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2006/08/17

ビスフェノールAの脳への影響

YOMIURI ONLINE(関西発)で見つけた記事(8/17)。環境ホルモン「ビスフェノールA」 大脳発達に影響

マウスで実験、京都府立医大

 妊娠中のマウスに環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の一種「ビスフェノールA」を摂取させ続けると、脳の大脳皮質の形成に影響が出ることを、京都府立医科大の伏木信次教授らの研究グループが突き止め、16日、発表した。大脳の発達に触れた報告例は世界で初めてといい、米国の神経科学専門誌の電子版に掲載された。

 伏木教授は「マウスの子供の脳の発達や行動の解析を続け、人の発達障害との関連も明らかにしたい」としている。

 実験では妊娠したマウスに、摂取しても影響がないとされる微量の「ビスフェノールA」を連日投与し、10~18日後に胎児を調べた結果、大脳皮質の神経細胞の分化などの速度に異常が確認された。さらに神経細胞をつくる8種類の遺伝子のうち、甲状腺ホルモンにかかわる3種類の働きに変化が目立っていた。甲状腺ホルモンに異常が出ると、発達障害につながる恐れがあるという。

 ビスフェノールAはプラスチック製品の原料で、これまでも専門家からは生殖器系への影響が指摘されている。ほ乳ビンや学校給食用の容器にも使われ、利用中止が相次いだ。

京都府立医大の研究成果ということで、関西版には掲載されているものの、東京版には載っていない。しかし、ビスフェノールAの人体への影響(いわゆる環境ホルモン作用)については既に白という結論が出てたと思うのだが、それを覆す研究ということだろうか? この記事では投与量や投与の方法が具体的に書かれていないし、脳の形成に影響が出たというものの、具体的にはどの程度深刻な影響なのかがよくわからない。調べてみると、京都新聞電子版が詳しい記事を載せている。これによると
 伏木教授らは、マウスに体重1キログラム換算で20マイクログラムのビスフェノールAを妊娠初期から毎日、皮下注射した。すると、注射していないマウスに比べ、思考や記憶をつかさどる大脳皮質をつくるのに重要な時期である妊娠10日から17日目にかけ、胎児の神経細胞が早く分化、移動した。「分化のタイミングが外れると神経ネットワークがうまくできなくなる」という。(中略)

 ビスフェノールAの1日許容摂取量はヒトの場合、体重1キログラムあたり50マイクログラムとされる。また、業界団体のホームページによると、実際に食事などで1日に摂取する最大量は体重1キログラムあたり0・076マイクログラムという。

 伏木教授は「今回はあくまでマウスの実験だが、近年増えつつあるヒトのADHD(注意欠陥多動性障害)など発達障害の原因の一つが、ビスフェノールAである可能性が示唆される」と話す。研究成果は米科学誌ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・リサーチ(電子版)に掲載した。

ウーム。。 この研究ではビスフェノールAを直接皮下注射している。許容摂取量の40%とはいえ、経口摂取ではなく、直接皮下注射しているというところがポイントとなりそうな気がするな。。 それにしても、この実験結果から、ビスフェノールAがADHDなどの原因の可能性が示唆されるというコメントはどうだろう? 「可能性」とさえ言っとけば許されると思っているんだろうけど、ちょっと軽率じゃなかろうか? なお、ビスフェノールAがADHDの原因かも知れないという仮説については、こんな研究こんな研究があるけれど、日常生活で人が摂取する量が本当にこれらの原因となりうることを検証するのは相当に大変そうだ。

一方、asahi.com 関西でも取り上げられているが、こちらは

 ビスフェノールAについて、環境省の検討会は04年、ラットの実験から人体には悪影響は認められないと結論づけている。

 今回の研究結果について、同省環境安全課は「検討会の実験は、いずれも経口投与によるもので、実際の環境に近い。連日の皮下投与が自然にあり得る状態なのか、検討される必要がある」としている。

という具合に、かなり慎重に取り扱っており、珍しく(?)朝日新聞が一番まともな記事となっているようだ。

なお、昨日はスチレントリマーの環境ホルモン作用についての記事も報道されていたが、

 スチレントリマーについて旧通産省の審議会が2000年に「内分泌かく乱作用がある証拠は見いだせず、特別な対応を取る必要はない」と結論。旧環境庁も「作用を否定する報告がほとんど」としてリスク評価の対象から外しており、今後、これらの見直しを求める声も出る可能性がある。

 グループは妊娠中のラットにスチレントリマーを7日間投与。生まれた雄ラットを調べたところ、1日体重キロ当たり10マイクログラム(1マイクロは100万分の1)で、生後約100日後の脳や精巣の重量が、投与しない場合に比べて目立って減少していた。

とあり、こちらも記事からは投与方法が不明だし、投与量が通常の摂取量とどういう関係にあるかにも触れられていない点で、中途半端であり、昔ながらの煽り記事と何ら変わるところがない。

この記事では、旧通産省とか旧環境庁というのも気になったのだが、省庁再編は2001年1月で、スチレントリマーがSPEED'98のリストからはずれたのが2000年7月ということで、この記述は正しいようだ。

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コメント

ttp://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2006q2/20060628.html

このあいだのためしてガッテンでも環境ホルモン特集を組んでいたみたいですが、調べれば調べるほど良くわからなくなる大変難しい分野のようですね。
モノによっては何世代もあとに影響を及ぼす(かもしれない)と思われているのは、まるで「呪い」のようだと感じました。
出演なさっていた先生の結論「…わからない!」という言葉が大変興味深かったです。

投稿: xtc | 2006/09/06 05:38

すいません。検索が不充分でした。
http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/_by__1f48.html
こちらで扱われてますね…

投稿: xtc | 2006/09/06 05:52

あの「ためしてガッテン」の環境ホルモンの回は、ネットを探してみるとやっぱり評判は余りよろしくないようです。基本的な姿勢が以前と何も変わっていないではないかとか、ゲストは環境ホルモン危険派の井口先生だけというのは不公平公だとか。。 一方、最近放送した血液サラサラの最新情報の回は、世の中の誤解を解くということで、かなり冷静な説明がされており、世の評判も好印象のようです。

どちらもNHKが発信源のブームと言えるようですが、一方はまだまだ煽り続ける方向、他方は沈静化の方向というのが興味深いところです。

投稿: tf2 | 2006/09/06 19:36

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