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2006/04/06

物質界面での反射を消す新奇光学素子

理化学研究所のプレスリリース(4/6)。物質境界面の光の反射を止める「新奇光学素子」を開発

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、物質の境界面で生じる光の反射を除去する新しい光学素子を開発しました。この素子は、「メタマテリアル」と呼ばれる金属のナノ構造体を用い、物質の透磁率を人工的に制御して実現しました。理研中央研究所河田ナノフォトニクス研究室の河田聡主任研究員と田中拓男先任研究員の研究成果です。

 物質は、それぞれ固有の屈折率を持ち、二つの物質が接すると、その境界は屈折率の境界ともなります。屈折率の境界は光にとっての障壁であり、この境界に光が入射すると光の一部は障壁に反射されてしまいます。今回の成果では、この障壁を完全に取り除き、物質の境界を越えて光を伝播させる全く新しい光学素子を提案しました。具体的には、メタマテリアルと呼ばれるナノサイズの金属構造体を用いて、光の反射を除去する「ブリュースター」という現象を、あらゆる状態の光に対して実現する手法の提案とその原理を用いた光学素子を提示しました。メタマテリアルでできたプリズム素子とその原理は、これまでの光学分野における常識を覆す、全く新しい原理に基づく光技術の提案であり、金属のナノ構造体が、これまでの光学の概念を越えた「新奇な光学素子」へ応用できることを示したもので、ナノテク材料の一つとして金属(メタル)が有効であることを期待させるものです。

内容はともかく、実現しようとしていることはよく理解できる。異なる屈折率を持つ物質の間で必ず起こると思われていた反射という現象を消してしまおうということらしい。それにしても、「新規」ではなく「新奇」という字を使ったところに、その意気込みというか意外性が表れているのだろうか?

従来の理研のリリースは極めて難解で「専門家以外お断り」という印象の強いものだったが、最近は随分と改善されているように思う。このリリースでも、今回の研究を理解するための基礎知識である「ブリュースター」についての図解をしたりと工夫されているのだが、残念ながらそれでも内容が難解でなかなか門外漢がスッキリと理解できるものではないようだ。

それでもわかったことをまとめてみると、

(1)異なる屈折率を持つ物質間には、ブリュースターとして知られる現象があり、特定角度で入射したp偏光が実質的に全く反射せず、ロスなく全て物質内部に入る。(参考:啓林館Wikipedia) しかしブリュースター現象はp偏光に対してしか起こらないので、s偏光が反射することは防げない。

(2)通常は物質の透磁率は1.0で固定と考えられているが、もしも物質の透磁率を変えることができれば、s偏光に対してもブリュースター現象を起こすことが可能となり、s偏光を反射せずに入射させることができるはずである。(ここがわからない。透磁率は物質によって異なるはずだと思うのだが。。)

(3)自然界の物質は透磁率は1.0だが(?)、金属のナノコイルを特定の配列で並べた物質(メタマテリアル)を作ると、方向により異なる透磁率を示す異方性の物質を作ることができる。

(4)メタマテリアルの形状と性状を巧みに設計し、設計どおりに作ることができれば、例えば空気からガラスに光を入射する場合、空気とメタマテリアルの界面およびメタマテリアルとガラスの界面の両方で、p偏光とs偏光のそれぞれ全てがブリュースターの条件を満たすことが可能となり、結果として空気からガラス内に反射ロスなく光を伝送できることになる。

ということらしいのだが、合っているのか??  ところでこの研究、タイトルには「新奇光学素子を開発」とあるものの、実際にメタマテリアルを作成して反射をゼロにしたのではなく、このようなことが理論上可能であることを計算によって示したということのように読める。こういうのを「開発」って言うのかな? それにしても、面白いことを考えたものだ。

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コメント

>透磁率は物質によって異なる

その通りですが、ほとんどの透明物質は誘電体であり、磁性体ではないため、透磁率の差は微小です。

このメタマテリアルは、誘電率を持つ透明物質にナノコイルで透磁率を与えてp偏光とs偏光の条件を同じに調節したものなら、空気に対して調整したらガラスに合わせることは不可能じゃないかと思ったら、なんと! p偏光とs偏光は同じ条件にせず別の経路を通してるとは・・
でも、これでは光が損失無く通るとは言え、映像としては分かれちゃうな。

投稿: ガ | 2006/04/10 12:27

ガさん、ありがとうございます。なるほど、透明物質は確かにほとんど誘電体ですね。おかげでスッキリしました。でも、理研のリリースには

自然界に存在する物質は、光の磁界成分とほとんど相互作用しないので物質の透磁率はどの物質でも1.0となり、しばしば無視されています。
と書かれているんですよね。ま、光を通そうとしているんだから、前提として透明な物質だけを想定しているのかもしれませんが、これだと誤解を招きますよね?

ちなみに、http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200604070025a.nwc">Fujisankei Business i の記事によると、このメタマテリアルの製造法は、現在開発中ということのようです。

投稿: tf2 | 2006/04/10 19:46

ここで、ひとつ問題です。

p偏光とs偏光は屈折率が違うので、入射光は同じ方向でも透過光の方向は違います。
しかし、反射光はp偏光もs偏光も同じ方向になります。
ところが、ブリュースター条件は「反射光と透過光が直角」なので、これではp偏光とs偏光の両方をブリュースター条件にすることが出来ません。
「両方ともブリュースター条件に出来る」というのが売りなのに矛盾してるではありませんか?

投稿: ガ | 2006/04/11 10:06

鋭いご指摘です。理研のリリースの図5を見ると、p偏光については、空気-メタマテリアル間、メタマテリアル-ガラス間のどちらの界面でも、反射光と屈折光のなす角度が90度となっており、ブリュースター条件を満たしています。一方、s偏光についてはそれぞれ108.8度と71.2度となっていて、確かに90度という関係にはなっていないようです。(両方を足すと180度ですけど)

数式的には入射角のタンジェントが屈折率比と等しいときがブリュースター条件ということですが、一方でメタマテリアルではp偏光とs偏光で透磁率が異なり、従って屈折率が異なるわけですから、当然ブリュースター角もp偏光とs偏光では異なる計算になりますね。(ただし、s偏光のブリュースター条件も同じ式で表せるとすればですが。。) ちなみに図5の誘電率と透磁率からブリュースター角を計算すると、空気→メタマテリアルでは、p偏光が50.8度、s偏光が76.1度となり、メタマテリアル→ガラスでは、p偏光が50.8度、s偏光が34.0度となったのですが。。

そもそも、図1のブリュースターの説明では、p偏光の場合には反射光と屈折光の電場の振動方向が一致する方向であることを用いてブリュースター現象を説明しているわけですが、s偏光の場合にはブリュースター現象はどう説明できるのでしょう? ここがわからないと駄目みたいなのですが、きっと電磁気学の分野の知識が必要となりそうで、ちょっと手も足も出ないような気がします。。

投稿: tf2 | 2006/04/11 20:12

本当は基礎方程式を導くところから始めないと確かなことは言えないのですが、ヒマもないので山勘で尤もらしい説明をでっちあげてみます。

まず、誘電体に入射した光の反射ですが、これはミクロに見ると振動電場で分極した電気双極子がダイポールアンテナとなって再放射していると解釈できます。
双極子の振動方向は屈折光の進行方向と垂直であり、ダイポールアンテナの指向性では振動方向への放射がありませんから、反射,屈折面内で振動するp偏光では屈折光方向と垂直な反射光はありません。
そういうわけで、等方的な誘電体では「屈折光と反射光が垂直」がブリュースター条件になります。
ここで「等方的」と書いたのは、誘電率が方向によって異なる異方性誘電体では電界Eと電束Dの方向が一致せず進行方向と垂直にはなれないからです。
磁性体の場合は磁気双極子が振動して再放射するわけですから、等方的磁性体なら、s偏光に対して屈折光と垂直な反射光が消えるわけですが、この新奇光学素子は誘電体と異方性磁性体が一体となっています。
そんなわけで、p偏光では磁性がない誘電体として普通のブリュースター条件になりますが、s偏光では電気双極子による再放射と磁気双極子による再放射が重なり、磁性体による反射光だけが消えても意味がありません。
s偏光反射光が消えるには両方の再放射が干渉で消える必要がありますから、普通のブリュースター条件とは全然ちがう条件になります。

なお、この磁性体がナノコイルによる反磁性であって、常磁性でないのは、再放射を逆相にして干渉で消すためでしょう。

投稿: ガ | 2006/04/12 11:43

おぉ、丁寧なご説明ありがとうございます。

なるほど、ここで想定しているナノマテリアルは、p偏光に対しては透磁率が1.0の単純な誘電体なので、通常のブリュースター条件を考えればよいのだが、s偏光に対しては誘電率も1.0ではないために、単純なブリュースター条件では駄目だろうということですかね。理屈はともかく、状況は何となく理解できたようです。

ということは、理研の説明ではこの辺の込み入った事情をきちんと説明してくれていないようですが、図解による説明では無理だけど、きちんと計算してやると、図5の条件ではs偏光についての反射光も消えてしまうということなのでしょうね。やっぱりお手上げです。。。

投稿: tf2 | 2006/04/12 19:58

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