元素は微小粒子「原子」の集まり?
読売新聞さん、どうしちゃったの? という素晴らしい記事を見つけたので、記念に残しておこうと思う。YOMIURI ONLINEの記事(9/1)。超新星爆発で原子27種生成、起源不明は8種のみ
地球を含む宇宙に存在する286種類の原子のうち起源が不明だった27種類は、星が燃え尽きる際に起きる超新星爆発で生成されることを、日本原子力研究開発機構や東京大学などの研究チームが突き止めた。これを読んで、一発で内容が理解できる人がどれだけいるのだろう? 普通に正しい科学知識を持っている人ならば、頭の中が?マークで一杯になってしまうのではないだろうか?これでほとんどの原子の起源が明らかになり、残るは八つのみとなった。2日発行の米天文学会誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に発表する。
宇宙のあらゆる物質は、83種類の「元素」の組み合わせでできている。それぞれの元素は、よく似た性質を持つ、重さが違う微小粒子「原子」の集まりで、83元素は原子の種類にすると286になる。
そのほとんどは、恒星の中で起きる激しい反応によって作られたことが、これまでの観測結果などからわかっている。だが、35種類の原子の起源は、ここ半世紀のなぞだった。
研究グループは、超新星爆発の最新の観測結果をもとに、この現象で35種類が生成されるかを計算。27種類については、超新星爆発のエネルギーによって30億度前後に加熱された空間で生成可能との結果を得た。
超新星爆発は、太陽の8~30倍の重さの恒星が迎える最期の大爆発。恒星の大きさによって爆発の規模が異なるが、いずれの規模でも27の原子が生成されることがわかった。
(2006年9月1日23時10分 読売新聞)
・宇宙に存在する286種類の原子
→ いつから原子が286種類にも増えたのだ?
・宇宙のあらゆる物質は83種類の元素の組み合わせでできている
→ 原子は286種類で、元素は83種類? どういうこと??
・元素は、よく似た性質を持つ、重さが違う微小粒子「原子」の集まり
→ 原子は微小粒子だったのか? で、元素は粒子の集まりというか、原子の集まりなのか?
で、もう一度読み返しながら、少し冷静に考えてみると、もしかして原子と言っているのは同位体のことか? と気付いた。でも、同位体なら286種類どころじゃなくて遥かに多く発見されていると思うし、元素の数だって83というのはやけに少ないぞ。
探してみると、日本原子力研究開発機構のリリースが見つかった。一体、この発表のどこをどう読むと、先の記事になるんだか? この研究は、約290種類の安定同位体核種のうち、中性子の捕獲反応では生成しない核種がいくつか存在しているのだが、それらが超新星爆発の際の光エネルギーで中性子を失ったものであると考えて間違いなさそうだと判明したというものらしい。なかなか難しい話だけど、それでも読売の記事を読むよりはよっぽど何の話なのかが理解できるぞ。うーむ、光で中性子が飛び出すというのはすごい世界だ。
宇宙でどのようにして多種類の元素が生成してきたのかというような話は、地球や我々生物の起源にもつながる話で、壮大でとても面白いのだが、冒頭の記事からは残念ながらそんなロマンのようなものは何も伝わってこない。記者が恐らく内容をほとんど理解しないで書いているからなのだろうな。。
何よりも、読売新聞レベルのマスコミでさえ、理科の基本的な知識がこの程度のレベルの記者が記事を書いて、それをそのまま通してしまうようなチェック体制なのか、と思うと悲しいものがある。これが、大新聞の科学部の記者のレベルというのが実態なのか? 好意的に考えると、安定同位体とか核種という用語を使うことを避けたのかもしれないが、それにしても「元素は重さが違う微小粒子「原子」の集まり」という記述は救いようがないだろう。一体どっからこんな定義が出てきたのだろう? (もしかしてドルトンの原子説?)
この記事を読んだ子どもたちは、きっと非常に混乱するだろうし、子どもに聞かれる親や先生も大変だな。 まあ、新聞の記述は信頼できないということを教えるには格好の教材なのかもしれないが。。 それにしても、こんな記事を書く人たちが、理系の知識がどうとか、教育がどうとか偉そうに議論しているんだとすると、何とも脱力感というか絶望感を覚える。。
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コメント
初めてコメントをいたします。
興味深いご指摘で、勉強になりました。この内容を拙ブログで引用させていただきましたので、どうかご了承をお願いいたします。
また、リンクを張らせていただいて宜しいですか。
今後ともよろしくお願いを申します。
投稿: 茶絽主 | 2006/09/06 01:09
コメントありがとうございます。実は読売新聞の科学部の方の講演を聞いたことがあるのですが、その方はとても見識豊かな好印象だったのです。それなのに、どうしてこんな記事が出てしまうのか残念です。全然訂正する気配もないようですし。。
リンクについてはもう、どんどん勝手にやってくださって結構です。
なお、茶絽主さんのブログには周期律表という言葉が出てきますが、確かに私なども学校では周期律表と習ったと思うのですが、今は周期表という用語が使われているようです。これに関連して、http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_b749.html">最新の原子量と周期表なんてエントリもありますので、よろしければご覧ください。
投稿: tf2 | 2006/09/06 01:29
ウチでは読売新聞を一応とっているので
この記事を見つけてかなりビビリました。
なんど読み返しても意味がわからなかったので
グーグルニュースで検索したんですが
読売でしか扱っていなかったニュースらしく、困ってたんですが
tf2さんが扱っていて助かりました。いやーようやく意味がわかりました。
ちょっと大手新聞社にしては酷い記事ですよねw
投稿: xtc | 2006/09/06 05:29
コメントありがとうございます。こういう記事を見てしまうと、他の記事(科学記事に限らず)も眉にツバを付けてみてしまうところがありますよね。信頼性が損なわれる事態だという重い認識を持って欲しいのですけど、訂正記事が出たりすることはあまりないようです。
読売に限らずどこの新聞でも時々このような恥ずかしい記事を出してしまうようですけど、なかなか治らないようです。やっぱり「失敗はゼロにはならない」ってことで、個人の素養の問題で終わらせずに、どうすればこんな記事を世に出さずに済むのか、システム的な部分にも手を付ける必要があるのではないでしょうか。
投稿: tf2 | 2006/09/06 19:19