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2007/04/24

ナノ表面構造による反射防止技術

FujiSankei Business iのニュース(4/24)から。産総研と伊藤光学 ナノ微粒子で反射防止 レンズ量産技術開発

 産業技術総合研究所(産総研)のスーパーレンズテクノロジー研究チームと、レンズメーカーの伊藤光学工業(愛知県宮成町)は23日、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルレベルの金属微粒子を使って、反射防止機能を付与したレンズを大量生産する技術を開発したと発表した。レンズや液晶パネル、自動車のメーターパネルなどに安価に光反射防止特性を付けられ、国際的に競争が激しい製品のコスト競争力がアップできるいう。

 反射防止ナノ構造は、光の波長(約300~800ナノメートル)より小さいナノサイズの構造物をレンズなどの表面に配置して、光の反射を低減させる。従来の多層膜コーティング技術よりも幅広い形状の光学部品に使えるとして期待されている。

 しかし、これまでの表面ナノ構造は、紫外線や電子線などを使って描画するリソグラフィーという半導体加工技術が使われるため、高価なことが課題だった。

 産総研と伊藤光学工業が開発した新技術は、レンズを作る際に使用する金型の表面に、マスク役となるナノ粒子を形成し、ガスなどを使ったドライエッチングで金型表面に細かい溝を付けるもの。この金型を使って射出成型することで、反射防止機能付きのレンズやパネルなどを安価に大量生産できるようになる。

射出成形によりプラスチックレンズを製造する際の金型の表面に反射防止のための凹凸を付けるための技術ということらしい。産総研のプレスリリースは、図表も豊富で説明もわかりやすい。射出成形の金型表面に微細構造のマスクとなる金属ナノ粒子を付着させた後、エッチングにより金型表面を削り取るということらしい。これにより、光の波長より微細な凹凸構造が形成され、表面での反射を防止できるとのこと。

通常の反射防止(AR)膜の原理はこちらにあるように、基材表面での反射光とコーティング表面での反射光が干渉することで反射をなくすというもの。実際には多層コーティングが広く実用化されている。一方、表面形状を凹凸として反射を防止する技術は、AG(アンチグレア)と呼ばれ、CRTや液晶ディスプレーの表面の反射防止技術として使用されている。もっとも、最近のTVやパソコンの液晶画面は光沢のあるものが多いが、これは光沢液晶とかラスタービュー液晶と呼ばれるようだ。

さて、今回の産総研の技術は、このAG処理の延長上の技術ということだろうか? このリリースによると、従来からリソグラフィーで作成する反射防止ナノ構造はあったとのこと。調べてみると、例えば大阪科学技術センターの表面無反射構造作製技術の開発というのが見つかった。こちらは、非常に規則的な制御された表面構造ができているようだが、表面の屈折率が滑らかに変化することで反射を低減するという説明がなされている。

今回の産総研の技術の場合、どんなナノ粒子をどうやって金型表面に分散させるのかとか、エッチングの条件などが不明だが、大阪科学技術センターの例に比べると、表面構造の形状や分布はランダムなものになりそうだ。どちらかというと、表面で微細な乱反射を起こすというイメージだろうか。何故かこの技術で作製したレンズ表面の電子顕微鏡写真などが載っていないのだが。。

AG処理は反射を防止する一方で透過像が不鮮明となるというのは、スリガラスのイメージで理解できそうだ。表面の凹凸を徐々に微細化していくとどうなるのかを、スリガラスを徐々に細かな研磨剤で研磨するようなイメージで捉えると、確かに透過像は徐々に鮮明になる一方で、表面での反射も徐々に増えていきそうな気もする。単に凹凸のサイズを光の波長以下にするだけで、凹凸の間隔や深さを厳密に制御しなくても、顕著な反射防止効果が得られるのだろうか?

この技術でもう一点興味があるのは、金型表面の数百ナノメートルサイズの凹凸をきちんと反映した表面が射出成形によって形成できるのだなあ、ということ。表面の微細な凹凸にきちんと樹脂が入り込むことも重要だし、金型から微細構造を維持したまま取り出せる必要もあるだろう。また、使用しているうちに金型表面が徐々に摩耗したりして、成形品の反射率が徐々に高くなってしまうなんてこともありそうだし。。 でも、確かにこの方法だとシンプルな方法で、高機能な小型レンズなどが作れそうだし、かなり面白そうな技術である。

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コメント

NEDOのサイトに、よく似た技術による反射率の小さな光学ガラスの作成についてのニュースが載りました。
http://www.nedo.go.jp/informations/press/190606_1/190606_1.html">超精密モールド法で光学ガラスの反射率1%以下を実現(世界初)

こちらはリソグラフィとドライエッチングの技術によりガラス成形用の型の表面にナノスケールの凹凸構造を形成し、この型でリン酸塩ガラスを作ったというもの。反射防止コーティングなしで、反射率が0.56%と実用レベルにすることができたとのこと。

投稿: tf2 | 2007/06/07 16:14

 とにかく大同特殊鋼のDC53はあんまり評判良くないよね。

投稿: 金型屋 | 2012/06/01 23:41

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