「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」
久々のハードカバー。たまたまどこかで本書のタイトルを目にし、amazonなどのレビューで比較的高評価だったのでネットで購入。扉には「50あまりのケースを紹介しつつ、巨大事故のメカニズムと人的・組織的原因に迫る。」とあり、裏表紙にはそのうちの23件のケースのリストが載っている。ともかく非常に多数の事故を扱っている本と言えよう。
最悪の事故が起こるまで人は何をしたいたのか
ジェームス・R・チャイルズ 著 bk1、amazon
非常に多くの事故、それもほとんどが欧米で起きた事故で、あまり我々にはなじみのない事故がたくさん出てくるので、ただでさえ頭の中が混乱してしまう。本書は序章を加えて全13章で、それぞれの章は1~3件の事故を中心として話が進むのだが、その途中で類似の別の事故のエピソードの紹介が複雑に割り込んだような形式で、とてもストーリーが入り組んでいる。
おまけに、各事故の詳細やその原因の説明がわかりにくい。この手の本では必須となるはずの図面やタイムチャートのようなものが非常に少なく、その図表が不適切なものだったり、使用されている用語が本文と異なっていて、さっぱり要領を得なかったり。結局、必要に応じて、ネットから該当事故の詳細を調べながら読むという方法を取ることになってしまった。
もう1つ、改善希望点を挙げておくと、この本に掲載されている50件以上のケース(中には事故を未然に防いだケースも含まれている)は、目次を見ても全部が載っているわけではないのだが、残念なことに本書には索引もない。中には、いくつかの章で参照されている事故もあるし、後で本書を参照しようとする人のために、是非とも索引だけは欲しいところだ。実際、今この文章を書こうとしてどんなケースがあったかを振り返ってみようと思っても、非常に見通しが悪い。。
以上のように気になる点も多いのだが、本書はかなり読み応えがある。知らない事故も多く出てくるのだが、逆に事故のことは知っていたけど、原因は良く知らないという事故も結構あった(日本のマスコミは事故のことは報じるけど、その後の原因究明などは大きく報道されることはまれだし)。アポロ13号のあの有名な事故も、奇跡の生還ばかりが有名だけど、そもそもの事故原因は何だったのかという話は非常に興味深かった。実は、未然に防ぐチャンスは十分にあったし、本来は防ぐことのできた事故だったようだ。
本書の最大の特徴は、タイトルにもあるように(原著タイトルは "Inviting Disaster" だが)、事故の起きた現場での関係者の行動に焦点を当てていることだろう。通常、日本でこのような事故を紹介する本の場合、事故の背景、経緯、原因、対策などが比較的淡々と説明されているし、大抵の場合、関係者は匿名でしか出てこないだろう。本書の場合には、ドキュメンタリータッチというか、事故の関係者の目線でストーリーが展開する中で、登場人物は全部実名で出ている(らしい)。逆に、外人さんの名前がたくさん出てくるので、誰が誰だかわからなくなってしまうという欠点もあるのだが。。
確かに、本書で扱っているいくつかの事故ではこの人間の目線からのドキュメンタリー手法が功を奏しており、無機的な事故報告書とは異なり、自分がこの事故の関係者だったらどうするだろう、という臨場感のある立場で考えられるという利点がある。実名でこういう本が書けてしまうというところには日米の大きな違いを感じさせられる。
なお、各章は「信じがたいほどの不具合の連鎖」、「『早くしろ』という圧力に屈する」、「テストなしで本番にのぞむ」、「最悪の事故から生還する能力」などのタイトルで、著者なりに事故を分類して話を展開していくのだが、僕にはこの分類方法はあまりわかりやすいとは思えなかった。さまざまな事故をどのように分類するのが良いかは、目的によっても変わるし、人それぞれかもしれない。とはいえ、ほとんど知らないような欧米の事故を次から次に読み進めると、日本であった類似の事故や、自分が関わってきた場面を思い浮かべながら、いろいろと得るものが多かったのは確かだ。
読みにくかったり、わかりにくかったりという欠点はあるものの、人間ドラマとしても読み応えがあるし、海外の事故事例が豊富に収録されているという点だけでも、企業などで安全に関係する立場にある人には一読の価値がある本だろう。
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