「光電子」とは何もの?
FujiSankei Business i(11/24)の新商品紹介で見つけた記事。女性向け「ダンスキン 光電子プリマロフト シャーリングジャケット」
中綿に「光電子プリマロフト」を採用。風合いに優れたプリマロフトに、体温付近の温度で遠赤外線を放射する特殊セラミック「光電子」を複合させた。光電子が汗の分子を分解するため乾きが早いほか、体温を最適に保つ。遠赤外効果により体の芯まで温かい。価格は2万7300円。販売中。遠赤外線を放射する機能を有するという怪しい謳い文句の衣料品や寝具を良く見かけるが、こいつはさらに「光電子」である。さてさて、どんなものなのか、メーカーのゴールドウインのサイトを探してみると、そのものズバリ光電子 PHOTOELECTRONというサイトがあるではないか。
ここでいう「光電子」とは遠赤外線を放射する新しい素材の登録商標らしい。しかし、光電子はWikipediaにも記載されているように、光電効果で生成する電子のことを指す科学用語であり、しかもアインシュタインがノーベル賞をもらった光量子説とも関係の深い由緒正しい用語である。そういう科学用語に全く違う意味を持たせて商標として登録しちゃうというはどうなのだろう? (ちなみに、“光電子”で検索すると、ゴールドウインのサイトがトップに来るから恐ろしい。。) 念のために特許電子図書館で商標検索をしてみると、「光電子\PHOTOELECTRON」として株式会社ファーベストが登録していることがわかった。
さらに「ファーベストファイバー」などの用語で検索してみるとこんなページなどなど似たようなページがたくさん見つかる。ここでは、「光電子放射繊維」という使われ方で、まるで繊維から「光電子」が出るかのようだ。。 今回のゴールドウインの製品は、実は以前からあるファーベストの「光電子」ファイバーを採用したものらしい。 ということは、もしかすると、一般家庭の人たちには、“光電子”とは繊維の名称として既に広く知られているのかもしれない。。。
ゴールドウインの「光電子」の説明には
-身体の芯から暖かい-と突っ込みどころが満載である。何といっても、身体から放出された熱エネルギーを吸収し、それを増幅してより大きなエネルギーを返すというのはどう考えてもおかしいだろうに。。 まあ、より短波長の電磁波を吸収して、遠赤外線領域の蛍光を発生するような新素材を開発すれば、エネルギー保存則には反しないで暖めることは可能かもしれないが、そもそも人間の身体からはそんな短波長の電磁波は出てないだろうし。。
身体から放出される遠赤外線よりも、10~20%高い遠赤外線をふく射するため、身体の芯からポカポカとあたたまります。-汗をかいても快適-
遠赤外線は水分子を細かくする作用があります。光電子は高効率な遠赤外線エネルギーをふく射によって、汗の蒸発スピードを速め、ムレを抑えます。-身体に優しい暖かさ-
光電子は自分自身の体温を吸収、増幅し効率よく身体に送り返します。
「加温」せずに「保温」する、身体に優しい遠赤外線
「光電子」ファイバーはどんなものかというと、こんな説明が見つかった。このページの記述(ありがちなほとんどデタラメだらけのものだが)によると、「光電子」ファイバーとは希土類を含有させた遠赤外線セラミックスを含む繊維のことらしい。でも、何やら放射性元素を含んでいることを示唆しているような記述に読めるのだが、もしも本当に放射性元素を含むことで暖かいんだとすると、相当にやばい。。 なお、「光電子」という用語は、繊維の名称なのか、セラミックの名称なのか、それともそこから出る「なにものか」のことなのか、意識的に曖昧な使われ方をしているように思える。
光電子ムービーのページでは、三浦雄一郎さんなどのアスリートが出てきて「暖かい」という感想を述べたり、サーモグラフィの観測データなどが出てくる。恐らく、実際にこの繊維を使ったウエアを着ると従来のものよりも暖かいんだろうと思うのだが、それは単に断熱性や保温性に優れているという説明ではいけないのだろうか? どうしてこうも怪しげでミラクルな効果を期待してしまうんだろう? 何もゴールドウインに限らず、多くのメーカーが似たり寄ったりの宣伝をしているようなので、一時のマイナスイオン家電と似たような状況のようだ。逆に、桐灰化学の足の冷えない不思議なくつ下の説明などの方が、真っ当でとても好感が持てる。。
ちなみに工業の現場では、加熱炉などからの放熱が経済性に莫大な影響を与えるために、断熱材の選定は重要な要素となるのだが、遠赤外線放射機能を謳ったような保温断熱材の話は寡聞にして聞いたことがない。。 工業的な断熱材の場合、その性能は定量的に評価できるので、怪しい理屈をつけるまでもなく、性能に見合った価格で取引されるわけだ。 その点、衣料品などの場合には暖かさや快適さを数値だけでは評価しにくいことが、こういう状況を招く下地なのだろうか?
それにしても「光電子」を商標として認めてしまって良いのだろうか? 登録要件などを見ると、科学用語の光電子は、ありふれた名称でも慣用されている用語でもないとみなされたのかもしれない。 それに、商標の登録分野が科学用語の分野と畑違いということも理由になるのかもしれない。
| 固定リンク
コメント