのではないかと思うのだが、それも十分にハードランディングなシナリオのような気がする。。 本書では、我々はもっと長いタイムスケールで物事を判断すべきだ、と主張しているのだが、その前に、もっと広い視野で日本全体や地球全体の人間社会がどうあれば持続可能なのか?ということも考えて欲しかったような気もする。

確かに地球の環境容量の限界を考えると、人類は今より遥かに慎ましく生きていかなくてはならないというのは一つの答えなのだろうけど、他の答えはないのか、あるいはそこに至るソフトランディングの道筋が、本当に徹底的な省資源・省エネルギー生活しかありえないのか、「科学」と名付けた以上はもっと論理的に詰めて欲しかった。京都議定書対応で数%の省エネを目標としたのに、経済的な悪影響が大きいという理由でちっとも進まない現状をどう考えているのかわからないが、本書のような提案では「これだから世の中を知らない学者さんの言うことはねえ」と言われてしまいそうだ。。

もちろん本書でも太陽電池や風力発電などのエネルギー源をもっと増やすことや、大規模一極集中型から小規模広域分散型とすることなどの提言もされているし、真に持続可能な社会は地下資源の消費に依存しないものだということなど、ある程度全体像についても述べられている。でも、それを実現した社会の姿がもう一つ具体的に見えてこない。(一体その社会では人々は何をして暮らしているんだろう?) 結局、ソフトランディングの行き先が明示されていないということが一番の問題のようだ。。。 

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