多角形ナノチューブ
Fujisankei Business iの記事(5/9)から。多角形らせん状カーボンナノチューブ JFE・信州大が発見
JFEホールディングスは八日、信州大学との共同研究グループが、高機能材として期待されているカーボンナノチューブ(CNT)で、断面が六角形以上の多角形となり、らせん状の構造のタイプを世界で初めて発見したと発表した。ということだが、多角形らせん状とはどんなものだろう? JFEホールディングスのニュースリリースには、模式図が掲載されている。図に描かれているのは8角形断面をした多層のカーボンナノチューブで、しかも長さ方向にらせん状に捩れているという、なかなか興味深い形状をしている。直径は数~数十ナノメートルとのことだが、この図から見ると、相当に原子数が多そうで直径が数ナノメートルということはなさそうだ。。JFEグループが確立した製造手法によってできたCNTが、この特殊構造となっている。特殊構造により、従来型の円筒構造のCNTに比べ、電子放出がしやすくなり、強度も高まるなどの機能向上が見込めるという。
JFEグループは、多角形ナノチューブを「ナノコア」と名付け、電子機器、複合材などへの応用向けに試験販売を開始した。(以下略)
この特殊構造のナノチューブは今回初めて合成されたのではなく、初めて発見されたものとのことで、
JFEグループでは、独自開発したアーク放電方法によってほぼ純度100%のカーボンナノチューブ(以下、CNTと略称)が織りなす厚さ約100ミクロン(1ミクロンは、10-6m)のCNTテープの合成に3年前に世界で初めて成功し、その後、CNTテープ(以下、JFE-CNTと略称)の結晶構造や材料特性および基本的な発現機能(電子放出特性等)について、複数の研究機関と共同で検討を進めてきました。とあるように、実はアーク放電法で作ったCNTテープを構成するナノチューブ粒子を調べてみたらこんな変わった形状だったということが最近になってわかったということらしい。その結果、最近、信州大学工学部 遠藤守信教授との共同研究によって、JFE -CNTの構造がこれまで言われている円筒状の断面ではなく、その多くは6角形以上の多角形断面からなり、しかも長手方向にらせん状に捩れていることが明らかになりました。この多角形断面構造は遠藤教授が約30年前に論文でその存在を発見していたものであり、今回世界で初めてらせん状の多角形CNTの存在を確認しました。
こんな多角形形状となる理由については、「約 3000℃以上の高温場でCNTが合成されるため高結晶性が得られるとともに、その後急冷されるため結晶に歪みが導入されることにより多角形構造が得られたもの」と書いているが、あまり説得力がある説明には思えない。通常のナノチューブがグラフェンシートをクルッと丸めたものであるのに対し、こちらは、平面とエッジの組合せとなっているわけで、どう見ても不安定そうな構造に思えるし、こんなにきれいに多角形らせん形ができるのには何か秘密がありそうだ。
この多角形多層ナノチューブだけが合成されるわけでもなさそうだけど、うまく精製というか単離できるのであれば、結構面白そうだ。何といっても、このエッジの存在が特異な特性を生み出しそうな気がする。
信州大学の遠藤教授は、この多角形CNTについて、「同心円状のCNTと異なり平面状を有したグラファイトの性質を併せ持つ物質のため、機械・電子機能も独特で従来得られなかった機能発現を生じるのであろう。」というコメントを述べている。遠藤教授は1977年に多角形断面構造の存在を論文に書いているらしいのだが、ちなみにカーボンナノチューブの歴史を見ると、飯島さんがCNT(多層)を発見したのは1991年ということになっている。
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