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2006/04/07

日本の医師数はまだまだ少ない?

YOMIURI ONLINEの記事(4/7)から。世界で医療スタッフ不足、日本の医師数は63位

 【ジュネーブ=渡辺覚】世界保健機関(WHO)は7日に公表した2006年版の世界保健報告で、世界で約430万人の医療スタッフが不足しているとの推計を発表した。

 医療スタッフの員数・配置問題に焦点を当てた今年の報告は、エイズの感染拡大が続くマラウイやタンザニアで、人口1000人当たりの医師数が0・02人と、アフリカ諸国でスタッフ不足が極めて深刻だと指摘。

 アフリカで教育を受けた医師の4人に1人が経済協力開発機構(OECD)加盟の先進30か国で働く「頭脳流出」の現状にも懸念を表明、各国に人材育成と医療環境の整備を提言している。

 一方、日本は平均寿命で82歳の世界最長寿国の座を堅持しながら、1000人当たりの医師数は1・98人と、192か国中、63位の中位水準にとどまった。

 1位サンマリノの47・35人には遠く及ばず、OECD加盟国の中では最低クラス。同様に看護師は27位、歯科医師は同28位と、世界のトップ水準には達していない。

どうやら日本は医師の数が世界的に見てかなり少ないのにも関わらず、世界一の長寿国ということらしい。医師の数と健康の度合いにはどんな関係があるのだろう? この記事では、何となく日本はまだまだ医療体制が整っていないというニュアンスが感じられるような気がするが、平均寿命と医師の数の間にはどんな関係があるるのだろう?

とりあえず、以下の4つの仮説を考えてみた。

1.日本人は健康で病気の発生率も低いので、医師が少なくとも問題ない
     → 実は医師の数と寿命には負の相関がある?
2.日本は医師の数がまだまだ少ないので、医師の数を増やすともっと寿命が長くなる
     → 医師の数と寿命には正の相関がある?
3.日本の医療は自動化や機械化が進み、少数の医師により高度な医療を実現している
     → 先進国は医師の数が少ない傾向がある?
4.日本の医師は他国の少なくとも数倍の勤務時間働いている
     → 日本は特異的?

これらの仮説のどれが正しいかは、寿命と医師の数の間の関係をグラフにして調べてみれば良さそうだ。ということで、元データを探してみた。元のデータは WHO の The world health report 2006 で入手できる。このうち、寿命や死亡率のデータは、Annex 1で、医療従事者の統計はAnnex 4に掲載されている。
Who06_1これらのデータを散布図にプロットした結果を示す。このグラフで1点だけ飛び離れたデータがサンマリノである。読売の記事では、日本の医師数はサンマリノに遠く及ばないと書いているけど、どう見てもサンマリノは異常である。人口が23000人の国に医師が1089人もいるんだから、日本に当てはめると600万人も医師がいることになってしまう。。 

Who06_2で、サンマリノを除いた国々について拡大してみたのがこちら。全体としては、寿命と医師数には弱い正の相関がありそうだ。その中で、日本は寿命の割には医師数がかなり少ない、特異な国ということが言えそうだ。日本と同じ傾向を示しているのがシンガポールやカナダ。こうして比べてみると、少ない医師数で長生き国家を支えているのだから、素直にほめてあげても良さそうだ。 一方、北欧、西欧の各国やオーストラリア、ニュージーランドなどのいわゆる先進国は、アメリカのやや右上、医師数が2.3~4.0ぐらい、寿命が78~81程度のところに分布しているようだ。

Who06_3試しに、縦軸(医師数の割合)を対数でプロットしなおしてみたのが、このグラフ。これで見ると、平均寿命と医師の数の対数との間にはまあまあの正の相関が見られるが、日本が全体の中ではかなり特異であることには違いはなさそうだ。

さて、このグラフはどう考えたら良いのだろうか? やはり仮説2と仮説4が正しいのだろうか? それとも他の要因があるのだろうか? WHOのレポートには、医療費の統計なども載っているので、詳細な検討にはそれらも含めて検討する必要があるだろうけど、少なくとも医師が多けりゃいいってものではなさそうに思える。。

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コメント

一昔前は、医師過剰だとか言われていて、こんな記事が載るようになったのに感慨を覚えます。日本の薬価や医療機器の値段は高く、アクセスの良さと高齢者人口割合から患者数は多く、にも関わらず総医療費は少ない。とても不思議ですね。勤務時間に関してですが、

医師労働環境の現状と課題
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/03/s0327-2d.html

に、欧州との比較が載っていますのでご参考に。意図的ではないのでしょうが、「英国との比較」での合ってないスケールが微笑をさそいます。

投稿: NATROM | 2006/04/11 13:24

うーん、日本のお医者さんは本当によく働いてますねえ。私は以前約90時間/週の勤務を数年続けたことがありましたが、もはや通常の人間的な生活は望めず、廃人 or 超人の一歩手前状態でしたね。。

もっとも、勤務時間に関する日本と欧米との格差については、他の職業でも同じ傾向がありそうですから(少なくともエンジニアの世界には同じ傾向があると実感してますが)、単なる医療制度の問題や労働環境の問題だけではなく、文化的な視点での職業観だとかいろいろと絡んできそうですけど。。

投稿: tf2 | 2006/04/11 20:23

こんにちは。
グラフ2を見ていて気が付いたのですが、平均寿命が60歳未満の国には人口1000人あたり1人以上の医者がいる国がありません。しかし1人未満の国でもそれを超えている国もあるということも考慮に入れるならば、どうもこの辺りには何か、医者の数が直接関係しているわけではないにしても構造的な違いがありそうな気がします。おそらくは貧困で、医師をそれだけ確保できないというような状況が間接的に見えているように思います。逆に、それを超えるぐらいに裕福な国では医師の数と平均寿命の相関はかなり弱まりそうです(無いとも言えないでしょうが)。その辺りでは適用可能な医療技術(これも社会の富との関係が深い)や医療体制の構造などの方が重要になると思います。

余談ですが、論旨からするとグラフのx軸とy軸は逆ではないでしょうか?

投稿: ESD | 2006/04/15 17:03

お久しぶりです。

そうですね、考えるヒントとしては医師数が少ないのに寿命の長い国について調べてみることが有効かもしれません。例えば、

寿命 72、医師数 0.17 : http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%80">Antigua and Barbuda
寿命 70、医師数 0.49 : http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%87">Cape Verde
寿命 74、医師数 0.50 : Dominica
寿命 70、医師数 0.45 : Iran
寿命 72、医師数 0.85 : Jamaica
寿命 70、医師数 0.60 : Micronesia
寿命 71、医師数 0.51 : Morocco
寿命 71、医師数 0.55 : Sri Lanka
寿命 70、医師数 0.37 : Thailand
寿命 71、医師数 0.34 : Tonga
寿命 70、医師数 0.79 : Trinidad and Tobago
寿命 71、医師数 0.53 : Viet Nam

これらの国々には共通点もありそうです。中米やアジア太平洋の国が多く、モロッコを除いてアフリカの国は入ってませんし。

グラフの縦軸・横軸については、最初安井先生のクズネッツ曲線をイメージしてこのように選んだのですが、自分でも逆かなと後から思ったのでした。まあ、これでも意味は通じるので良しということで。。

投稿: tf2 | 2006/04/15 20:37

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