「生命のセントラルドグマ」
久々にブルーバックス。書店店頭では、緑色の帯に大きく「ノーベル賞W受賞」と書かれている。確かに昨年2006年のノーベル生理学・医学賞は「RNA干渉の発見」、ノーベル化学賞は「真核生物における転写の研究」に与えられており、共にRNAやセントラルドグマに関連する研究である。また、このブログでは2005年に理研のRNA新大陸の発見という話題を取り上げている。
しかし、さすがに分子生物学の最先端領域での研究成果ということで、なかなか内容の理解まで至らないのが実情だった。この本は裏表紙にも、『「遺伝子からタンパク質が作られる」という中心教義の深奥にせまる!』、「多彩なしくみでなりたつセントラルドグマの世界を、RNAを中心にわかりやすく解説する。」とあり、パラパラっと中を見たら、図は多いものの、かなり難しそうに見えたのだけど、進歩の速いこの分野の先端領域を垣間見るのを楽しみに読んでみた。
ブルーバックス B-1544
生命のセントラルドグマ RNAがおりなす分子生物学の中心教義
武村 政春 著 bk1、amazon
読み始めは、いきなりRNAポリメラーゼの構造の話などが出てきて、先行きが不安になったのだが、読み進めるにつれてどんどん面白くなり、後半はワクワク感を味わいながら、楽しく読み終えることができた。このレベルの内容をこのように伝えられる著者の力量は相当なものではなかろうか?
確かに内容は高度で難解だから、一度読んだだけでは到底全貌を理解したとは言えないし、所詮ブルーバックスレベルだから、最先端の片鱗を垣間見たという程度だとは思う。それでも、従来の「DNAからRNAに遺伝情報を転写して、これを元にタンパク質が作られる」という程度の大まかな理解とは一味違う、セントラルドグマの精緻で複雑な世界の存在やその仕組みの一部を知ることができただけでも大満足である。
DNAは遺伝暗号というある意味で静的な書物のようなものであり、解読作業が重要となる。それに対し、RNAはその遺伝暗号から必要なタンパク質の合成を行うまでの様々な仕事をこなすダイナミックなものであるため、その一つ一つの働きのメカニズムの解明が重要であり、その応用範囲は果てしなく広がっているようだ。どちらが重要ということではないが、RNAについては、まだまだ未知の部分が多いのと、実に複雑な仕組みをたくさん持っていることが研究者を惹き付けるのだろう、という気がする。
例えば、DNAからm-RNAに遺伝情報を転写するという作業に関しても、どうやって遺伝情報を見つけ、しかもその中から不要な(?)イントロン部分を取り除き、エクソン部分だけを取り出すスプライシング作業を行うのか? あるいは、リボゾームにて、m-RNAとt-RNAからどうやってタンパク質が作られていくのか? こんなことは今まであまり考えてみたことがなかったが、本書では、この辺のメカニズムがかなり丁寧に、しかも非常にわかりやすく説明されている。
この辺のメカニズムは、大雑把に捉えていると、何となくそんなものか、という印象を持ってしまうけど、こうして細かな仕組みを一つずつ追いかけていくと、あらためて生命は何て複雑で精密にできているのだろう! という驚きが湧き出てくる。
最終的には、ノーベル賞を受賞したRNA干渉や、理研のRNA新大陸の話の周辺、例えば二本鎖RNAだとか、RNAキャッシュなどにも話は及ぶ。ただ、時期的にちょっとタイミングが合わなかった点があったのか、あるいはさすがに最先端すぎてわかりやすく説明するのが難しかったのか、(多分こちらの理解が及ばなかったというのが正しいのだろうけど)、説明も他の部分と比べるとわかりにくかった。いずれにしても進歩の速い分野なので、著者には是非とも数年後にでも続編を期待したい。
うーむ。。 とても面白かったし勉強にもなったのだけど、日常生活ではなかなかこのレベルの知識は使うこともないし、多分少し経つと忘れちゃいそうだ。一度読んだだけでは、十分に理解しきれていない点もあることだし、少し時間を置いてから、もう一度じっくりと読み返してみたい本だ。
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