巨大な超薄膜
asahi.comの記事(5/22)から。髪の毛の2千分の1、「超薄膜」を開発 理研チーム
髪の毛の太さの約2000分の1の薄さなのに、実用につながる十分な面積や強さを持つ膜の作製に理化学研究所の研究チームが成功し、21日発行の英科学誌ネイチャー・マテリアルズ(電子版)に発表した。海水淡水化プラントや燃料電池の高性能化などにつながる技術という。というもので、何が新しいかというと、薄さそのものではなく、厚みが35nmに対して面積が4cm角程度と、厚さの割に非常に面積が大きい薄膜を作ったことが特徴のようだ。理化学研究所のプレスリリースによると、この薄膜はジルコニアとアクリル系ポリマーが絡み合った構造を有するものらしい。この膜は、セラミックの一種と有機高分子それぞれの網目がお互いに絡み合った構造。それぞれの網目の形成が同時に進むよう、反応を工夫して作った。35ナノメートル(ナノは10億分の1)の厚さで4センチ四方の大きさがある。内径0.32ミリの細いスポイトで吸い込むことができるほど薄く、しかも吐き出すと元の大きさに戻る柔軟性を持っている。
特定の物質だけ透過させる膜は、海水淡水化プラントをはじめ広く使われている。分離効率を上げるため、より薄い膜の開発が進められており、細胞膜並みの厚さ数ナノメートルの膜もできているが、1ミリ四方以下のごく小さなものしかない。
国武豊喜チームリーダー(北九州市立大副学長)は「今回の手法を出発点にして、特定の機能を持った膜を幅広く開発していきたい」と話す。
この薄膜の具体的な作成方法は、
(1)ガラスまたはシリコン基板上に約100nmの犠牲層を形成し、さらにその上に約5nmのポリビニルアルコールの層を形成する。
(2)ジルコニウムアルコキシドとアクリルモノマーを紫外線照射しながらスピンコートする。
(3)全体をエタノールに浸漬し、犠牲層をエタノールに溶解させ、その上に形成した薄膜を剥離させる。
というものらしい。
で、このセラミックスとポリマーが絡み合った構造のことを、「IPN(interpenetrating polymer network:入れ子型ポリマーネットワーク)」と名付けており、この構造を作り出したことが特徴のある薄膜を作り出せた鍵となったようだ。ちなみに、IPN自体は既に知られている構造で、例えばここなどに説明が載っている。今回の薄膜に関しては、そのIPN構造についての電顕写真や模式図が載っていないので、具体的にどんな構造なのかはよくわからない。
今後、機能性の薄膜に展開していきたいというコメントから考えると、使用するセラミックスと有機薄膜の組合せは色々と変えていくことができるということらしいのだが、この方法で何故このような特徴を持つ薄膜が得られるのかについて特に言及されていないし、実はここには書かれていないノウハウが隠されているような気がしないでもない。というか、アクリルモノマーの重合速度とジルコニウムアルコキシドの加水分解速度の制御がキーとなるのは間違いないし、どの程度応用が効くのか興味のあるところだ。
ちなみに、現時点ではNature Materialsにはまだこの論文は掲載されていないようだ。
| 固定リンク
コメント