ネアンデルタール人のゲノム解析
Sankei Webの記事(11/16)から。ネアンデルタール人と現人類、37万年前に別種に
約3万8000年前のネアンデルタール人の骨から抽出したDNAの断片から、遺伝情報を記述している塩基配列が読み取られた。米国、ドイツなどの研究チームによる解読・分析の成果が、英科学誌「ネイチャー」(16日号)と米科学誌「サイエンス」(17日号)に掲載される。同じ週のネイチャーとサイエンスに同じ研究成果が載るってのも珍しいというか、どうなってるんだかわからない事態だが、なかなか面白い話題である。化石からDNAを採取して解析することが可能ということもすごいし、我々現代人とネアンデルタール人がどういう関係で同時代を生きていたのかが垣間見えるような結果が得られつつあるというのもなかなか楽しい。何故ネアンデルタール人は生き残らずに、我々が生き延びたのか?なんてことを考えるのも単純にワクワクするではないか。研究チームは、クロアチアで発掘されたネアンデルタール人の骨から抽出された核DNAを増殖し、塩基配列を引き出す方法を開発。現生人類(ホモサピエンス)やチンパンジーの塩基配列と比較、分析した。
その結果、ネアンデルタール人と現生人類はゲノム(全遺伝情報)が99・5%以上一致する一方で、広範な交雑を示す証拠はなかった。また、ネアンデルタール人と現生人類は37万年前までに共通祖先から枝分かれして、別々の種になったことも明らかになった。
ネアンデルタール人は、ヨーロッパを中心に3万年前ごろまで生息。現代人の直接の祖先の現生人類と共存した時期があることから、両者の間で広範な交雑があったとすれば、現代人もネアンデルタール人から遺伝情報を受け継いでいることになるため、最近の人類学の大きな焦点となっていた。
これまでネアンデルタール人のDNAに関する研究は、細胞内小器官にあって母親だけから受け継がれるミトコンドリアDNAに限られていた。化石試料をもとに、遺伝情報の本体である核DNAの塩基配列を解読する手法が確立したことは、人類学や古生物学の大きな進展につながる可能性があるという。
この手のニュースを見ると、もっと詳しいことが知りたくなるので、まずは他社の報道を読み比べてみるのだが、asahi.comのネアンデルタール人DNA、断片解析に成功 米独チームには「古代遺伝学」なんていう言葉が出てくるものの、内容的には産経新聞の方が豊富のようだ。一方、YOMIURI ON-LINEの「旧人」ゲノム解析へ、化石人骨でDNA解析に成功では、ネアンデルタール人のゲノムの解析を行った結果どうなったのかがよくわからない。100万個の塩基を解読したとある一方で、
ネアンデルタール人は、現代人と共存した時期があったことから、一部が混血して遺伝子を残したとの説がある。化石人骨では難しいとされてきた核DNAの解析技術を開発したことで、チームは「ゲノムの概要を2年以内に解読したい」としており、ゲノム解析が進めば、その議論に決着がつくと期待される。とあり、ヒトとの交雑の有無は今後明らかになるという記述となっており、産経新聞の記事とは結論が異なるような。。 一方、今朝の日経新聞には
先住のネアンデルタール人と一時共存していたため、頭骨化石の分析に基づき、混血(交雑)があったと主張する説もある。しかし、種の分化に影響しなかったことがはっきりした。ときっぱりと交雑を否定している。。 素人目には、もともと同じ祖先から分化した種が、その後に交雑したのかどうかを解析するのは結構難しそうな気がする。まして、交雑があったというのであればともかくも、なかったと結論づけるのは簡単ではないように思えるのだが。
海外の報道を探してみると、Google Newsでは、こんなに多くの記事がヒットする。これらの記事を適当に眺めてみるとわかるのだが、日本の大手新聞社の記事がとても貧弱に見えてくる。ともかく、記事の質も量も圧倒的に負けている。例えば、Los Angeles Timesの記事でも、2ページに渡って豊富な情報を含んでいるようだ(詳しく読んでいないけど)。。
なお、冒頭の疑問に対する答えだが、NatureとScienceの論文は、別々の研究チームが同じ化石試料を使用して、異なる方法で解析を進めた結果がそれぞれ掲載されたということらしい。また、交雑の有無については、Reutersによると
"We see no evidence of mixing 40,000, 30,000 years ago in Europe. We don't exclude it, but see no evidence," Edward Rubin of the U.S. Department of Energy Joint Genome Institute in Walnut Creek, California, who led one study, told reporters.とあり、可能性を完全に排除するわけではないが、3万~4万年前のヨーロッパで交雑があったという証拠は見つかっていない。ということのようだ。
英語の記事をあれこれとじっくりと読み進めれば随分いろいろなことがわかりそうだけど、それも大変なので、そのうち日本語でわかりやすい解説記事がどこかに掲載されることを期待したい。。
この手のニュースについて情報収集をしてみると、日本の新聞サイトの科学記事の貧弱さを本当に痛感させられる。マスコミも、一般人の科学離れをあれこれ言う前にもっと皆が興味の持てるような情報提供して欲しいと思うぞ。今回の読売の記事などは、読んでみても、さらに何かを知りたいという興味が湧き出てこないような気がするのだ。最初の情報提供者がその内容を十分に理解して、その面白さを感じ、それを読者に知ってもらおうという意欲がもっと必要なのではないだろうか? もっとも、そのためには、そんな記事を書くことのできる記者が必要になるわけで、結局ニワトリとタマゴの話になってしまうのかもしれないが。。
それと、多くの海外メディアではウェブに載った記事が相当古い記事でもそのまま残っていて、日本の新聞サイトが1か月もするとリンク切れになって読めなくなるのと大違いである。また、紙面スペースの制約を受けないウェブ特有の豊富な情報提供や、関連記事や関連サイトへのリンクを掲載したりと、ネットの特性を積極的に利用し始めているように思う。日本の新聞サイトが変わるのはいつのことだろう??
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