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2007/02/27

塩ビサッシ内窓の効果

化学工業日報の記事(2/26)から。環境省、塩ビサッシ内窓の採用拡大

 環境省が塩ビサッシ内窓の採用を拡大する。大臣室などの個室を中心に、今年度内に実施する予定。同省では京都議定書の温室効果ガス削減目標達成に向けた省エネ対策として塩ビサッシに注目し、昨年10月にモデル工事として初めて省内に設置した。その効果が実感できたことから採用を増やすことにした。塩ビサッシは高断熱で結露を防ぐなどの特徴を持つ。アルミ製など既存サッシに比べ冷暖房効率が飛躍的に向上し省エネ、温暖化ガス削減に寄与し遮音性にも優れる。京都議定書の温室効果ガス削減目標達成には、民生部門での対策も求められており、環境省では塩ビサッシ(内窓)による断熱リフォームの普及に期待を寄せている。
小池さんが大臣の時には、クールビズ、ウォームビズ、もったいない風呂敷など、なかなか積極的なプロモーションが目立った環境省だが、最近はすっかり目立たなくなってしまった。恐らく、今の環境大臣の名前と顔を知っている人はかなり少ないのではないだろうか? この塩ビサッシ内窓の採用による省エネについても、小池さんの時代に導入されたものらしい。

どんなものか探してみると、PVCニュースに昨年10月に導入した際の記事が載っている。これによると、合同庁舎5号館の環境省の23階と26階の既設の窓の内側に、複層ガラス+塩ビサッシのうち窓を施工したとのこと。低熱伝導率の塩ビサッシと複層ガラスにより、かなり断熱性能が向上するらしい。関連ニュースが掲載されている、塩ビ工業・環境協会のトピックスによると、樹脂サッシ普及促進委員会というのがあるようだ。

この、樹脂サッシ普及促進委員会のサイでには、樹脂サッシの効果について具体的なデータを示して、わかりやすく説明してくれている。普通の単層ガラス+アルミサッシに比べると、これに複層ガラス+塩ビサッシの内窓を施工することによって、サッシから逃げる熱量が36%程度に削減されるということで、かなりの省エネ効果が期待できるようだ。この中央合同庁舎第5号館霞ヶ関の歴史によると昭和58年の完成とのことであり、この時期であれば気の利いたビルなら最初から複層ガラスとか2重サッシになっていても不思議はないような気もするが、そうではないのかな。。

今回環境省の工事を担当したらしい、大信工業の情報を見ると、今なら既設住宅にこの塩ビサッシ内窓を取り付ける断熱リフォーム工事を行うと、NEDOから補助金が出るケースもあるようだ。

そういえば、環境省はこの冬、庁舎内の暖房を原則として停止するというニュースがあったが、実態はどんな様子なのだろう? 冒頭のニュース記事では、「効果が実感できた」とあるけれど、何と言っても今年は記録的な暖冬だったわけで、塩ビサッシ工事の有無で比較可能とはいえ、本当の実力はまだ評価できていないというところだろう。。 

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2007/02/26

バラスト水の処理技術

NIKKEI NETの記事(2/26)から。船に積む海水中の微生物を破壊、外来種問題防止へ新技術

 空荷の船体を安定させるために積む海水「バラスト水」中に含まれ、外来種問題を引き起こす微生物などを、バラバラにして高確率で殺す新技術を日本海難防止協会(東京)や三井造船などの研究グループが26日までに開発した。

 簡単かつ低価格な装置で、船に搭載して国際的な「バラスト水管理条約」の基準をクリアできる世界初の技術となる可能性があり、実現すれば日本など各国の条約批准にも弾みがつきそうだ。

 バラスト水をめぐっては、その中に含まれるプランクトンや貝、海藻などが本来の生息地から他国に運ばれ、外来種として生態系を壊すことが問題化。オーストラリアなどではアジアのワカメが繁殖、米国の5大湖では東欧原産の貝が発電所の吸水口を詰まらせるといった被害も出ている。

 国際海事機関(IMO)が2004年、国際船舶のバラスト水に厳しい生物濃度基準を定めた条約をまとめ、この基準を満たす処理技術の開発が課題になっている。

この記事では、バラスト水中の微生物の写真が掲載されている一方で、この技術の内容については何も触れられていない。日本経済新聞の2/26の夕刊には、
 グループは、日本財団の助成を受け、バラスト水の取水パイプ内に幅1ミリ以下のすき間を何本も入れた仕切り板2枚をはめる手法を開発した。2枚の板は、すき間が互い違いになるように配置。ポンプで吸い上げた海水がすき間に勢いよく流れ込んだときに、流水中で速度の速い部分と遅い部分ができるようにして微生物の体がちぎれるようにした。また、水が細いすき間を通る際に生じた泡が砕けるときに発生する圧力でも微生物を破壊する。

 殺菌力のあるオゾン発生装置を併用して体の小さい細菌も殺し、陸上実験では微生物がほぼ100%死滅した。

と書かれている。今ひとつ具体的にイメージしにくい説明だが、ある程度大きな生物は機械的に破壊し、微生物はオゾン殺菌で殺すという二段構えのようだ。

バラスト水については、ウィキペディアに説明がある。日経の夕刊の記事によると、このバラスト水中の生物の量を一定以下にすることを定めた国際条約は2004年に採択されたものの、実用レベルの処理技術が未開発であることを理由として日本を含む多くの国が批准していないため、まだ発効していないようだ。現時点で批准しているのはスペインなどの6カ国。発効するためには、30カ国以上が批准し、かつ合計商船船腹量が世界の35%以上となる必要があるとのこと。

今回の技術については、日本財団 六分儀 海・船によると、スペシャル・パイプ・ハイブリッド処理装置と名付けられている。このページには、実際の装置の模式図や写真が掲載されており、構造や原理がよくわかる。スリットのすき間と死滅する微生物のサイズの関係が不明だが、スリットサイズのほうがかなり大きそうに見える。このようなスリットを高速で通過させるだけで、海水中に含まれている生物の大半が死滅するってのも、考えてみるとちょっと面白い技術である。

より一般的なバラスト水の処理方法については、こちらに詳しい。物理的除去、機械的殺滅、熱処理、化学的処理などがあるものの、大きな生物と微生物を共に処理する必要性から、これらを複合させた技術が本命となっているとのことで、今回のスペシャル・パイプ・ハイブリッド処理技術も、その方向に沿ったものと言える。日経の記事では、今回の技術が基準をクリアする世界初の技術となる「可能性がある」と書かれているが、他の技術も実用化に向けてテスト中のようであり、今回の技術が特に飛びぬけているわけではなさそうに見える。

説明を読む範囲では、船舶への取水時に完全に殺してしまうというもののようだが、その後の航海期間中に、再びいろんな生物が繁殖してしまうことはないのだろうか? それなりに栄養分を豊富に含んでいそうな水だし、一旦完全に殺菌したとしても、航海中に大気などから微生物が混入するのを完全に防ぐのも非現実的だろう。とすると、廃水時にも再び同じ装置を通して微生物の破壊と殺菌を行うのだろうか。。

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2007/02/23

化学楽器、pHテルミン?

Google.Newsで見つけた DTM MAGAZINEのニュース。化学×楽器=泡音リズム&pHテルミン

ソニックヘッドのプロデューサーで北陸先端科学技術大学院大学 科学技術戦略センター研究員の宮下芳明博士は、化学に基づいて設計された「化学楽器」を開発した。従来の楽器は物理学に基づいて設計されたものがほとんどだった。今回発表になったのは、化学振動現象を応用し、泡の音で一定のリズムを刻む「泡音リズム [awa-odo-rhythm]」と、溶液中の水素イオン指数(pH)を音高に変換して演奏する「pHテルミン」の2種。
この記事で紹介されている化学楽器にこの楽器の説明に加えて、実際に行われた演奏会の映像と音が掲載されている。ここの説明によるとpHテルミンとは
テルミンとは、手とアンテナの物理的な距離を音高に変換する楽器であるといえますが、これと同様に、「溶液の水素イオン指数(pH)を音高に変換する楽器」としてpHテルミンを開発しました。
とあり、どうやら様々なpHを示す水溶液中にpH電極を放り込み、測定したpHの値(実際にはpH複合電極の示す電位)に応じた音程が出るようにした電子楽器というところのようだ。実演を見る限り、色々なpHの水溶液を入れた試験管を用意しておき、演奏者がそれらの試験管にpH電極を出し入れすることで演奏するようだ。

この演奏を聞く限りでは、楽器としての完成度はまだまだという感じだし、こいつの場合、結局音はシンセサイザーで出していて、その信号の入力に溶液のpH(というか、pH電極の出力電位)を利用しているということで、化学楽器といっていいのかどうか微妙な感じもしないではない。でも、音の出る化学反応ってのは、ここにも出てくる発泡現象ぐらいしかなさそうだしなあ。

そもそも、テルミンとは、ロシアのテルミンさんが発明した楽器のことであり、今回の楽器を pHテルミンと呼ぶこと自体がどうなの? という気もする。。 とは言え、化学反応を音に変えてみようという発想自体は面白いと思う。

でもこの楽器の場合、音階に相当するpHの溶液をあらかじめ用意しておいて、これにpH電極を出し入れするという方式なので、演奏と共に溶液が徐々に混ざることで音程が狂ってきそうだし、やっぱり何かもう一工夫必要だろう。 例えば、小さな流通型の反応容器に定量ポンプで酸とアルカリをそれぞれ供給できるようにしておき、キーボードからの入力に対してそれぞれのポンプを制御して反応用器のpHを変化させるなんてのはどうだろう? 攪拌の強度やポンプの流量なんかを細かく調整すれば、結構いろいろなチューニングもできそうだし、特色のある楽器になるかもしれない。。

ところで、ニセ科学批判でご活躍の菊池先生の専門は物理学だが、テルミンの演奏でも有名のようだ。将来それなりの化学楽器ができたなら、化学楽器の演奏を趣味とする化学の先生が菊池先生のテルミンとセッションをしたりする、ニセ科学批判ツアーなんかがあったら面白いかも。。

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2007/02/19

月面での移動はノルディックスキーの要領で?

BBC NEWSでみつけた記事(2/18)から。Astronauts should 'ski the Moon'

Astronauts heading to the Moon should learn the art of cross-country skiing, a scientist who flew on the last lunar Apollo mission claims.

Harrison Schmitt, part of the 1972 Apollo 17 crew, said it would allow them to explore faster and more easily.

Addressing scientists in San Francisco, he said his knowledge of Nordic skiing had allowed him to glide effortlessly across the dusty lunar surface.

"When you're cross-country skiing, once you get a rhythm going, you propel yourself with a toe push as you slide along the snow," explained Dr Schmitt.

"On the Moon, in the main you don't slide, you glide above the surface. But again, you use the same kind of rhythm, with a toe push."

宇宙飛行士は月面ではスキーが必要、というタイトルだが、これはアポロ17号の乗組員として月面に立ったシュミットさんが、月面上を速く移動しようとするなら、クロスカントリースキーの練習をした方が良い、と語ったということらしい。このハリソン・シュミットさんは、月に立った唯一の科学者(地質学者)。

これは、月面を実際にスキーを履いて移動するのではなく、あたかもノルディックスキーで前進するのと同じ要領で、つま先を滑らす(グライド)ように動かすことでスムーズに前進できるということらしい。

Dr Schmitt's recommendation is based on personal experience.

Video footage taken on the third and final excursion of his mission saw Dr Schmitt using his preferred technique to negotiate a boulder field near the Van Serg crater.

"You'd be amazed how fast I'm going," he recalled

The geologist estimates that he could travel between 10 and 12km/h (6-7mph), a speed he believes could make him the fastest man on the Moon.

どうやら、彼自身ががアポロのミッションで月に行く前に過去の月面探査の状況を見て研究して編み出した歩行方法らしく、時速10~12km程度の速度が出せるようだ。他の宇宙飛行士は、両足を揃えてジャンプしながら移動する「うさぎ飛び」をしていたようだが、シュミットさんは、ノルディックスキー方式の方が優れていると主張しているようだ。
And once the Moon is colonised, Dr Schmitt believes that skiing could become an ideal past time for the lunar pioneers.

In particular, the Apollo 17 landing site on the mountainous eastern rim of the Sea of Serenity would make an ideal alpine skiing spot, he said.

"I think there are some excellent downhill skiing areas there."

それとは別に、月面でのレジャーとしてアルペンスキーがとても適しているのではないかとのこと。確かに、スキーに適した滑らかな斜面がありそうだし、表面が細かな砂ならば結構おもしろいかもしれない。でも、重力加速度が6分の1と小さいから、斜面を降りる時の加速も6分の1と小さいわけで、速度がなかなか上昇しない一方で、空気抵抗がないから速度は上がり続けそうだし、月面との摩擦による減速も難しそうだし、実際にはどんなことになるんだろう?

探してみると、NASA月面スキーレポートなんて記事があり、これの元となったNASAの記事にも、このシュミットさんが登場して月面でのスキーの可能性を述べている。それによると、月面は重力が小さいので、コブを越えたりするときに、地球では困難なジャンプなどを簡単にできるので結構楽しいだろうとのこと。一方で、月の砂は地球の砂と異なり非常に鋭いエッジがあるので、スキーとの摩擦やスキー滑走面の摩耗が大きな問題となるだろうとのこと。残念ながらこの記事では、加速や減速の問題や、どうやって止まるのかということについては触れられていない。

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2007/02/15

1ドル記念コインシリーズがスタート

SankeiWEBの記事(2/15)から。歴代大統領1ドル硬貨 第1弾は初代ワシントン

米造幣局は、今年から2016年までの10年間に、歴代大統領の肖像をあしらった1ドル硬貨を発行、15日からは初代ジョージ・ワシントンの硬貨が登場する。現職と存命者を除く歴代大統領がほぼ3カ月ごとに順次お目見えし、今年は第4代ジェームズ・マディソンまで発行される予定。

 新硬貨はマンガンと真鍮(しんちゅう)の合金製で金色。側面に発行年と「われわれは神を信ずる」という文言が、裏面には自由の女神が刻印される。第1弾のワシントンは当初3億枚発行される。

 全米50の各州にちなんだ25セント硬貨が、合衆国への加盟順に発行されているのが好評なのを受け発案された。

ということで、アメリカで新たな記念硬貨が発行されるようだ。この1ドル記念硬貨の写真が FujiSankei Business iの記事で見られる(この写真だと金色には見えないけど)。

アメリカのコインは慣れないとなかなか使うのが難しいので、たまに旅行に行くと、なんだかんだと貯まってしまう。さすがに、こういう記事は本家アメリカのWikipediaが充実しているようで、1セント5セントダイム(10セント)クォーター(25セント)50セント1ドルの各コインの詳しい情報(歴史やコインの組成など)が載っている。 50セントコインなんて見たことがないような気もする。

25セント記念コインシリーズは結構有名のようだけど、今回の1ドル記念コインシリーズの他に、5セントコインでも記念コインシリーズが出ているようだ。現在も順次発行されている50州記念の25セントコインシリーズは、各州の合衆国加盟順に1999年から毎年5種類ずつ発行されていて、昨年までに40種類発行されている。日本の記念コインと違って、通常の25セントコインとサイズが一緒で普通に流通しているから、注意して見ていないと記念コインであることを気付かずに使ってしまう。

今回の1ドル記念コインシリーズだが、よく見ると他のアメリカコインとは異なる特徴がある。記事には、"IN GOD WE TRUST" の文字が側面に刻印されていることが記されているが、これは宗教的な配慮というよりは、デザイン上の問題らしい。同時に、"E Pluribus Unum"の文字も側面に刻まれているようだ。一方、"LIBERTY"の文字が描かれていない点も特徴的なのだが、これは自由の女神が LIBERTY のスピリットを十分に意味しているということらしい。そして、何といっても "$1" と数字が描かれているのが珍しいのだが、これは便利だと思うし、他のコインでもやってくれないだろうか。。 

大きさや材質は通常の1ドルコインと全く同じなので、25セントコインと同様に普通に流通するのだろうけど、1ドルコインは25セントとは異なり、普段あまり見ることがないから、これを全部集めるのは相当大変だろうと思われる。

せっかくなので、各コインの材質をまとめておくと

1セント 97.5% Zn, 2.5% Cu
5セント 75% Cu, 25% Ni
10セント 91.67% Cu, 8.33% Ni
25セント 91.66% Cu, 8.34% Ni
50セント 91.66% Cu, 8.34% Ni
1ドル   88.5% Cu, 6% Zn, 3.5% Mn, 2% Ni

1円硬貨 100% Al
5円硬貨 60-70% Cu, 30-40% Zn
10円硬貨 95% Cu, 3-4% Zn, 1-2% Sn
50円硬貨 75% Cu, 25% Ni
100円硬貨 75% Cu, 25% Ni
500円硬貨 72% Cu, 20% Zn, 8% Ni(以前の硬貨は 75% Cu, 25% Ni)

ということで5セント硬貨が日本の50円硬貨や100円硬貨と全く同一の材質となっているのと、10セント以上のアメリカ硬貨は意外にも銅の含有率がとても大きいことがわかる。銅合金の一般的な性質については、冶金の曙 銅と銅合金がよくまとまっている。

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2007/02/13

「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」

久々のハードカバー。たまたまどこかで本書のタイトルを目にし、amazonなどのレビューで比較的高評価だったのでネットで購入。扉には「50あまりのケースを紹介しつつ、巨大事故のメカニズムと人的・組織的原因に迫る。」とあり、裏表紙にはそのうちの23件のケースのリストが載っている。ともかく非常に多数の事故を扱っている本と言えよう。

 最悪の事故が起こるまで人は何をしたいたのか
 ジェームス・R・チャイルズ 著 bk1amazon

非常に多くの事故、それもほとんどが欧米で起きた事故で、あまり我々にはなじみのない事故がたくさん出てくるので、ただでさえ頭の中が混乱してしまう。本書は序章を加えて全13章で、それぞれの章は1~3件の事故を中心として話が進むのだが、その途中で類似の別の事故のエピソードの紹介が複雑に割り込んだような形式で、とてもストーリーが入り組んでいる。

おまけに、各事故の詳細やその原因の説明がわかりにくい。この手の本では必須となるはずの図面やタイムチャートのようなものが非常に少なく、その図表が不適切なものだったり、使用されている用語が本文と異なっていて、さっぱり要領を得なかったり。結局、必要に応じて、ネットから該当事故の詳細を調べながら読むという方法を取ることになってしまった。

もう1つ、改善希望点を挙げておくと、この本に掲載されている50件以上のケース(中には事故を未然に防いだケースも含まれている)は、目次を見ても全部が載っているわけではないのだが、残念なことに本書には索引もない。中には、いくつかの章で参照されている事故もあるし、後で本書を参照しようとする人のために、是非とも索引だけは欲しいところだ。実際、今この文章を書こうとしてどんなケースがあったかを振り返ってみようと思っても、非常に見通しが悪い。。

以上のように気になる点も多いのだが、本書はかなり読み応えがある。知らない事故も多く出てくるのだが、逆に事故のことは知っていたけど、原因は良く知らないという事故も結構あった(日本のマスコミは事故のことは報じるけど、その後の原因究明などは大きく報道されることはまれだし)。アポロ13号のあの有名な事故も、奇跡の生還ばかりが有名だけど、そもそもの事故原因は何だったのかという話は非常に興味深かった。実は、未然に防ぐチャンスは十分にあったし、本来は防ぐことのできた事故だったようだ。

本書の最大の特徴は、タイトルにもあるように(原著タイトルは "Inviting Disaster" だが)、事故の起きた現場での関係者の行動に焦点を当てていることだろう。通常、日本でこのような事故を紹介する本の場合、事故の背景、経緯、原因、対策などが比較的淡々と説明されているし、大抵の場合、関係者は匿名でしか出てこないだろう。本書の場合には、ドキュメンタリータッチというか、事故の関係者の目線でストーリーが展開する中で、登場人物は全部実名で出ている(らしい)。逆に、外人さんの名前がたくさん出てくるので、誰が誰だかわからなくなってしまうという欠点もあるのだが。。

確かに、本書で扱っているいくつかの事故ではこの人間の目線からのドキュメンタリー手法が功を奏しており、無機的な事故報告書とは異なり、自分がこの事故の関係者だったらどうするだろう、という臨場感のある立場で考えられるという利点がある。実名でこういう本が書けてしまうというところには日米の大きな違いを感じさせられる。

なお、各章は「信じがたいほどの不具合の連鎖」、「『早くしろ』という圧力に屈する」、「テストなしで本番にのぞむ」、「最悪の事故から生還する能力」などのタイトルで、著者なりに事故を分類して話を展開していくのだが、僕にはこの分類方法はあまりわかりやすいとは思えなかった。さまざまな事故をどのように分類するのが良いかは、目的によっても変わるし、人それぞれかもしれない。とはいえ、ほとんど知らないような欧米の事故を次から次に読み進めると、日本であった類似の事故や、自分が関わってきた場面を思い浮かべながら、いろいろと得るものが多かったのは確かだ。

読みにくかったり、わかりにくかったりという欠点はあるものの、人間ドラマとしても読み応えがあるし、海外の事故事例が豊富に収録されているという点だけでも、企業などで安全に関係する立場にある人には一読の価値がある本だろう。

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2007/02/08

ココログ37か月

ココログを始めて3年と1か月が経過。1か月当たりのカウンターの伸びは 21000程度と久々に2万を越えた。むしろ更新は滞り気味だったのに、何故だろう?

 1か月目:900     2か月目:4500    3か月目:11700    4か月目:19000
 5か月目:32300   6か月目:43500   7か月目:54500    8か月目:72000
 9か月目:87700   10か月目:105400  11か月目:125400  12か月目:140600
13か月目:163000  14か月目:179300  15か月目:194700  16か月目:205300
17か月目:216800  18か月目:231700  19か月目:251100  20か月目:276400
21か月目:301200  22か月目:326400  23か月目:351400  24か月目:372400
25か月目:398100  26か月目:419300  27か月目:436100  28か月目:452700
29か月目:474500  30か月目:492100  31か月目:510100  32か月目:529800
33か月目:548600  34か月目:565300  35か月目:583300  36か月目:598200
37か月目:619200

この1か月のアクセス解析結果は以下の通り。

(1)リンク元
 1位 bookmark 全体の22%(前回1位)
 2位 http://www.google.co.jp 全体の20%(前回2位)
 3位 http://search.yahoo.co.jp 全体の6%(前回3位)
 4位 http://www.google.com 全体の5%(前回4位)
 5位 http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com 全体の2%(前回5位)

ということで、先月と同じで変動はないようだ。

(2)検索キーワード
 1位 ETBE(前回3位)
 2位 酸素水(前回2位)
 3位 ベンタ(前回1位)
 4位 注射針(前回5位)
 5位 ハイジェン液(前回4位)
 6位 乳酸(前回9位)
 7位 失敗学(前回13位)
 8位 効果(前回8位)
 9位 コスモプラント(前回22位)
10位 フラーレン(前回10位)
11位 改造(前回7位)
12位 ETBE(前回42位)
13位 しらせ(前回40位)
14位 化粧品(前回18位)
15位 人工降雨(前回120位)

こちらも、ベスト5のキーワードは変化がなく、「しらせ」とか「人工降雨」などのタイムリーな話題に反応したものもあるようだが、総じて大きな変動はなかったようだ。となると、ここ最近のアクセス数の増加の原因は、やっぱり謎だ。。

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2007/02/07

第二世代バイオディーゼル燃料とは?

asahi.comの記事(2/6)から。都バス、廃油・脂身でも走行実験へ 有害物質減目指す

 二酸化炭素や排ガス中の有害物質を減らすため、東京都は6日、トヨタ自動車や新日本石油などと手を組み、次世代バイオディーゼル燃料で都バスの走行実験を07年度に実施すると発表した。ラードなど動物性の廃油や、食肉処理の過程で不要になる牛や豚の脂身も使う。早ければ3~5年後の実用化を目指す。

 次世代バイオ燃料の精製法は、新日本石油とトヨタ自動車がすでに開発。トヨタと日野自動車も、大型ディーゼルエンジンに与える影響を調べている。都は07年度中に路線バス2台を使い、営業運転中の走行試験を行う計画だ。

 バイオ燃料は軽油と違い、燃やしても二酸化炭素の増加にはつながらないという。ただ、従来のバイオ燃料は菜種や大豆などの植物油が原料。時間がたつと劣化し、エンジンの故障などにつながることがある。

 次世代バイオ燃料は軽油と同じ成分のため、「理論上は軽油を一切使わずに車を走らせることも可能」(都環境局)だ。燃焼効率が上がるため、燃えかすとして大気中に排出される粒子状物質(PM)も大幅に減るという。

何となくピントのはずれた記事のような印象が。。 特にタイトルの「有害物質減目指す」とか、最後の「大気中に排出される粒子状物質も大幅に減る」とか、どうやら次世代バイオディーゼル燃料を使うと、現在使われている軽油よりも排気ガスがクリーンになると言いたいように読める。でも、二酸化炭素が増えないというカーボンニュートラルの観点はともかくも、バイオ燃料は本当に石油系燃料よりもクリーンに燃えるのだろうか??

東京都の報道発表は、比較的詳しく書かれている。これによると、現在日本でバイオディーゼル燃料と呼ばれているのは、主として第一世代のFAMEというもので、都営バスでは軽油にFAMEを5%添加混合した混合燃料をこの春から使い始めるらしい。

調べてみると、FAMEは、Fatty Acid Methyl Ester(脂肪酸メチルエステル)の略で、主として廃食油(天ぷら油など)を回収し、これにメタノールを加えてエステル化し、精製したもののようだ。実際のFAME製造の様子については、実際にFAMEを製造しているフェニックスのBDFプラント精製の流れに詳しい。

また、FAMEのディーゼル燃料としての特性などは、自動車工業会のプレゼン資料がわかりやすく、しかも詳しい。この資料によると、FAMEの添加によって、ディーゼルエンジン排ガスはNOxがやや増加するものの、CO、HCおよびPMは減少するようだ。芳香族を一切含んでいないということが影響しているのだろうか? 一方で、酸化安定性や重合安定性の問題や、不純物(アルカリやメタノールなど)の問題があるようだ。

これに対して、今回の目玉とも言える、第二世代のバイオディーゼル燃料は、BHD:バイオ原料油の水素化処理油(Bio Hydrofined Diesel)と呼ばれるもので、新日本石油とトヨタ自動車が開発してきたものらしく、2007年度中に都営バスによるデモ走行を実施する予定のようだ。この説明図によると、BHDは、植物油、廃食用油および獣脂などを原料とし、これを大型の石油精製プラントで水素化精製して作るものらしい。

環境省のバイオ燃料に関する調査資料の最終ページに、新日本石油とトヨタによるエコ軽油に関する取組みが掲載されているが、これが今回の第二世代バイオディーゼル燃料BHDのことだと思われる。ここでは、植物由来の原料と石油由来の原料を混合して水素化分解し、各種留分を得ているようだ。

FAMEとは異なり基本的に既存の軽油とほぼ同等の成分・組成となりそうだから、安定した原料供給体制ができれば、比較的実用化のハードルは小さそうだ。もっとも、冒頭の東京都の資料にもあるように、その原料調達の仕組みをどう作り上げるかが最大の課題となるようだ。

朝日新聞が強調している排ガスのクリーン化については、第一世代のFAMEの場合、多少のPMの減少は期待できるようだが、第二世代のBHDの場合には既存の軽油と同等レベルと考えた方が良さそうに思える。バイオ燃料の意義は二酸化炭素の排出削減とか枯渇性資源の使用量削減といった点にある筈で、有害物質が減るというのはちょっとミスリーディングじゃなかろうか? 少なくとも、「燃焼効率が上がるため、燃えかすとして大気中に排出される粒子状物質(PM)も大幅に減る」ってのは、もしも既存の軽油と比べているのだとしたら、違うんじゃないの?と思うけど。。

考えてみると、ついこの前までは次世代エネルギーの主役として、水素や燃料電池が脚光を浴びていたのに、最近はすっかりバイオ燃料が主役の座に躍り出た感があり、ニュースで取り上げられることが多くなったようだ。ブッシュさんがバイオ燃料に言及したのも大きいのかもしれないが、マスコミもまた節操も無くあっさりと乗り換えた感もあって何だかなあ、というところだ。おまけに、この記事のようにポイントがずれているとなると。。。

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2007/02/02

「フタル酸ビス」って何? 環境ホルモン??

YOMIURI ONLINEの記事(2/1)から。「トイザらス」おもちゃから環境ホルモン検出、回収へ

 おもちゃ販売大手「日本トイザらス」(川崎市)が販売した塩化ビニール製のおもちゃから、食品衛生法で使用が禁じられている「フタル酸ビス」が検出されたことが、1日わかった。

 フタル酸ビスは環境ホルモンの一種とされ、なめたりすると、将来的に生殖機能などに影響が出る可能性もあり、同社は川崎市の指示で回収を決めた。

 問題のおもちゃは「JUST LIKE HOME フルーツセット」。中国から2万520個を輸入し、1月30日までに全国で1万6768個を販売した。

 フタル酸ビスはプラスチックなどを柔らかくするために使われるが、おもちゃへの使用は2003年8月から禁止された。大阪府堺市が、抜き取り検査でフタル酸ビスを検出、川崎市に連絡していた。

「フタル酸ビス」って化合物の名前は寡聞にして聞いたことがない。。 おまけに、「環境ホルモンの一種」と書いてあるけど、いわゆる「環境ホルモン」という用語は少なくとも環境省などは既に撤回していたはずだけど、新聞社はまだ使っていたのか? 他紙を調べてみると asahi.comのトイザらスで販売の玩具から禁止成分 川崎市が回収指示では、
フタル酸ビスは、合成樹脂をつくる際に広く使われている。ホルモンに悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、国内では玩具などへの使用が禁止されている。
MSN毎日インタラクティブの日本トイザらス:おもちゃから禁止柔軟剤では
中国から輸入したポリ塩化ビニール製のおもちゃから食品衛生法で使用が禁止されている柔軟剤「フタル酸ビス」が検出されたため、販売した計2万520個を回収すると発表した。通常の使用では人体に影響はないという。
と、共に環境ホルモンという言葉は使っていないが、物質名は「フタル酸ビス」になっている。一方、Sankeiwebのおもちゃから「フタル酸」検出 トイザらスが回収へでは、
 玩具販売大手「日本トイザらス」(川崎市)が販売しているおもちゃから、内臓への毒性や内分泌撹乱(かくらん)化学物質(環境ホルモン)の疑いが指摘されている化学物質フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が検出されていたことが1日、分かった。
とあり、産経だけが化合物の名称を「フタル酸ジエチルヘキシル」と記載している。(もっとも、タイトルに「フタル酸検出」とあるのはいただけない。フタル酸と2-エチルヘキサノールとのエステルであるフタル酸ジエチルヘキシルはフタル酸とは全く別の物質である。) 

物質名については産経が一番まとものようだが、一方で環境ホルモンについては毎日だけがホルモンという言葉を全く使っていない点でもっともまともと言えそうだ。

さて、フタル酸ジエチルヘキシルの正式名称はフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(化学物質ファクトシート)である。ここで、「ビス」は後に続くカッコ内の基が2個あるよということを示す倍数接頭辞であり、ビスの後の単語を省略してしまうと意味不明となってしまう。

ということで、恐らく公式発表では「フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)」と正しく表記されていたものを、記者がカッコ内の「2-エチルヘキシル」はフタル酸ビスの別名か何かだろうと勘違いして、文字数を節約する目的で省略してしまったのではなかろうか? 念のために、「フタル酸ビス」がフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を省略する用語として定着しているのかどうか調べてみたが、「フタル酸ビス」だけで使われている例は他には見当たらなかった。。 それにしても、朝日、読売、毎日と3社そろって同じ過ちを犯すなんてこともあるのかねぇ。。 ちょっと調べてみればすぐわかることなのに。

実は、この新聞記事は問題が他にも問題が多い。このDEHPが環境ホルモンと呼ぶのが適当かどうかという部分もさることながら、そもそも問題となるおもちゃでどの程度の濃度のDEHPが検出されたのか、それを子どもが口にした際にどの程度の危険が存在すると考えられるのか、といった定量的な情報が一切出てこないことだ。これでは、いたずらに不安を煽るだけになるだけだ。試しに、「フタル酸ビス」でブログ検索してみると、案の定ほとんどが「生殖機能に異常が出るかも」という点に反応して、怖い、危険だ、という論調である。

DEHPについては、今までいろいろと調査したけど、生殖機能への異常も含めて、ヒトに対する内分泌かく乱作用は見当たりませんでしたという結論が出ているはず。(参考:環境省の化学物質の内分泌かく乱作用についてや、市民のための環境学ガイドの環境ホルモン終焉) なお、市民のための環境学ガイドの記述によると、おもちゃへのフタル酸エステルの使用禁止は、

これらの化合物が環境ホルモン性があるという理由で禁止になったのではなくて、通常毒性がたまたまセルトリ細胞という精子のお母さんみたいな細胞に対して出るために禁止になった
ということのようだ。

先にあげた化学物質ファクトシートや、製品評価技術基盤機構の初期リスク評価書に非常に詳しくまとまっているが、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)には内分泌かく乱作用がないとしても、全く無害ということではなく、ヒトや環境に対して何らかの有害性を持っているのは確かである。今回のトイザらスのおもちゃについては、明確な法律違反であり、きちんと対処する必要があることは言うまでもない。

今回の記事は科学面ではなく社会面の記事のようなので、担当記者の不得意分野だったのかもしれないけど、いろんな面であまりに不勉強と言えるし、こうして不正確な情報が世の中に蔓延していってしまうのだと思うと、いろいろと考えさせられる。。

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2007/02/01

2007年1月の天気予報傾向

東京地方の過去の天気予報 のデータ更新を終了。

3年目に突入し、このページも何だか見にくくなってきたので、古いデータの表示方法には何か工夫が必要となってきたようだが、どういう方法が良いかわからないので、少し調べてから対処することにしてみよう。

3年目ともなると、実際の天気の傾向だったらともかくも、天気予報の傾向となると敢えて指摘することもあまりない。それにしても今年の1月は気温が高かったのだが、予想気温と実際の気温との誤差は全体として比較的小さかったようだ。つまり、週間予報レベルでは、気温が高くなることをそれなりにちゃんと予報できていたと言えなくもない。

もっとも、昨年の1月は最低気温の実績が-1~8℃程度の範囲だったのが、今年の1月は2~7℃程度と、その変化幅が小さかったことも、予想値と実績値との誤差が小さかったことに寄与している可能性はある。(最高気温も傾向は同様)

なお、気象庁の平成19年1月の天候では、記録的な暖冬傾向であることを伝えるにしては、随分とあっさりとしている印象だ。現時点での2月の予報を見る限りでは、今年の冬は最低気温が氷点下にならない可能性もかなり高そうだが、果たしてどうだろうか?

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