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2006/10/20

透明マントの正体は?

asahi.comの記事(10/19)から。透明マント実現できる? 「見えなくする」理論確認

 かぶれば姿が見えなくなる「透明マント」実現の第一歩?――米デューク大など英米の研究グループが、特殊な微細構造の金属素材で物体を囲うことにより、物体に当てた電磁波を反射させずに裏側へ迂回(うかい)させる実験に成功した。ものが見えるのは、電磁波の一種である光が当たって反射し、目がその反射光をとらえるからだ。この反射がなければ何もないように見えるはず、という発想を確かめる試みだった。19日発行の米科学誌サイエンスに論文を発表する。

 実験の基となった発想は、欧米の別の研究グループが今年5月、「理論的には物体を見えなくする素材は作れる」と同誌に発表した。物体から反射光が返らないと、目が物体の存在を認識できず、あたかも物体が透明になったようにみえる、との理屈だ。

 今回のグループは、物体に当てた電磁波をねじまげて反射させずに、裏側へ迂回させるような特殊な構造の素材を考案。その素材で囲んだ直径約10センチの銅製の円筒に電磁波を当て、反射を大幅に抑えるのに成功した。

 完全に見えなくするためには、反射する光のすべての波長を迂回させる必要があるため、今回の実験成果のままでは「透明マント」の実現は遠い。ただし、レーダーを無力化する技術に応用するため、米軍が研究しているとも言われている。

以前も、透明マントのニュースを見たことがあるが、それはTech総研にあるように、背景を撮影した画像を投影する方法だった。 しかし、今回のものは光が物体を迂回することで見えなくするというものらしい。それにしても、「電磁波をねじまげて反射させずに、裏側へ迂回させるような特殊な構造の素材」じゃ何にもわからないぞ。。 同じニュースを扱ったMSN毎日インタラクティブのニュースでも「銅を含む特殊な人工素材」としか紹介されていない。。 Science Magazineの今週のハイライトによると、
D. Shurigらは、メタ物質(ナノ構造を操作して電磁特性を微調整できる人工の合成物)を使って、電磁放射線が排除、回避され、あたかも存在していないような空間を作り出した。Shurigらは、マイクロ波周波数帯域で作動するよう設計された人工構造のメタ物質で構成された「透明マント」中に銅製の円筒を「隠す」という方法で遮蔽メカニズムを作り出した。透明マントは隠した物体から発せられる散乱を減少させると同時にその影を減少させることで、物体を自由空間のごとき状態にする。透明マントは不完全でまだ二次元レベルに過ぎないが、後方散乱(反射)および前方散乱(影)双方を減少させることができる。
ということで、どうやらメタ物質がキーのようだ。メタマテリアル(メタ物質)といえば、以前このブログでも物質界面での反射を消す新奇光学素子というエントリで紹介している。これは物質界面での反射を消すものだったが、今回のものは物質による電磁波の散乱や反射を抑制するものなので、確かに親戚という感じだ。

さて、Scientific America.comにInvisibility Cloak Sees Light of Dayに詳しい記事が掲載されている。(この場合には「透明」は"tranparent"ではなく"invisible"なのだな)

A metamaterial is a composite structure, built of metal rings and wires embedded in fiberglass, that makes light behave in weird ways. Metamaterials can be used, for example, to bend light sharply or to focus it to a higher resolution than is normally possible. More recently, researchers pointed out that the technology should make it possible to construct spheres or cylinders capable of cloaking an object almost perfectly from detection by a single wavelength of light. When light strikes a metamaterial it causes the electrons in the metal pieces to vibrate; these vibrations in turn affect the speed of the light. A metamaterial shell with the right gradient of metal elements should cause light of a particular wavelength to wrap around the shell's interior.
ガラス繊維に金属リングと金属線を埋め込んだような構造で、光がメタマテリアルに当たることにより金属部品中の電子が振動し、この振動が光に与える影響をうまく利用して、特殊な効果を生み出すように設計された材料ということらしい。この記事には実際の透明マントの実験結果が載っているけど、うーむむ、まだ先は長そうだ。。。

このニュースも欧米のニュースサイトではかなり詳しく、丁寧に説明されている。「特殊な素材」などという表現ではなく、メタマテリアルという人工素材によって電磁波を制御して物体を見えなくするということを、わかりやすく説明しようとしている。例えばBBC NEWSなどを朝日や毎日の報道と比べると、日本の科学報道の貧しさが非常に際立って見える。。

波長が長い方がメタマテリアルを作製するのが容易(メタマテリアルの構造は波長以下でなくてはならない)なので、まずはレーダーなどに対応した軍事用を中心にいろいろな応用が考えられているようだ。いずれは可視光にも対応したいというわけだが、単一波長だけではなく、可視光領域の波長全体に対しても透明化が可能なのだろうか?

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