ホンダの新しいディーゼル排ガス浄化システムは超スグレモノ
asahi.comのニュース(9/25)から。ホンダ、次世代ディーゼルエンジンを公開
ホンダは世界で最も厳しいといわれる米国カリフォルニア州の規制をクリアした「次世代型ディーゼルエンジン」を報道陣に公開した。エンジンの触媒内でアンモニアを生成することで、窒素酸化物(NOx)の排出量を大幅に削減することに成功したという。3年以内に新型ディーゼルエンジンを搭載した車を米国で販売するのが目標だ。ディーゼルエンジン排ガスのNOx分解に使用する還元剤として、排ガスから合成したアンモニアを使用? 排ガス中に水素なんて含まれていないだろうし、一体どうなっているんだろう?ディーゼルエンジンの利点は、ガソリンエンジンに比べて燃費が良く、二酸化炭素(CO2)排出量が少ないことだ。このため、地球温暖化問題の観点からCO2を抑制するのに有効性が高いと見られている。欧州では今も自動車エンジンはディーゼルが主流だ。基準が厳しい米国で新エンジンの販売にこぎつければ、欧州や日本での販売も可能になる。
ホンダの次世代型ディーゼルエンジンの触媒は2層から成り、下の層が排出ガス中のNOxを吸着。それを排出ガス中の水素と反応させてアンモニアを作りだす。上の層ではそのアンモニアと別のNOxを反応させて無害な窒素に変える。
ディーゼルエンジンではこれまでアンモニアを作るのに尿素を使うのが主流で、尿素が足りなくなると補充する必要があった。
HONDAの広報発表、新開発NOx触媒を採用した新世代ディーゼルエンジンを開発には触媒上での反応の模式図が載っているが、リッチバーン時の排ガス中のCOとH2OからPt触媒上で水素を合成し、これと吸着させていたNOxからアンモニアを合成し、さらにこれをNH3吸着層に貯え、次のリーンバーン時に排ガス中のNOxとNH3を反応させて、NOxを窒素に分解してしまうようだ。こんな複雑な反応をきちんとコントロールできるのだろうか? システム構成図を見ると、エンジンからの排ガスは最初に酸化触媒でCOとHCを酸化分解除去することになっているけど、後のNOx分解触媒層で水素を合成するためには適度なCOを供給する必要があるわけで、これまた結構複雑な制御を必要としそうに思える。Responseニュースによると、
ホンダは25日発表した新型ディーゼルエンジンのNOx(窒素酸化物)触媒について、システム全体や材料などについて国内外に特許出願した。10月には海外の学会で発表し、技術の詳細を公表する。ということで、詳細は10月に発表されるとのことだが、他社への技術供与も視野に入れているということで、かなりの自信を持っていることが伺える。福井威夫社長は、このNOx触媒に関して同業他社からの技術供与要請があれば「適正な価格で供与させていただく」と述べ、製品や技術の供与に応じる考えを示した。
特許電子図書館で本田技研の特許をざっと検索してみた結果、今回の技術と関連していそうな特許として特開2005-214098が見つかった。この特許は排ガスからのアンモニア合成とこのアンモニアによるNOx分解を行う排ガス浄化システムの制御方法に関するものだが、明細書中にはNOx浄化触媒、および触媒上で起こる反応について、以下のようなことが記載されている。
NOx浄化装置は、アルミナ(Al2O3)担体に担持された、触媒として作用する白金(Pt)と、NOx吸収能力を有するNOx吸収剤としてのセリア(CeO2)と、排気中のアンモニア(NH3)を、アンモニウムイオン(NH4+)として、保持する機能を有するゼオライトとを備えている。この明細書には触媒についてはほとんど記載されいないし、探してみた範囲ではこのシステムで使用する触媒についての特許も見当たらなかった。Responseのニュースからすると、そのものズバリの特許はこれから公開されるのかもしれない。・リッチ側の反応
CO + H2O -> CO2 + H2
2NO2 + 7H2 -> 2NH3 + 4H2O
2NO + 5H2 -> 2NH3 + 2H2O・リーン側の反応
4NH3 + 4NO + O2 -> 4N2 + 6H2O
2NH3 + NO + NO2 -> 2N2 + 2H2O
自動車排ガス浄化触媒は、単純な酸化触媒から、酸化と還元を組み合わせた三元触媒に、さらにトヨタのNOx吸蔵触媒やダイハツのスーパーインテリジェント触媒へと進化し、一つの触媒がより多機能でスマートなものへと発展してきた。今回のホンダの触媒は、さらにその延長上ということになるのだろうけど、NOxからアンモニアを合成し、このアンモニアでNOxを還元するというのは、本当にスグレモノという印象だ。
何年も前の話だけど、いわゆる触媒研究者や触媒屋さんは、いかにして酸化雰囲気でNOxを分解するのかという方向で開発を進めていたような気がする。でも、自動車屋さんは異なる機能を持つ複数の成分を複合化した「触媒システム」を設計することで問題を解決したと言えそうだ。トヨタがNOx吸蔵触媒を実現させたのにも驚かされたけど、今回の技術なんか更に数段複雑で、アイデア段階で「そんなこと無理だろう!」と却下されてしまいそうな気もするのだが、それを自動車に組み込むシステムとして実用化してしまったというのだから恐るべしだ。。
*ディーゼル乗用車の市場動向、技術動向、経済性、環境影響などについては、経産省の調査報告書が非常に詳細でよくまとまっているようだ。
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コメント
触媒技術に限りませんが、100%を目指す技術は一般に完璧に近づくほど難しくなると同時に、そのインパクトが小さくなります。50%→90%の困難さと90%→99%のそれは比較にならず、なのにインパクトのなさはほぼ反比例に近い。その技術を作る力&リソースがあるのなら、もっといい使い道があるのでは、というのはひねくれすぎた考え方でしょうか。。。まあ、技術力の誇示も一つの使い道ではありますけど。費用便益などいうことばかり考えていると、合理的かもしれませんが、つまらなさを感じる最近ではあります。自動車のEmissionについていえば、白金族を使わないで何かをやる方向しかインパクトは残っていないのではないですかね。。。
投稿: KS | 2006/09/27 23:53
コスト対ベネフィット比という指標だけで判断しようとすると、現在の一般常識と相反するようなことも多いのではないでしょうか? 例えば、世界中で年に数人が罹るような病気の研究なんかも不要と判断されかねないし、宇宙開発だとか基礎科学分野の研究なんかにはどれだけの意味があるのか、なんてことになりそうです。
その意味では、費用便益分析というのは適用範囲が限られたり、使い方に制限がつくものなのだと思います。今回のディーゼル排ガス浄化システムについても、確かにここまで複雑なシステムを触媒を使って実現したことはすごいけど、本当に意味のある技術なのか?という評価は結構難しいものがありそうです。
単に触媒開発の費用とそれによって直接得られた利益を比べるのではなく、企業やディーゼルエンジンに対するイメージへの影響や、もしかしたら近い将来のエネルギーバランスにまで影響を与えるきっかけとなるかもしれない、なんてことまで評価の範囲を広げたらどうでしょう? 間接的には多機能を複合化するという新しい触媒システムへの扉を開いたのかもしれませんし。
まあ、今回のホンダの技術がどれだけのインパクトを持つものなのかは、いずれ結果としてキチンとした評価を受けることになるのでしょうから、それを待ちたいと思いますが、研究開発であまり効率ばかりを追いかけるといろいろな問題が出てくるのは間違いないところですね。 悩ましい問題です。。
投稿: tf2 | 2006/09/28 01:16