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2006/08/28

「算数の発想」

帯には大きく「柔らか頭のつくり方!」とあり、扉にも

旅人算につるカメ算、仕事算に植木算、集合算………
日常に根ざした素朴な感覚を重視する算数には、方程式や記号をあやつる数学からは決して出てこない、世界の本質を直感的につかむためのアイディアがつまっている。
その発想を身につければ、自然界のミクロなかたちから宇宙の膨張する姿までが見え、経済成長のしくみから平成不況の原因までが理解できる。
基本から中学入試問題までを例に、算数の発想の豊かな広がりを示すスリリングな一冊!
と書かれている。著者の本は以前「確率的発想法」を読んでいるが、比較的好印象だったのでこの本も読んでみた。

NHK BOOKS 1060
 算数の発想 人間関係から宇宙の謎まで
 小島 寛之 著 bk1amazon

つるカメ算や植木算などは小学校時代に確かに使った記憶があるけれど、一般的な1次方程式の解法を知った後には、敢えて個別の○○算の解法を使う機会もないのが普通だろう。本書では、そういった数学の一般的な解法とは別に、算数の個別的な解法に敢えて焦点を当てる。○○算の算数的な解法の底に流れるものの見方を深く掘り進めていくと、実は結構深遠な世界に通じるのだよ、というわけだ。

第1章は「旅人算」の相対的なものの見方の延長上に、ドップラー効果、ハッブルの法則、相対性といった考えがあり、最新の宇宙論にも通じるものがあると展開する。(旅人算とは、一人が家を出た後から、もう一人がより速いスピードで追いかけて、いつどこで追いつくか?というような問題。)

第2章は「ガウス算」のグラフをさかさまにして足すような発想法を発展させて、リスクヘッジ、市場取引の理論(ワルラスの定理)、ピグーの外部不経済の話、公害解決のための税制度、などの経済理論を解説する。(ガウス算とは、1から100までの合計を求めるような問題で、上下さかさまにした2つの棒グラフを使うことで簡単に合計を求めることができる。)

第3章では「相似図形」からフラクタルへと展開し、フラクタルの実例、フラクタル次元などがわかりやすく説明されている。

第4章は「仕事算」と「ニュートン算」から経済成長モデルへと展開し、さらに少子化の場合の経済成長の考え方へと続く。(仕事算とは、Aさんが一人で部屋を片付けるとX分、AさんとBさんの二人でやるとY分掛かるとき、Bさん一人では何分かかるか?のような問題。 ニュートン算とは、開館前にX人の行列ができていて、さらに毎分Y人ずつ客が来るときに、入口が1つだと行列がZ分でなくなるとすると、入口が2つだと何分で行列がなくなりますか?のような問題。)

第5章では「数え上げ」から順列・組合せ、エントロピー、自己組織化、そして格差社会へと話が展開する。

第6章は「集合算」から包除原理、メビウスの反転公式、オイラー関数へと展開し、相乗りタクシー料金の支払い分担計算の話を経て、協力ゲーム、シャプレー値、議会における政党のパワーへと続いていく。

まあ、最新の数学やそれを応用した、物理学、経済学、あるいは政治学などにも、算数の発想法が生きている、というストーリーなのだが、何だかこじつけという感じのするものもあるし、残念ながら、算数の発想の重要性に思わず目からウロコが落ちる、というような驚きはなかった。とはいうものの、個々の話やその展開はなかなか興味深いし、説明も相当に丁寧でわかりやすい。

ただ、読者の僕が理科系ということもあるのか、第1章、第3章および第5章については比較的わかりやすく、フムフムと興味を持って読み進められたのだが、残りの第2章、第4章、および第6章はどちらかというと社会科学系の応用分野ということもあり、なかなか手強かったようだ。特に最後の第6章で取り扱っている数学やその応用は、相当に高度なレベルと思われ、とても気軽には読めず、真剣に頭を使ってみたものの、それでも今ひとつすっきりとした理解には到達しなかったようだ。

著者は、序章で

算数の発想は、日常生活や人間関係や人生の経験のなかからやってくるさまざまなものの見方を集積したものである。だから逆に、算数の素朴なものの見方、プリミティブなアイデアを知ることは、人生に潤いをもたらすだろう。数学の持つ「普遍的な操作性」は、思考や時間の節約という「効率性」、あるいは考え落としや飛躍のない「厳密性」を与えるものかもしれないが、世のなかを眺める楽しみを育むのは、むしろ算数の「個別的な思考」のほうだといっていい。(p. 23)
と書いている。長年数学に関わり続けてきた著者にとっても、このような算数的な発想法の重要性に気付いたのは最近のことだったようだから、我々が著者と同じ境地に到達するのは無理があるのかもしれない。。

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