ITO代替:酸化チタン系透明導電膜
化学工業日報(The Chemical Daily)のニュース(3/28)から。KAST-旭硝子、スパッタ法で酸化チタン透明導電膜
神奈川科学技術アカデミー(KAST)は、旭硝子と共同で、大面積薄膜が可能となるスパッタ法を用いて、ガラス上に二酸化チタンをベースとする透明導電膜を作製することに成功した。透明導電体には、主原料インジウムが使われるが、価格が高騰している。これに代わり安価な二酸化チタンを用いた新しい透明導電体材料となり得るもので、高い実用性が見込まれる。研究グループでは、増え続けている液晶パネルや発光デバイスなどへの需要に対応した応用開発ができる。透明導電体というとやはりITO(スズ添加酸化インジウム)が有名だが、最近はインジウムの資源枯渇が問題となっていることも時々話題に上る。ということで、ITO代替材料の開発がいろいろと行われている。さて、今回の酸化チタン透明導電体だが、たまたまだろうけど、これを開発したKASTの理事長が酸化チタンの光触媒で有名な藤島さんであるのが興味深い。
KASTのプレスリリースを見てみると、この件に関して知りたいと思ったことの多くが載っていて、非常によくできているリリースだ。技術的には、
大面積薄膜を作製することが可能なスパッタ法をもちいて、ガラス上に二酸化チタン系透明導電膜を作製する手法を開発しました。ガラス上にアモルファスのNbドープ二酸化チタンを成膜し、その後、還元雰囲気で400℃以上でアニールすることにより、低抵抗化することができます。Nbドープ量を6%として成膜した薄膜は8×10-4 Ωcmの抵抗値を示し、応用が視野に入ってきました。ということで、アモルファス型の酸化チタン膜をスパッタ法で作製したこと、ニオブを添加していること、抵抗率はほぼ実用範囲に入っているということがわかる。また、このページからリンクされている添付資料を見ると、実際の透明導電膜の写真も掲載されており、予想以上に透明度が高く完成度が高そうな印象である。
インジウムの資源問題については、2011年にも枯渇が予想されるとのことだが、ウィキペディアによると、かつて世界最大の鉱山だった札幌の豊羽鉱山が1年前に閉山したとのこと。全く知らなかった。
学会誌「セラミックス」の2007年1月号が透明導電性酸化物薄膜の特集なので、見てみると、最近目にする「元素戦略」との絡み、インジウムの国別の埋蔵量や生産量、インジウムのリサイクル、各種ITO代替材料などの話が載っている。
この特集の中でも、Nb添加酸化チタン系の話が掲載されているが、もともと二酸化チタンとしてはアナターゼ型のものが抵抗率が低く好ましく、今回作製した薄膜も、スパッタ後はアモルファスだが、その後のアニールでアナターゼ型にしているようだ。
透明導電膜は、こちらに原理などが書かれているように、ワイドギャップ半導体と呼ばれる材料が使用され、これはバンドギャップによる吸収を紫外域に持ち、かつ金属光沢を持たない程度に電子密度が低いことにより、可視光の高い透過率を実現している。実用化されているITOの抵抗率が1.5~2.0×10-4Ωcmとのこと。今回の酸化チタンはその4~6倍程度の抵抗率なので、あと一歩というところだろうか?
その他のITO代替材料としては、酸化亜鉛系のAZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)やGZO(ガリウム添加酸化亜鉛)や、酸化スズ系のFTO(フッ素添加酸化スズ)などが有望な素材のようだ。
なお、最近大量に使われ始めている青色LEDで使用されている窒化ガリウムや、緑色LEDで使用されているGaAlP/GaAs系などでも、少量のインジウムを添加しているようなので、インジウムの資源枯渇の話はLEDにも重要な話のようだ。
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