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2006/11/29

爆薬検知ミツバチ

NIKKEI NETの記事(11/29)から。ミツバチで爆薬を探知・米ロスアラモス研

 ミツバチを訓練して爆薬のにおいをかぎ分けさせることに成功したと、米ロスアラモス国立研究所が28日までに発表した。爆弾テロが頻発するイラクなど紛争地での警戒や、空港警備などに役立つという。

 同研究所によると、犬に匹敵する鋭い嗅覚をもつミツバチに条件反射の訓練を実施。ロイター通信によると、爆薬のにおいをかがせた直後に砂糖を与えることを繰り返すと、ミツバチは爆薬のにおいをかいだだけで、みつを吸うための管状の口を伸ばすようになった。

 TNT火薬や過酸化アセトン、プラスチック爆弾に使われるC4火薬などの爆薬を探知できるようになったとしている。

 研究者によると、ミツバチを箱に入れて持ち運び、空港や道路の検問所でにおいをかがせたり、爆弾処理機材の中に入れて反応をみたりするなどの利用法があるという。

爆薬検知犬というのは聞いたことがあるが、ミツバチに爆薬検知をさせようとは、軍事技術の一貫とは言え、いろいろなことを考えるものだ。ロスアラモス研究所のリリースを見たが、軍事機密も関わるためなのか、あまり詳しいことは書いていないようだ。でも、単にミツバチを訓練したわけではなく、そういう特性に優れた個体を特定し、遺伝的な研究も行ったようだ。また、妨害成分(油や昆虫忌避剤など)があっても検知できるような工夫もしているようだ。

爆薬の検知技術や各種爆薬の蒸気圧などについては原子力百科事典の記事が参考になるが、やはり機器分析よりも犬の嗅覚の方が高感度ということらしい。今回、犬ではなくミツバチに検出させようというのは、犬ではいろいろな意味でコストが掛かりすぎるということもありそうな気がする。

ちなみに、つい最近ミツバチのゲノム解析が完了し、嗅覚が非常に優れていることを裏付ける結果が得られたようだ。また、今回ミツバチの訓練に使用した、砂糖水のご褒美で特定の匂いに反応させる条件反射による学習方法は、昆虫の脳の不思議でも紹介されており、以前から知られている手法らしい。恐らく爆薬一般に対して反応するわけではなく、TNT、C4、TATP(過酸化アセトン)など、各爆薬を担当するミツバチを別々に育成する必要がありそうだ。。

ちょっと気になったのが、この方法はあくまでも訓練なので、このミツバチから生まれる子どもに対しては、また新たに訓練しなおさなくてはいけないじゃないかという点。ミツバチのデータによると、ミツバチの寿命は数十日から数か月といったところらしい。本当に実戦配備しようと思ったら、訓練が大変そうだな。。

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2006/11/27

「光電子」とは何もの?

FujiSankei Business i(11/24)の新商品紹介で見つけた記事。女性向け「ダンスキン 光電子プリマロフト シャーリングジャケット」

 中綿に「光電子プリマロフト」を採用。風合いに優れたプリマロフトに、体温付近の温度で遠赤外線を放射する特殊セラミック「光電子」を複合させた。光電子が汗の分子を分解するため乾きが早いほか、体温を最適に保つ。遠赤外効果により体の芯まで温かい。価格は2万7300円。販売中。
遠赤外線を放射する機能を有するという怪しい謳い文句の衣料品や寝具を良く見かけるが、こいつはさらに「光電子」である。さてさて、どんなものなのか、メーカーのゴールドウインのサイトを探してみると、そのものズバリ光電子 PHOTOELECTRONというサイトがあるではないか。

ここでいう「光電子」とは遠赤外線を放射する新しい素材の登録商標らしい。しかし、光電子はWikipediaにも記載されているように、光電効果で生成する電子のことを指す科学用語であり、しかもアインシュタインがノーベル賞をもらった光量子説とも関係の深い由緒正しい用語である。そういう科学用語に全く違う意味を持たせて商標として登録しちゃうというはどうなのだろう? (ちなみに、“光電子”で検索すると、ゴールドウインのサイトがトップに来るから恐ろしい。。) 念のために特許電子図書館で商標検索をしてみると、「光電子\PHOTOELECTRON」として株式会社ファーベストが登録していることがわかった。

さらに「ファーベストファイバー」などの用語で検索してみるとこんなページなどなど似たようなページがたくさん見つかる。ここでは、「光電子放射繊維」という使われ方で、まるで繊維から「光電子」が出るかのようだ。。 今回のゴールドウインの製品は、実は以前からあるファーベストの「光電子」ファイバーを採用したものらしい。 ということは、もしかすると、一般家庭の人たちには、“光電子”とは繊維の名称として既に広く知られているのかもしれない。。。

ゴールドウインの「光電子」の説明には

-身体の芯から暖かい-
身体から放出される遠赤外線よりも、10~20%高い遠赤外線をふく射するため、身体の芯からポカポカとあたたまります。

-汗をかいても快適-
遠赤外線は水分子を細かくする作用があります。光電子は高効率な遠赤外線エネルギーをふく射によって、汗の蒸発スピードを速め、ムレを抑えます。

-身体に優しい暖かさ-
光電子は自分自身の体温を吸収、増幅し効率よく身体に送り返します。
「加温」せずに「保温」する、身体に優しい遠赤外線

と突っ込みどころが満載である。何といっても、身体から放出された熱エネルギーを吸収し、それを増幅してより大きなエネルギーを返すというのはどう考えてもおかしいだろうに。。 まあ、より短波長の電磁波を吸収して、遠赤外線領域の蛍光を発生するような新素材を開発すれば、エネルギー保存則には反しないで暖めることは可能かもしれないが、そもそも人間の身体からはそんな短波長の電磁波は出てないだろうし。。 

「光電子」ファイバーはどんなものかというと、こんな説明が見つかった。このページの記述(ありがちなほとんどデタラメだらけのものだが)によると、「光電子」ファイバーとは希土類を含有させた遠赤外線セラミックスを含む繊維のことらしい。でも、何やら放射性元素を含んでいることを示唆しているような記述に読めるのだが、もしも本当に放射性元素を含むことで暖かいんだとすると、相当にやばい。。 なお、「光電子」という用語は、繊維の名称なのか、セラミックの名称なのか、それともそこから出る「なにものか」のことなのか、意識的に曖昧な使われ方をしているように思える。

光電子ムービーのページでは、三浦雄一郎さんなどのアスリートが出てきて「暖かい」という感想を述べたり、サーモグラフィの観測データなどが出てくる。恐らく、実際にこの繊維を使ったウエアを着ると従来のものよりも暖かいんだろうと思うのだが、それは単に断熱性や保温性に優れているという説明ではいけないのだろうか? どうしてこうも怪しげでミラクルな効果を期待してしまうんだろう? 何もゴールドウインに限らず、多くのメーカーが似たり寄ったりの宣伝をしているようなので、一時のマイナスイオン家電と似たような状況のようだ。逆に、桐灰化学の足の冷えない不思議なくつ下の説明などの方が、真っ当でとても好感が持てる。。

ちなみに工業の現場では、加熱炉などからの放熱が経済性に莫大な影響を与えるために、断熱材の選定は重要な要素となるのだが、遠赤外線放射機能を謳ったような保温断熱材の話は寡聞にして聞いたことがない。。 工業的な断熱材の場合、その性能は定量的に評価できるので、怪しい理屈をつけるまでもなく、性能に見合った価格で取引されるわけだ。 その点、衣料品などの場合には暖かさや快適さを数値だけでは評価しにくいことが、こういう状況を招く下地なのだろうか?

それにしても「光電子」を商標として認めてしまって良いのだろうか? 登録要件などを見ると、科学用語の光電子は、ありふれた名称でも慣用されている用語でもないとみなされたのかもしれない。 それに、商標の登録分野が科学用語の分野と畑違いということも理由になるのかもしれない。

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2006/11/22

「地球・環境・人間」

帯には「環境問題と聞かれて具体的に何が語れるだろうか この本にはあらゆるヒントが満載だ 環境をめぐる<私>の想像力を存分に刺激する」とある。岩波書店の月刊誌「科学」の連載コラムに掲載されたものをまとめたものとのこと。

岩波科学ライブラリー 124
 地球・環境・人間
 石 弘之 著 bk1amazon

全110ページほどで字数も少ないし、文章も平易で読みやすく理解しやすいこともあり、あっという間に読み終える。本は読んでナンボのものだから、難解でギブアップしてしまうような本などよりもよっぽど実利的には有意義なのだが、1200円(本体)という価格はちょっと割高という印象もしないでもない。。

本書は全部で19の独立した文章からなり、地球温暖化、生態系の危機、エイズ、人口問題、宇宙のゴミ問題、武器取引、消えゆく言語、アメリカの脱ダム問題などなど、いわゆる環境問題の枠を越えて、非常に幅広い分野の話が展開している。

全体を通して、冷静でちょっと独特のテイストの文章となっており、各種データや取材結果が淡々と紹介されている。著者の意見だとか、それぞれの問題への対策だとか、あるいは全体を通しての何らかのポリシーのようなものなどは敢えて何も出てこない。そのため、危機をただ煽るだけのありがちな恐怖本じゃないか?とか、著者は一体どう考えているんだ?とか、最初は読んでいてイライラしたのだが、途中からはこのドライな雰囲気がかえって心地良くなったような気もするから不思議だ。。 実際には、月刊誌への連載原稿として書かれたものなので、1つずつを読むと普通なのだと思うのだが、それを19本も続けて読んだので、独特の雰囲気が醸し出されたということかもしれない。

多分、大学のゼミなんかで環境問題を考えるための問題提起なんかに使えるかもしれない。下手に著者の思いが加わっていない点で使いやすいような気がする。ただ、問題がとても大きくて多面的であることがこうして見せつけられるので、諦めだとか無力感とかに包まれてしまうという副作用もありそうだ。

本書を読んで特に勉強になったのは、アフリカ人を対象とした人体実験もどきの医薬品の臨床試験の話と国際的な武器取引の話。特に武器取引については、

 こうした貧しい国々に、武器を供与し売りつけているのは大国である。世界の武力紛争の監視や武器の管理においてもっとも重い責任を負うはずの国連常任理事国が、最大の武器の供給国である。現代の最大の皮肉であろう。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、常任理事国5カ国で、2004年の通常兵器輸出総額の88%を占めた。ロシア(1位)、米国(2位)、フランス(3位)、英国(5位)、中国(8位)である。

 軍事費が有効に再配分されれば、貧困や飢餓が大幅に削減される可能性がある。ミレニアム報告書によれば、今後10年間の世界の軍事支出のわずか7.5%(7600億ドル)を回すだけで、2015年までに乳児死亡率を3分の2減少させ、さらに世界中の人々が安全な水を手に入れ初等教育を受けられるようになる。アフリカ、アジア、中東、中南米の国々が武器購入予算の半分にあたる110億ドルを使えば、これらの地域に住むすべての子どもたちが小学校に通えるようになる。(p.63~64)

とある。最近核兵器の話が話題に上るようだが、現在核兵器保有が認められている国々は、実はそのまま通常の武器の輸出大国でもあったようだ。。 これらの国々が常任理事国メンバーを務めているということは、今の国連の枠組が根源的に限界を持っているということだろう。。 地球規模での環境問題を多面的に考え出すと、別にグリーンピースの主張にそのまま同意するわけではないけれど、どうしても戦争は最大の環境破壊というような話に突き当たってしまうのかもしれない。

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2006/11/21

ゴシポール・フリーの遺伝子操作ワタ

NATIONAL GEOGRAPHIC.COMの記事(11/20)から。Toxin-Free Cottonseed Engineered; Could Feed Millions, Study Says

A toxic chemical has been mostly removed from cottonseeds, potentially turning an underused agricultural product into a food source for hundreds of millions of people, according to a new study.

"The world grows cotton for fiber not for seed," said Keerti Rathore, a researcher at Texas A&M University in College Station who helped spearhead the work.

"Few realize, however, that for every pound [0.45 kilogram] of cotton fiber, the cotton plant produces 1.65 pounds [0.75 kilogram] of seeds that contain 21 percent oil and 23 percent of a relatively good quality protein."

Some 48.5 million tons (44 million metric tons) of cottonseed are produced annually, much of it by 20 million farmers in Asian and African countries with high rates of malnutrition and starvation, the study authors write.

ワタの実(綿実)に含まれている有毒化合物を除去することに成功したとのこと。現在は有効に使われていない綿実が食べられるようになれば、数億人もの人口を養う食料となるかもしれない。綿は主として繊維用途で使われており、1.0kgの綿繊維を得る際には1.65kgの綿実が副生し、綿実は21%の油と23%の良質なたんぱく質を含んでいるらしい。現在世界中で年間4400万トンの綿実が生産されているので、1000万トンのたんぱく質が新たに食用となる可能性があることになる。
But nutrient-rich cottonseeds are unfit for human consumption because of a noxious chemical called gossypol, a toxin with properties that keep bugs at bay and cause health problems in humans and many animals.

Currently cottonseeds are used to make feed for cows, which can handle gossypol, thanks to special microbes in their stomachs.

But now the research team has found a way to genetically engineer cottonseeds that barely produce gossypol, possibly making the seeds fit for human menus.

"Global cottonseed production can potentially provide the protein requirements for half a billion people per year," the team reported in tomorrow's issue of the Proceedings of the National Academy of Sciences.

綿実はgossypol(ゴシポール)という有害な化合物を含んでいて、これが虫から綿を守っているのだが、ゴシポールはヒトにとっても有害なため食べることができない。ただし、牛は胃の中の特別な微生物がこれを無害化してくれるので、綿実は牛の飼料にしたりしているらしい。で、今回の研究では遺伝子操作により、綿実中にほとんどゴシポールを作らないようにできたとのこと。

ゴシポールについては、ここここにまとまっている。ワタについては、深山毒草園:毒草一覧Wikipediaを参照されたい。岡村製油の説明によると、ワタから取れる綿実油は高級な食用油のようだが、ゴシポールを化学的に除去するような精製処理を行っているらしい。

The recent research used a technique called RNA interference (RNAi) to suppress the biochemical pathways that produce gossypol in cottonseed tissue.

The team created a hybrid gene that was then driven by a "seed promoter" - a natural device that guides genetic expression and that, in this case, limited the effects of the genetic tinkering to the seed only.

The process rendered cottonseeds with 98 percent lower levels of gossypol while leaving levels of the toxin in other parts of the plant untouched.

"The RNA mechanisms only work on the seeds, so that the leaves still contain gossypol and discourage insects from chewing them," study co-author Rathore said.

"If you knock it out throughout the plant, [the cotton] is more susceptible to diseases."

今回の遺伝子操作は、いわゆる遺伝子組換えではなく、RNAi(RNA干渉)という手法が用いられたとのこと。特定の遺伝子の発現を抑制する手法で、これによりゴシポールが綿実の中には含まれず、葉や茎などには従来のまま残っているという改良種ができたようだ。従って、害虫に対する耐性は残したまま、綿実はヒトが食べられるようになることが期待できるわけだ。実際には綿実から綿実油を取った後の、現在は飼料や肥料となっていた部分を直接ヒトの食料にすることを想定しているようだが、この記事では実際に食べてみたのかどうかについては言及していない。まともな味なのか?

まだ、この特性が何世代も安定しているものなのかどうか、本来の目的である綿花の生産に影響がないのか、そして遺伝子操作による悪影響はないのか、など課題は多いようだが、地球規模での来るべき食糧危機に対する対応の選択肢の1つになるかもしれない。

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2006/11/20

ドップラーライダーって何?

YOMIURI ONLINEの記事(11/19)から。「風の急変」キャッチ、羽田空港にレーザー光線装置

 航空機にとって重大な脅威となる空港周辺の急激な風の変化をとらえるため、気象庁は近く、レーザー光線を使った観測装置「ドップラーライダー」を羽田空港に設置する。

 通常では観測が難しいとされる晴天下の風も観測できる最新鋭の装置で、国内の空港での設置は初めて。12月中旬から試験運用し、来年秋に本格稼働する。

 地表に近い低層域で起こる風向や風速の急激な変化(ウインドシアー)は、航空機にとって極めて危険。1993年4月に岩手・花巻空港で58人が重軽傷を負った日本エアシステム(当時)機の着陸失敗・炎上事故の原因になったほか、海外でも、75年6月に米ニューヨークで115人が死亡したイースタン航空機墜落事故など、多くの事故を引き起こしてきた。

 気象庁は現在、羽田を含む全国八つの主要空港に、電波を雨粒に反射させて空港周辺の気流変化をとらえるためのレーダーを設置。国土交通省や空港の管制官らに警報を出し、注意を呼びかけている。例えば羽田空港では昨年1年間に174件の警告が出された。

 しかしレーダーには、降雨がないと十分に観測できないという欠点がある。

 新たに設置されるドップラーライダーは、レーザー光線を空気中のチリに当てることで、降雨がなくても半径10キロ以内の風の動きが観測できる。気象庁によると、同種装置を運用しているのは、世界中でも香港国際空港ぐらいだという。

 羽田空港では、旧整備場地区にあるビルの屋上(地上約30メートル)に設置し、あらゆる天候下で風の急変を検知できる体制を構築して空の安全に役立てる方針だ。

最近、竜巻被害に関連して、ドップラーレーダーという装置のことはよく目にしたのだが、このドップラーライダーというのはどうやらそれとは違うらしい。ドップラーライダーなんて言葉を知っている人がどれだけいるんだろう? ドップラーレーダーと比較するなどして、もう少し丁寧に説明してくれてもいいと思うのだが。。 

ドップラーレーダーについては、例えばNIKKEI NET(11/10)の突風警戒レーダー、整備前倒しを検討・国交相

 北海道佐呂間町の竜巻災害を受け、冬柴鉄三国土交通相は10日、閣議後の記者会見で「(気象)ドップラーレーダー網をできるだけ早期に構築できないか検討するよう気象庁に指示した」と明らかにした。

 気象ドップラーレーダーは積乱雲に電波を発射し、風の動きを詳しく観測する装置。気象庁は全国20カ所の気象レーダーを順次、ドップラーレーダーに切り替える方針だが、設置費用が高額なため、今年度までに設置を終えるのは東京、仙台など4カ所、来年度も沖縄のレーダー切り替えを予算要求するにとどまっている。

なんて記事があった。一方、読売の記事にはレーダーは降雨がないと観測できないとあるが、気象レーダーの画像などを見ると降雨がなくても雨雲のキャッチはできているような気もする。。 ドップラー・レーダー(Wikipedia)によると、
雲内部の降水粒子の移動速度を観測することで、雲内部の風の挙動を知ることが出来るため、気象観測に多く用いられる。特に空港においては、離着陸する航空機に対するダウンバースト(下降噴流)などの発生を把握するため、順次更新設置されている。
ということで、正確に言うと、ドップラーレーダーは雨雲内部の雨粒の動きを観測することのできる装置ということになるようだ。

さて、では読売の記事にあるドップラーライダーとは何ものか? ライダーによる大気計測によると、ライダー(LIDAR)とは Light Detection and Rangingの略で、レーザーを光源とするレーダー手法のことらしい。ちなみにレーダー(RADAR)とは Radio Detection and Rangingの略である。普通のライダーはレーザー光と大気の相互作用(散乱や吸収)を測定することで大気観測を行うもののようだが、ドップラーライダーは風に乗って運動する物質(エアロゾル粒子等)のドップラーシフトを測定することで、風向・風速を測定する手法ということになる。

三菱電機のドップラーライダシステムの説明がわかりやすいようだ。特徴としてレーダーとは異なり晴天時でも風速を測定できる、とあるのだが、逆に雨天時や曇天時にはあまり威力を発揮できなさそうだから、レーダーとは使用目的がそもそも異なり、組み合わせて使うということだろう。

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2006/11/16

ネアンデルタール人のゲノム解析

Sankei Webの記事(11/16)から。ネアンデルタール人と現人類、37万年前に別種に

 約3万8000年前のネアンデルタール人の骨から抽出したDNAの断片から、遺伝情報を記述している塩基配列が読み取られた。米国、ドイツなどの研究チームによる解読・分析の成果が、英科学誌「ネイチャー」(16日号)と米科学誌「サイエンス」(17日号)に掲載される。

 研究チームは、クロアチアで発掘されたネアンデルタール人の骨から抽出された核DNAを増殖し、塩基配列を引き出す方法を開発。現生人類(ホモサピエンス)やチンパンジーの塩基配列と比較、分析した。

 その結果、ネアンデルタール人と現生人類はゲノム(全遺伝情報)が99・5%以上一致する一方で、広範な交雑を示す証拠はなかった。また、ネアンデルタール人と現生人類は37万年前までに共通祖先から枝分かれして、別々の種になったことも明らかになった。

 ネアンデルタール人は、ヨーロッパを中心に3万年前ごろまで生息。現代人の直接の祖先の現生人類と共存した時期があることから、両者の間で広範な交雑があったとすれば、現代人もネアンデルタール人から遺伝情報を受け継いでいることになるため、最近の人類学の大きな焦点となっていた。

 これまでネアンデルタール人のDNAに関する研究は、細胞内小器官にあって母親だけから受け継がれるミトコンドリアDNAに限られていた。化石試料をもとに、遺伝情報の本体である核DNAの塩基配列を解読する手法が確立したことは、人類学や古生物学の大きな進展につながる可能性があるという。

同じ週のネイチャーとサイエンスに同じ研究成果が載るってのも珍しいというか、どうなってるんだかわからない事態だが、なかなか面白い話題である。化石からDNAを採取して解析することが可能ということもすごいし、我々現代人とネアンデルタール人がどういう関係で同時代を生きていたのかが垣間見えるような結果が得られつつあるというのもなかなか楽しい。何故ネアンデルタール人は生き残らずに、我々が生き延びたのか?なんてことを考えるのも単純にワクワクするではないか。

この手のニュースを見ると、もっと詳しいことが知りたくなるので、まずは他社の報道を読み比べてみるのだが、asahi.comのネアンデルタール人DNA、断片解析に成功 米独チームには「古代遺伝学」なんていう言葉が出てくるものの、内容的には産経新聞の方が豊富のようだ。一方、YOMIURI ON-LINEの「旧人」ゲノム解析へ、化石人骨でDNA解析に成功では、ネアンデルタール人のゲノムの解析を行った結果どうなったのかがよくわからない。100万個の塩基を解読したとある一方で、

ネアンデルタール人は、現代人と共存した時期があったことから、一部が混血して遺伝子を残したとの説がある。化石人骨では難しいとされてきた核DNAの解析技術を開発したことで、チームは「ゲノムの概要を2年以内に解読したい」としており、ゲノム解析が進めば、その議論に決着がつくと期待される。
とあり、ヒトとの交雑の有無は今後明らかになるという記述となっており、産経新聞の記事とは結論が異なるような。。 一方、今朝の日経新聞には
先住のネアンデルタール人と一時共存していたため、頭骨化石の分析に基づき、混血(交雑)があったと主張する説もある。しかし、種の分化に影響しなかったことがはっきりした。
ときっぱりと交雑を否定している。。 素人目には、もともと同じ祖先から分化した種が、その後に交雑したのかどうかを解析するのは結構難しそうな気がする。まして、交雑があったというのであればともかくも、なかったと結論づけるのは簡単ではないように思えるのだが。

海外の報道を探してみると、Google Newsでは、こんなに多くの記事がヒットする。これらの記事を適当に眺めてみるとわかるのだが、日本の大手新聞社の記事がとても貧弱に見えてくる。ともかく、記事の質も量も圧倒的に負けている。例えば、Los Angeles Timesの記事でも、2ページに渡って豊富な情報を含んでいるようだ(詳しく読んでいないけど)。。 

なお、冒頭の疑問に対する答えだが、NatureScienceの論文は、別々の研究チームが同じ化石試料を使用して、異なる方法で解析を進めた結果がそれぞれ掲載されたということらしい。また、交雑の有無については、Reutersによると

"We see no evidence of mixing 40,000, 30,000 years ago in Europe. We don't exclude it, but see no evidence," Edward Rubin of the U.S. Department of Energy Joint Genome Institute in Walnut Creek, California, who led one study, told reporters.
とあり、可能性を完全に排除するわけではないが、3万~4万年前のヨーロッパで交雑があったという証拠は見つかっていない。ということのようだ。

英語の記事をあれこれとじっくりと読み進めれば随分いろいろなことがわかりそうだけど、それも大変なので、そのうち日本語でわかりやすい解説記事がどこかに掲載されることを期待したい。。

この手のニュースについて情報収集をしてみると、日本の新聞サイトの科学記事の貧弱さを本当に痛感させられる。マスコミも、一般人の科学離れをあれこれ言う前にもっと皆が興味の持てるような情報提供して欲しいと思うぞ。今回の読売の記事などは、読んでみても、さらに何かを知りたいという興味が湧き出てこないような気がするのだ。最初の情報提供者がその内容を十分に理解して、その面白さを感じ、それを読者に知ってもらおうという意欲がもっと必要なのではないだろうか? もっとも、そのためには、そんな記事を書くことのできる記者が必要になるわけで、結局ニワトリとタマゴの話になってしまうのかもしれないが。。

それと、多くの海外メディアではウェブに載った記事が相当古い記事でもそのまま残っていて、日本の新聞サイトが1か月もするとリンク切れになって読めなくなるのと大違いである。また、紙面スペースの制約を受けないウェブ特有の豊富な情報提供や、関連記事や関連サイトへのリンクを掲載したりと、ネットの特性を積極的に利用し始めているように思う。日本の新聞サイトが変わるのはいつのことだろう??

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2006/11/15

世界一硬いダイヤモンドとは?

日本経済新聞(11/15)企業2面の記事。(NIKKEI.NETには掲載されていないようだ。)

超高硬度ダイヤ高品質で大きく 愛媛大と住友電工、工具への応用期待

 愛媛大学は14日、住友電気工業と共同で世界で最も硬いダイヤモンド「超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)」の大型化、高品質化に成功したと発表した。直径5ミリメートルと従来の5倍程度になり、炭素の残留物などの不純物を少なくし、割れ目もなくしたという。超微細加工が求められる切削工具などへの利用を見込んでいる。

 愛媛大地球深部ダイナミクス研究センターの入舩徹男教授らと住友電工エレクトロニクス・材料研究所などが共同で研究した。

 入舩教授らは2003年、高温でも高い硬度が維持されるNPDの製造に成功した。このときは直径が1ミリメートル程度。形もいびつで均質ではなかった。NPDを作製するための超高圧装置の改良で大型化・高品質化につなげた。

 入舩教授は12月に、米地球物理学連合の学会で成果を発表する予定。

ということで、ダイヤモンドのナノ粒子の多結晶体のようだが、世界で最も硬いダイヤモンドというのは本当なのだろうか? 新聞記事にはこの超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンドの写真が掲載されているのだが、これで見る限りは、とても多結晶体とは思えないような透明なペレット(円板)状である。

調べてみると、愛媛大のニュースでナノ多結晶ダイヤモンドの大型化・高品質化に成功という記事を見つけた。このナノ多結晶ダイヤモンド(ヒメダイヤと呼ぶようだ)に関しては、今年の6月の時点で既に直径4mm程度の多結晶体が得られているようだが、今回はさらに技術が進歩したということなのだろうか? ヒメダイヤの製造方法については、この記事からリンクされている新聞記事にもある程度記載されている。人工ダイヤの製造時に従来使用されていたコバルトやニッケルなどの金属を使用せず、高純度グラファイトだけを原料として、2300℃、15~18万気圧の高温・高圧で製造するようだ。また、生成するダイヤモンドの多結晶体の粒子径は10~30nmということで、ナノ多結晶という呼び名にふさわしいものだが、これだけ粒子が微細であるからこそ、バインダーとなる金属などを含まないのに高強度な焼結体ができたということだろうか?

ダイヤモンドは最も硬い物質とはいえ、単結晶の場合には方位によって硬度が異なるのだが、この多結晶体ではどの方向でも単結晶ダイヤの最高硬度を示すということらしい。普通に考えれば、単結晶ダイヤの方位別の硬度の平均値に近い値を示しそうなものだが、何故に全方向で最高硬度を示すんだろう?

探してみると、住友電工の技術雑誌、SEIテクニカルレビューに高純度ナノダイヤモンド多結晶体の合成とその特徴という記事を見つけた。これによると、

一般に、単結晶材料を変形させた場合、面すべりによる塑性変形で転位が伝搬したり、劈開割れによりクラックが進展したりする。しかし多結晶体材料では、この粒内での転位やクラックの進展は、原子配列が不連続である粒子界面(粒界)で阻止される。粒子間結合が十分である場合、粒界が多い微細結晶粒体ほどこの効果が顕著となり、硬度や強度、靭性が向上する場合がある。このような結晶粒微細化による強化は金属材料ではHall-Petch の関係としてよく知られている。

今回の高純度ダイヤモンド多結晶体は、直接変換と同時に粒子同士を結合させる焼結プロセスによるため、粒界に介在物や不純物を含まず、粒子間結合は十分強固である。そして前項で述べたように、非常に微細な粒状あるいは板状のダイヤモンドが緻密に組織を形成しており、粒界面積が極めて大きい。このため、上記の微細化強化効果が有効に作用して、単結晶と同程度以上の非常に高い硬度を示したと考えられる。

とあり、全方位で超高硬度を示すのは、微細化強化効果というもので説明されるようだ。何しろ、硬度を測定する際に、あまり強い力を掛けると圧子が破損してしまうようなので、硬度測定も大変そうである。というか、このヒメダイヤを加工するためにはヒメダイヤの工具を使う必要がありそうだし。。 まあ、逆に単結晶ダイヤや従来の多結晶ダイヤなどを加工する際には、このヒメダイヤを使用すると結構コスト削減できるということになるのだろう。。

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2006/11/09

「渋滞学」

帯には「渋滞が嫌いな人も、行列が欲しい人も。車や人から、飛行機、インターネットまで。最新の研究が、さまざまな渋滞の謎を解明する。」とある。以前から、高速道路の渋滞の名所などで自然渋滞に巻き込まれると「何故いつもここで渋滞が起きるんだろう?」なんてことを考えて時間をつぶしていたので、さまざまな渋滞現象に科学的に取り組んだ本書は正にツボにはまったという感じで、とても楽しく読めた。

新潮選書
 渋滞学
 西成 活裕 著 bk1amazon

本書では、主としてセルオートマトンの1種であるASEP(Asymmetric Simple Exclusion Process)というモデルを使って、車、人、アリ、インターネット、電車やバス、飛行機などの渋滞現象や、さらには森林火災の延焼防止におけるパーコレーション、リボゾームでのタンパク質合成、神経細胞における分子モーター(キネシン)の運動などを解析していく様子を非常に平易な文章で説明してくれる。後半に行くほど段々難しくなっていくのだが、とてもシンプルなモデルと直感的に理解しやすい例から順を追って丁寧に話が進んでいくためか、わかりやすい。

本書のエッセンスの部分は、著者のホームページ西成総研に専門家向けの資料として掲載されているようだが、できれば素人が遊べるような簡単なASEPモデルがあったらなあと思う。もっとも、このモデルは完全に離散的で、有限個数の粒子(自己駆動粒子)の挙動を表現する簡単なルールを設定するだけで実現できるので、単純なものであればエクセルなどですぐに作れそうだ。

それにしても、アリの渋滞とバスの団子運転が同じルール(フェロモン効果)で表現できたり、人が密集した状況での人の動きは粉体の挙動と通じるものがあったりと、渋滞学というのは実に間口が広い。著者が最後の章で強調するように、現在の蛸壺型の専門に特化した学問の状況下で、このような分野横断的な研究を進めるのは確かに大変だろうと思う。全く専門の異なる研究者が同じ切り口で議論を進めるというのはとても刺激的で魅力的だとは思うが、実際にやるとなると解決すべき問題が山積しているのであろう。

交通渋滞関連は、起こっている現象が実感として理解しやすいこともあり、渋滞が起きる車間距離は約40mであることだとか、渋滞に陥る手前では不安定だけど特異的に高速走行可能なメタ安定現象が起こることがあるとか、興味深い話が多かった。また、今後交通制御システムやカーナビが進歩して、渋滞回避の最適解を求めることが可能となったとしても、各車がそれぞれ最適解に従って動くと、それがまた新たな混雑を生み出すような複雑な状況も考える必要があるという指摘なども奥が深い。こうなると、ゲーム理論なども織り込む必要になってくるわけで、面白そうだけど、大変そうだ。

本書は高校生でも十分に楽しめるような内容だけれど、複雑な現象を単純なモデルで説明する楽しさだとか、それによって自然現象の中に潜む原理を見出す喜びのようなものも味わえるし、一方で全然別の分野の専門家が見ても、問題解決のヒントになるような視点を提供してくれる可能性もありそうで、とっても中身の濃い本だと思う。

あと、本書で紹介されているのを見るまで知らなかったが「パイこね変換」(*)という計算操作が面白かった。10進数の演算を2進数に変換して行うことで、避けることのできない誤差が出るというありがちな話なのだが、エクセルで実際に計算してみると確かに衝撃的な結果を見ることになる。

(*)本書に出てくる「パイこね変換」の例
 (1) まず0から1までの範囲の数xを決める
 (2) xが0.5よりも小さければ y=2xとし、そうでなければ y=2-2xとする
 (3) 求めたyをxに代入し、(2)に戻って計算を繰り返す
 例えば最初に x=0.1とすると、本来は0.4と0.8でずっと振動するはずが、数十回の計算で0になってしまう

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2006/11/08

年寄りマウスは時差で早死に?

東京新聞の記事(11/7)から。時差ぼけ 寿命縮める? 高齢マウスで顕著に

 【ワシントン=松川貴】時差ぼけの高齢ネズミは早死にする-。米バージニア大学の生物学者のグループが六日、学術誌「最新生物学」の電子版に調査結果を発表した。

 ジーン・ブロック教授らは、昼夜の長さを人工的に調整し、海外旅行で人間が体験する時差ぼけと同じ環境をつくり、ネズミで実験した。三十匹の高齢ネズミと九匹の若いネズミを一組にし、八週間にわたり、一週間ごとに、▽六時間ずつ朝が早くなる▽六時間ずつ朝が遅くなる▽何も変えない-の三組で調査した。

 その結果、何も環境を変えなかった高齢ネズミの生存率は83%だったが、朝が早くなった高齢ネズミは47%、遅くなった高齢ネズミは68%しか生存できなかった。しかし、若いネズミは元気だったという。また、四日ごとに時間を変えると、死ぬネズミが多くなった。研究によると、ブロック教授らは「高齢になるほど時差に耐えられなくなるということを、示しているかもしれない」と結論づけた。

さて、記事のタイトルでは「時差ぼけが寿命を縮める?」と書いてあるが、実際にネズミは時差ぼけになったのだろうか? 時差を与えた結果、生存率に差が出たということのようだが、時差そのものが影響したのか、時差ぼけが影響したのかは疑問だ。というのも、僕自身がどうやら時差に対して極めて鈍感というか、今までアメリカやヨーロッパとの行き来を何度かしているが、東向きの移動の場合も西向きの移動の場合も、いわゆる時差ぼけで寝られないという経験がないので、ちょっと気になったのだが。。BBC NEWSの記事によると、

In one regimen, the mice's clocks were "put forward" by six hours once a week - the equivalent of the time difference between the UK and Dhaka in Bangladesh - so they had less time in the dark.

Other mice experienced a six-hour backward shift - and therefore more time in the dark - which would equate to the difference between the UK and Chicago.

Separate groups of young and old mice had normal cycles.

Younger animals appeared unaffected by alterations to their schedule.

But only 47% of the older mice whose "nights" were shortened survived, compared with 68% of those whose nocturnal time was lengthened and 83% of those who remained on a normal schedule.

Chronic stress - which has been cited as a mechanism for causing ill-health in those with disrupted schedules and which can be measured through daily corticosterone levels - did not increase in any of the old mice.

The researchers suggest the cause of increased mortality in the mice could be linked to sleep deprivation or immune-system disruption.

They also suggest that age may alter how the circadian system works, or that their elderly mice's general frailty might mean they are less able to tolerate changes in light cycles.

実験は、毎週6時間ずつ時間を早い方に進めるグループと、6時間ずつ時間を遅い方向に進めるグループを作り、時間を変えないグループと比較したようだ。実際には、1週間に1晩だけ、夜の時間が6時間短くなるグループと、逆に夜の時間が6時間長くなるグループを作ったということになるのか。。 1週間に1度、飛行機で東へ東へ移動するとか西へ西へと移動するってのも何だか不自然だし、夜の時間が変化するってのは3交代勤務とも何だかちょっと違うような気がするな。。

結果として、年寄りマウスは夜が短くなる環境変化で早死に傾向が顕著で、夜が長くなる変化でも何も変化がないよりも早死に傾向が見られたようだ。ただし、コルチコステロンというストレス関連ホルモンには変化がなかったということで、睡眠不足や免疫系の乱れがその原因ではないかとしている。ということは、時差そのものの影響よりも、時差ぼけが寿命に影響したということになるのだろうか? この実験で、マウスの睡眠時間がどう変化したのか、興味のあるところだが。。 ちなみに、USA TODAYの記事によると、年寄りマウスというのは生後28~32か月のもので、人間にすると70~90歳に相当するとのこと。

BBCの記事では、交代勤務や飛行機による長距離移動がますます増えている状況から、今後、より詳細な検討が必要だとしているが、一方で、

He added: "People shouldn't panic, and shouldn't stop travelling or working shifts because of these findings.

"However it's a reminder that, just because humans can do something doesn't mean it's necessarily safe in the long-term.

"And it's important to remember this work was carried out on mice, who are nocturnal animals, while humans are diurnal."

マウスは夜行性の動物だが人間は昼行性という大きな違いがあり、マウスに影響が出たからといって人間に当てはまるとは限らないので、この実験結果からただちにパニックになる必要はない、と結んでいる。

当然のことながら、交代勤務の労働者や国際線乗務員を対象とした健康影響調査は、既に相当やられている(例えばこちらなど)。ところが、夜勤をすることが直接悪影響を与えるのか、生活リズムの変化に伴う他の要因(飲酒や食生活等の生活習慣の変化など)が影響するのか、いろいろと複雑な要因が絡んでいてなかなか難しい側面もあるようだ。

いずれにしても、年に数回程度の海外移動であれば、たとえ体質的に時差ぼけの影響が大きく出るような人でも、その影響は全く考慮する必要がない程度と言って良いだろう。

ところで、東京新聞の記事には、この研究が発表されたのは学術誌「最新生物学」とあるから、もしかすると何故か日本の雑誌に載ったのかと思ったのだが、実は "Current Biology" って雑誌だったのね。。。

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2006/11/07

ココログ34か月

ココログを始めて2年と10か月が経過。1か月当たりのカウンターの伸びは 17000程度とやや減速傾向。まあ、この1か月のブログ更新回数も随分少なかったので、仕方ないところだろう。

 1か月目:900     2か月目:4500    3か月目:11700    4か月目:19000
 5か月目:32300   6か月目:43500   7か月目:54500    8か月目:72000
 9か月目:87700   10か月目:105400  11か月目:125400  12か月目:140600
13か月目:163000  14か月目:179300  15か月目:194700  16か月目:205300
17か月目:216800  18か月目:231700  19か月目:251100  20か月目:276400
21か月目:301200  22か月目:326400  23か月目:351400  24か月目:372400
25か月目:398100  26か月目:419300  27か月目:436100  28か月目:452700
29か月目:474500  30か月目:492100  31か月目:510100  32か月目:529800
33か月目:548600  34か月目:565300

この1か月のアクセス解析結果は以下の通り。

(1)リンク元
 1位 http://www.google.co.jp 全体の44%(前回1位)
 2位 bookmark 全体の23%(前回2位)
 3位 http://www.google.com 全体の12%(前回3位)
 4位 http://search.yahoo.co.jp 全体の7%(前回4位)
 5位 http://search.goo.ne.jp 全体の2%(前回5位)

なんだか、Googleが増加する一方で、Yahoo!がどんどん減少する傾向が続いているようだ。丁度1年前にはGoogle経由が2800カウント/月、Yahoo!経由が10500カウント/月だったのと比較すると今年はそれぞれ5600と900だから、Googleが倍増、Yahoo!は1/10以下となっているのだ。。

(2)検索キーワード
 1位 酸素水(前回1位)
 2位 注射針(前回4位)
 3位 ベンタ(前回24位)
 4位 失敗学(前回5位)
 5位 効果(前回2位)
 6位 スーパーバルブ(前回7位)
 7位 献血(前回8位)
 8位 乳酸(前回10位)
 9位 ハイジェン液(前回71位)
10位 ゲージ(前回25位)
11位 植物性乳酸菌(前回9位)
12位 コスモプラント(前回13位)
13位 ETBE(前回3位)
14位 アメリカ(前回17位)
15位 フラーレン(前回23位)

今月の検索キーワードランキングでも、先月に続いて「酸素水」が断トツのトップ。しかし、3位にベンタ、9位にハイジェン液が入ってきたということで、いよいよ加湿器のシーズンがやってきたことを感じさせられる。季語みたいなものだな。。 

ベンタエアウォッシャーを購入したのが丁度このブログを始めた頃だから、この冬で4シーズン目となるのだが、未だに現役の商品ということらしい。実にシンプルで、日本のメーカーのあれやこれやのハイテク満載装置とは対極にあるような装置だ。何年も特に目立ったモデルチェンジもしない点も含めて、日本のメーカーとは全く考え方が異なるわけだが、それなりに人気があるようなのも面白い。

それにしても、ハイジェン液で検索すると、このブログのハイジェン液を界面活性剤で代替するというエントリがトップに来てしまうってのは、商売の邪魔してるみたいでちょっと心苦しいような。。。

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2006/11/06

画期的なデザインの低騒音旅客機

THE AGEの記事(11/6)から。'Silent jet' could ease airport noise

A radically redesigned passenger jet could alleviate a major complaint of people who live near major airports -- the deafening sound of planes taking off and landing.

A team of 40 researchers from the Massachusetts Institute of Technology and Cambridge University spent three years working on the wide, streamlined jet, which they plan to unveil in London on Monday.

The "silent jet," which from outside an airport would sound about as noisy as a washing machine or other household appliance, would carry 215 passengers and could be in the air by 2030.

ということで、従来の旅客機に比べて劇的に騒音を減らすことのできる全く新しいデザインの飛行機を、MITとケンブリッジ大の研究チームが発表したとのこと。実用化は2030年とかなり先を想定しているようだ。この記事の写真でもわかるように、胴体と翼からなる従来型のデザインとは大きく異なり、ステルス戦闘機とか魚のエイのような平べったいデザインを採用しており、垂直尾翼も存在しない。
Instead of the tube-and-wing model common today, the Silent Jet is a flying wing, evoking current "stealth" military aircraft. It lacks the central vertical stabilizer common at the tail of current passenger jets, instead using a pair of stabilizers at the wingtips.

The proposed plane has a 222-foot (68-metre) wingspan and is 144 feet (44 metres) long from nose to tail, comparable in size to a Boeing 767.

"You take the fuselage and you squish it, and you spread it out, and it's an all-lifting body," said Zoltan Spakovsky, an associate professor at MIT who worked on the project.

The design allows the plane to remain in the air at slower speeds, which would allow it to cruise in for a landing more quietly. The plane does not use wing flaps, which are common on today's passenger jets and create much of the landing noise.

ということで、このデザインにより従来よりも低速で離着陸可能となることと、騒音の元凶であるフラップをなくしてしまったことが騒音低減に効いているらしい。また、
The MIT-Cambridge team also designed what they said could be a quieter and more fuel efficient engine system. Rather than placing the jets in pods suspended under the wings, the silent jet uses three engines built into the middle of the plane, at the rear. They take in air from above the wing, which helps to insulate people on the ground from jet noise at takeoff.
さらに高効率エンジンを翼の上に置くことで、エンジンからの騒音を翼でシールドすることができ、離陸の際の地表での騒音をさらに低減することができるとのこと。エンジンのデザインについては、The Silent Aircraft Initiativeの絵がわかりやすい。MITのニュースサイトにもTeam moves toward silent, eco-friendly planeという記事が掲載されているが、ここには
In a typical flight, the proposed plane, which is designed to carry 215 passengers, is predicted to achieve 124 passenger-miles per gallon, almost 25 percent more than current aircraft, according to Greitzer. (For a down-to-earth comparison, the Toyota Prius hybrid car carrying two passengers achieves 120 passenger-miles per gallon.)
とあり、騒音が減るだけでなく、燃料消費も 25%効率化して 124人-マイル/ガロンとなり、トヨタプリウスの2名乗車時の120人-マイル/ガロンよりも効率的だと書いてある。飛行機の燃費ってそんなに良かったのか? 市民のための環境学ガイドの個人的二酸化炭素削減術に改めて目を通してみると、自動車と旅客機というのは移動距離あたりの二酸化炭素排出量は似たり寄ったりというところのようだ。

なお、BBC NEWSの記事は、技術的なことはあまり触れられていないが、単にこのデザインの利点を述べるだけでなく、従来型デザインの利点や、革命的デザインの採用の損得勘定などについてもバランス良く言及している。

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2006/11/02

レスベラトロールが寿命を延ばす?

Yahoo!ニュース経由の時事通信の記事(11/2)から。高カロリーによる寿命短縮防止=ブドウ成分、マウスで効果-国際チーム

 ブドウや赤ワインなどに含まれるポリフェノール類の「レスベラトロール」を、脂肪分が多い餌に加えてマウスに与えると、高カロリーによる体重増加や寿命短縮を防ぐ効果があったと、米ハーバード大などの国際研究チームが2日、英科学誌ネイチャーの電子版に発表した。人間でも効果が確認されれば、肥満に悩む人に朗報となりそうだ。
赤ワインのポリフェノールが健康に良いって話は以前から聞くけど、今回の研究成果はそれとはちょっと違うらしい。赤ワインが健康に良いというネタは探すといくらでもあるけど、例えば日経BPnetの記事がよくまとまっているようだ。フランス人が高脂肪の食生活にもかかわらず動脈硬化などでの死亡率が低いという「フレンチ・パラドックス」を解く鍵が赤ワインにあるのではないかという話だが、アントシアニンやフラボノイドなどのポリフェノールの持つ抗酸化作用が心臓病やがんなどの予防に効果があるとされている。

一方、今回の研究成果はマウスが対象で、ポリフェノールの中でもレスベラトロールという化合物を高脂肪の食事と共に与えると、体重増加や寿命短縮に対する効果を示したということらしい。探してみると、MedPage Todayに詳しい情報が載っている。

Researchers here say that padding the diet with resveratrol, a compound in the skin of grapes and in red wine, lets mice eat a high-calorie Big Mac-style diet without suffering many of the associated ill effects -- except to get fat.

Compared with animals on the same diet without the compound, the resveratrol-fed mice gained weight but lived longer, remained healthier, and had livers, blood vessels, and muscle tissue that was similar to those seen in mice fed an ostensibly healthier diet.

ということで、マウスにビッグマックのような高カロリー食を与ると、レスベラトロールを一緒に与えたマウスは高カロリー食起因の病気に罹りにくく、長生きするし、肝臓などの組織も健康を保つことがわかったということらしい。ただし時事通信の報道とは異なり、体重増加は防げないようだ。。
For the study, the researchers took year-old mice -- equivalent to about 40 in people -- and fed them either a standard healthy diet, a diet in which 60% of calories came from fat, or the high-fat diet with the addition of 22.4 mg/kg of resveratrol per day.

The dose is higher than that found in wine or other foods (a glass of red wine has only 0.3% of the relative resveratrol dose given to the gluttonous mice), but could be achievable in humans as a dietary supplement.

実験でマウスに与えたレスベラトロールは毎日体重 1kg当たり 22.4mgだから、体重60kgに換算すると 1.2g程度。グラスワイン1杯に含まれるレスベラトロールはこのマウスに与えた量の0.3%に過ぎないとのこと。ワインを毎日300杯飲むのは到底無理だし、アルコールでとんでもない事になるのは目に見えているので、レスベラトロールをサプリメントで摂取することを想定しているらしい。

実験の結果、遺伝子の発現パターンに違いが出てくることもわかったようだし、この化合物がどのように作用するかのメカニズムもある程度推定できるような結果が得られたようだ。ここにも書かれているように、2003年頃からレスベラトロールは酵母やハエなどではSir2という遺伝子に作用して寿命を大幅に延ばす効果が確認されて注目を浴びていたが、今回は哺乳類でも同様の効果が認められたことに価値があるということのようだ。

レスベラトロールについての従来の知見は、王壮快の医療健康日記にも書かれている。化学式は trans-3,5,4'-trihydroxystilbene)、C14H12O3 で、その構造は有機化学美術館でも紹介されている。

もっとも、通常の食事との組合せでどうなるのか、ヒトにも効果があるのかどうか、副作用はないのか、などまだまだ不明点も多いので、サプリメントや薬としてヒトに適用するのはまだ先の話となりそうだ。もっとも、もしヒトにも同様の効果があるとしても、高カロリーの食生活を容認するようなサプリメントというのもどうかと思うけど。。

いずれにしても、ボジョレーヌーボーだとかクリスマスの季節も近いので、ワイン業界にとってはとてもタイムリーで、格好の宣伝材料となりそうだけど、残念ながらこのニュースは日本ではあまり報道されていないようだ。

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2006/11/01

2006年10月の天気予報傾向

東京地方の過去の天気予報 の10月分のデータ整理を終了してサイトのアップデートも無事に完了した。

気象庁によると10月はほぼ全国的に気温が高かったとのことだが、確かに体感的にもここ最近の気温は随分高いなあという気がする。そうはいっても、トレンドグラフで見ると、冬に向かって順調に気温が低下中ということがわかる。

ちなみに、気象庁の昨日までのデータ(統計値)によると、東京地方の今年10月の平均気温は19.5℃に対して、平年値は18.2℃だ。もっとも昨年は19.2℃であり、1か月の平均気温でみると特に今年が暑いというようにも見えない。まあ今年の場合、10/6と10/24の2日間だけ前後の日に比べて飛びぬけて気温が低かったので、それを除くとかなり温度が高かったということになるのかもしれない。

それにしても、10/24の最高気温は14.9℃しかなかったのだが、なんと前々日の予報では24℃だったし、前日の予報でも18℃と大幅に予報がはずれてしまった。雨が降ることはきちんと予測できていたのに、これだけ気温予想がはずれてしまうというのは何だったのだろう?

ちなみに先月も指摘した、3日前および4日前の降水確率の的中率が低い件は、降水確率の的中率グラフで見ると、今月も状況は変わっていないようだ。10/6、10/22、10/23、10/24のようにかなり大雨が降った日があったのだが、残念ながら3日以上前の週間予報では降水確率70%以上の思い切った予報を出せなかったのが効いているようだ。まあ、結局秋の天気は変わりやすくて予報が難しいということだろうか。

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