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2007/01/12

「はやぶさ」

幻冬舎から出た新しい新書の第1弾として出版された中の1冊。はやぶさがイトカワにタッチダウンして、試料を採取したんだかしないんだかよくわからないままに、大トラブルが発生したのが2005年の秋から冬にかけて。2005年の末には、このブログでもはやぶさ、帰って来い…なんて記事を書いたのだが、丁度それから1年経って、はやぶさのことも忘れかけていた頃に出たのが本書である。本書を読み始めてたら、たまたま紅白歌合戦で、さだまさしが「案山子」を歌うってことで、あの「はやぶさたん」のことも思い出してみたり。。

幻冬舎新書 016
 はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語
 吉田 武 著 bk1amazon

本書はめずらしく横書きである。読んでいて全く違和感はなかったけど、横書きの本なんか滅多に読むことのない普通の人たちにはどのように受け入れられるのだろう?

まだ、はやぶさの今回の仕事の出来や今後の見通しについて不明な点も多いので、この時点でこのような本を出すのはなかなか微妙だったとも思える。もっとも、地球への帰還予定は2010年だから、それまで待っているわけにもいかず、ここまでの成果と苦闘の道のりを一般向けの新書としてわかりやすく示そう、というのはとても良い試みだと思う。

本書は、はやぶさのイトカワへのタッチダウンの場面と、はやぶさの簡単な説明で始まる。続いて「大地の詩」と名付けられた第1部は、糸川英夫さんの人生をたっぷりと紹介したのち、ペンシルロケットから始まる東大宇宙研のロケット開発の流れをたどる。第2部の「天空の誌」では、日本最初の人工衛星おおすみの誕生からはやぶさまでの宇宙研のロケット開発の流れを紹介し、はやぶさ計画の始まりから、イトカワへの接近までの道のりをたどる。そして、第3部の「人間の詩」では、はやぶさのイトカワ離着陸とその後の状況についてわかっている範囲の解説をしたのち、最後に2010年にイトカワの試料を入れたコンテナが無事にオーストラリアの砂漠に降りてくる場面を想像して本書は終わる。

本書は、はやぶさの困難に満ちた探査の様子やそこからいかにリカバリーしたか、といったエピソードを中心にしたというよりは、はやぶさを東大宇宙研の宇宙開発の集大成ととらえ、ペンシルロケットからはやぶさに至る流れをたどることに半分以上のスペースを使っている。

今はJAXAに統合されてしまったので、ますますわかりにくくなったけど、日本の宇宙開発の歴史は、東大宇宙研による固体ロケットの流れと、昔の科学技術庁の流れを汲むNASDAによる液体燃料ロケットの流れの2本立てになっていることは、普通の人にとってはほとんど知られていないことだろうと思う。こんなブログを書いている僕にしても、ロケットや宇宙とは縁もゆかりもないので、2本の流れがあることは何となく知っていたけど、その中身がどうなっているのかについては全くといっていいほど知らなかった。

本書は、完全に東大宇宙研の立場で書かれた本なので、NASDAは何となく悪者のような姿で書かれているのだが、それでもともかく日本の宇宙開発は異なる2つの組織により、全く独立した技術で行われてきたことがよくわかるのは確かだ。著者は、東大宇宙研や糸川さんに相当に強い思い入れがあるようで、ちょっと鼻に付くところもあるのだが、まあ立場をはっきりとさせた上で書いているのでこれはこれで許せるだろう。

もっと、はやぶさの苦闘を脚色したり擬人化して面白おかしく伝える方法もあったと思うし、インターネットで広がったはやぶさを応援する大きな流れにも触れて欲しかったという印象もある。その点で、ワクワクドキドキの臨場感にはやや乏しいのだが、とても読みやすく、かつ読み応えのある物語として仕上がっている。特に、日本の宇宙開発のことをあまり知らない人や中高生などが読むと、日本の宇宙開発もまんざらでもないじゃないか、という印象を持つのは間違いないだろう。

今、松浦晋也のL/Dなどで、はやぶさ2を巡る議論が盛んだが、はやぶさのような宇宙探査を日本が行うことの意味を考える意味でも、本書は参考になるだろう。僕自身は、はやぶさの意義はとても高く評価するけど、だからと言って、日本がこの分野の最先端を走り続けることがどうしても必要であるかと言えば、日本にとっての宇宙開発の意義や全体計画を十分に議論し、もっとコンセンサスを得た上で決めることだろうと思っているのだが。。

なお、はやぶさについては はやぶさまとめ が詳しい。現時点での公式サイトの最新ニュースは小惑星イトカワ、約2年ぶりに地上の望遠鏡での観測成功!だが、来月にも地球帰還に向けてイオンエンジンの起動を開始する予定とのこと。何とか傷だらけでもいいから地球に戻ってきて欲しいものだ。

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コメント

科学マンガを結構描いておられるあさりよしとお先生の
「なつのロケット」はロケットに対する興味をそそられる
なかなか良いマンガだと思いますので
オススメしておきます。
詳しくはネタばれになってしまうので自粛しますが…

投稿: xtc | 2007/02/22 17:14

紹介ありがとうございます。ざっと検索してみると評判いいですね。読んでみます。

投稿: tf2 | 2007/02/22 23:32

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「かぐや」(SELENE)が打ち上げ延期。 打ち上げ予定は9月のようです。 でも [続きを読む]

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