発病前に血液から異常プリオンの検出
news@nifty経由の共同ニュース(7/7)の記事。発病前に異常プリオン検出
牛海綿状脳症(BSE)や人間のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)を起こす異常プリオンタンパク質を、発病前の感染初期にハムスターの血液から検出することに成功したと、米テキサス大が7日付の米科学誌サイエンスに発表した。研究が進めば、BSE感染牛の早期発見につながる可能性がある。輸血や臓器移植によるCJDの拡大防止や治療の可能性を探るのにも役立つという。vCJDは輸血によって感染するという話についてはこのブログでも 2004/9/24の献血経由のクロイツフェルト・ヤコブ病リスクや、2005/4/6の輸血血液が大幅不足で取り上げているが、現時点ではvCJDへの感染者の血液を異常と判定する検査法がないのが問題となっている。
現在は例えば1980年から1996年までの間に英国に1日以上滞在した人は献血をできないという措置を取っている。この対象者はそれほど多くないようなので何とかなっているけれど、もしもこれでアメリカで米国産牛肉起因のvCJD患者が出たり、あるいは万が一、海外に出たことのない日本人からvCJD患者が出たりしたら、献血できる人が大幅に減ってしまい大変なことになるだろう。
ということで、この研究成果は非常に注目に値するように思うのだが、残念ながら今のところ日本の大手新聞社は全く注目していないようだ。
サイエンス誌はアブストラクトが無料で読めるが、それがこの Presymptomatic Detection of Prions in Blood というもの。残念ながら、このアブストラクトでは具体的な研究内容は全然わからない。(補足資料には具体的な方法が掲載されている。)こういうときは欧米のニュースが役立つ。探してみたら、EurekAlert!、BBC NEWS、REUTERSなどが結構詳しい情報を掲載してくれている。EurekAlert!の記事を一部引用すると、
The scientists say that they detected prions--the infectious proteins responsible for such brain-destroying disorders as bovine spongiform encephalopathy (BSE) in cattle and vCJD in humans--in the blood of the hamsters in as few as 20 days after the animals had been infected. That discovery occurred about three months before the hamsters began showing clinical symptoms of the disease, the Science paper reports.ということで、ハムスターの血液中の微量の異常プリオンをPMCAという方法を使用して検出可能レベルまで増幅させたようだ。そんなうまい方法があったとは知らなかったが、このPMCAという方法は、今回の研究グループのSoto教授が数年前に開発した方法で、既にSoto教授とテキサス大学のグループが Amprion という会社を作ってこのプリオン増幅検出法の商業化を進めているようだ。To detect the very small quantities of prions found in blood samples, UTMB professor Claudio Soto, assistant professor Joaquin Castilla and research assistant Paula Saa used a technique known as protein misfolding cyclic amplification (PMCA), invented by Soto's group, which greatly accelerates the process by which prions convert normal proteins to misshapen infectious forms.
"With this method, for the first time we have detected prions in what we call the silent phase of infection, which in humans can last up to 40 years," said Soto, senior author of the Science paper.
面白いのは、ハムスターの血液から異常プリオンが検出できるのは限られた期間だけらしいこと。REUTERSの記事によると
The test may need to be used at precise times, they said. It worked best in hamsters 40 days after infection. It did not detect prions 80 days after infection.とあり、他の記事では感染20日後から検出可能とあるので、20~80日までの間が検出可能で、114日後から再度検出可能となるということらしい。また、BBCにはちょっと気になる記述がある。Then at 114 days, after the hamsters started showing symptoms, the blood test again revealed prions. "It has been reported that large quantities of (infectious prions) appear in the brain only a few weeks before the onset of clinical signs," the researchers wrote.
But he said there were stumbling blocks that needed to be overcome before a similar test could be used in humans.よくわからないが、今回の実験では健康なハムスターの脳組織が必要だったようで、ヒトに適用するにはこの問題を克服する必要があると書かれている。"A brain extract from healthy hamsters was used to undertake the test. Until a substitute is found for human brain extract, we cannot have a diagnostic test that can be applied to human blood," he explained.
PCMA法について調べてみると、日本生体防御学会のニュースレターにプリオン感染の制御という総説があり、その中に
スイスのSoto等はPCMA(protein misfolding cyclic amplification、異常折りたたみ蛋白反復増幅)法により、ハムスタープリオンの増幅増量化に成功した。試験管内でPrPSCを増幅させる方法で、云わば、プリオン版PCRという事になる。PrPSCを含む脳乳剤と正常脳乳剤を混合し、37℃のインキュベーションと超音波洗浄を1時間ごとに繰り返す。Soto等は、5サイクルをするだけで、PrPSCは約60倍となり、理論的には無限に増幅可能という。しかし問題は、この方法はハムスター脳においてのみ可能であり、マウス、ウシ、ヒトの脳乳剤を用いては成功していない。とある。なおPrPSCは異常プリオン蛋白のこと。ということで、まだ越えるべきハードルがあるようだが、献血マニアとしては今後とも注目の技術だ。
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