和食はネズミにもヘルシー
asahi.comの記事(5/24)から。「和食はヘルシー」実証 東北大、ネズミで実験
健康にいいのは洋食より日本食――。半ば常識になっている通説を科学的に立証しようと、東北大の宮澤陽夫(てるお)教授(食品学)らがネズミで実験をした。その結果、日本食を食べたネズミの方が、コレステロールや脂肪を分解する遺伝子が活性化し、健康的であることが確認できた。うーむ、この研究は何だか緻密なんだか大雑把なんだかよくわからない、不思議な味があるな。1万種類もの遺伝子の発現状態を調べている一方で、日本食の何に効果があったのかよくわからない。日本食と米国食のそれぞれを与える量はどのようにコントロールしたのだろう? 普通なら、与えた栄養素のバランスを比較して、何がどう影響したかを論じるんだろうけど、日本食は米国食より健康に良いというようなアバウトな結論は普通の発想では出てこないような気がする。実験ではまず、日米の国民栄養調査を基に、最近の両国の代表的な1週間のメニュー各21食分を選んだ。日本食はさしみや雑炊、オムライスなどで、米国食はハンバーガーやフライドチキンなどだ。栄養士に実際に調理してもらった食事を凍結乾燥。粉末にして混ぜた後、それぞれ8匹のネズミに3週間食べさせた。
ネズミの肝臓で計1万種類の遺伝子の働きを比べたところ、日本食のネズミではコレステロールや脂肪を分解する複数の遺伝子が、米国食の1.5倍以上に活性化していた。効率よく分解が進んだと見られる。実験後に肝臓内にたまったコレステロール量は、米国食の方が1割以上多かった。
研究では欧米化がそれほど進んでいなかった60年代の日本食と最近の日本食も比べたが、60年代の食事の方が健康によいようだとの結果も出た。
和食の方が健康にいいらしいことは、多くの疫学研究などが示しているが、具体的理由は必ずしもはっきりしていない。宮澤さんは「日本食有利説を科学的に確かめたかった。我々団塊世代が育った洋食化していない食事の方が、今の日本の食事よりも健康的なことも分かった」と言う。
国立健康・栄養研究所の梅垣敬三研究員は「日本食の良さを生物の体の仕組みまで掘り下げて調べており、面白い。人間の健康にもいい、と確かめる糸口になる」と評価する。
そもそも、この実験結果からは、アメリカ的な食事より日本食の方が「ネズミにとって」健康的らしいことがわかるだけで、「人間にとって」どうなのかはわからないような気がするのだが。。 ついでに、イタリア料理、フランス料理、中華料理、インド料理、タイ料理、とかいろいろと食べさせて比べてみたい気もするが、もっと重要なのは、普通のネズミ用の食事をしたネズミとの比較だろうな。もしも、日本食を食べたネズミよりも普通のネズミ食を食べたネズミの方がさらに健康的だったらどういう結論になるんだろう?
ただし今回の研究は、単に日本食を食べさせたネズミと米国食を食べさせたネズミの健康診断を行ったわけではなく、特定の遺伝子の発現を見たものだから、その遺伝子が人間でも同じ働きをしているとすると、この記事にあるようにストレートな結論は無理だとしても、確かに何らかの意味のある実験と言えそうだ。
ちょっと興味があるのは、実際にネズミに与えた食事。日本食と米国食のそれぞれ21食分を調理して、凍結乾燥し、これを混ぜたものらしいのだが、どんな味わいなんだろう。凍結乾燥したものなのだし、非常食とかインスタントフードといて使えるかもしれない。でも、全部混ぜたらまずくて、とても人間には食べられない代物だろうな。。 まあ、健康に良いかどうかと、うまいかまずいかは直接関係があるわけではないのだろうけど。。
東北大の宮澤研究室のホームページを探したが、これに関する詳しい情報は見当たらなかったが、この研究成果については日本栄養・食糧学会の第60回大会で発表されたらしい。
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コメント
コメントが無いようなので僭越ですが。
遺伝子の数から言ってマイクロアレイの実験だと思うのですが、マイクロアレイ解析で1.5倍というのは、どの社の製品を使ったかにもよりますが検出限界ぎりぎりのラインでしょう。増えたと言えるかどうかは微妙なところです。
マイクロアレイは再現性や他の製品での結果との不一致などに問題があって、そう簡単に上がった下がったとは言えないです。現状では大雑把な目星をつけるのに使って確認は定量RT-PCRやNorthern blotで、というのが堅実な利用法でしょう。
追試をするにはあまりにも高コストでそうそうできないですし。
オープンアクセスで取れる論文に製品による違いを比較したものがあるので参考までに。
Large scale real-time PCR validation on gene expression measurements from two commercial long-oligonucleotide microarrays
http://www.biomedcentral.com/1471-2164/7/59
それから単純に遺伝子発現の増減が健康に良いとか悪いとか言えるはずも無く(「健康」の定義がきちんとなされていない)、さらにネズミは人間より食事脂肪への感受性が高いようです。
投稿: uneyama | 2006/05/26 18:31
コメントありがとうございます。なるほど、マイクロアレイの精度は結構アバウトなものなのですね。勉強になります。
ネズミの方が人間よりも脂肪への感受性が高いというのも、通常の食事内容から推察しても、確かにそんな感じがしてたのですが。
健康的とかヘルシーという用語が新聞記者が使っているだけならばともかくも、今回の場合は専門家が自ら使っているようなので、その点は確かに突っ込んでおくべきでした。
まあ、この記事を見たときの私の感想も「あれまあ、何やってんだか?」というものでしたが、さすがに研究発表や関連論文を直接見ていないので、もしかしたら意味があるのかも?というニュアンスで記事にしたのですけど。。。 いずれにしても、突っ込みどころの多い研究ですね。
投稿: tf2 | 2006/05/27 00:53