熱伝導速度が金属の2倍の新素材
YOMIURI ONLINEの記事(4/10)から。熱伝導速度、金属の2倍…NECが新素材開発
金属の2倍の速さで熱を伝えるバイオプラスチックを開発したとNECが9日、発表した。このニュースを見たときは、まあそんなものだろう、とあまり気にならなかったのだが、よく考えてみるとちょっと不思議なニュースだ。要するに熱伝導性の低いプラスチックに、熱伝導性の高い炭素繊維を混ぜることで、高熱伝導性のプラスチックを作ったということのようだが、それだけならば、従来からある炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でも同じじゃないのだろうか。熱を持ちやすい携帯電話やパソコンの外装に放熱用素材として使えば、一層の小型化と廃棄物対策に役立つと期待できる。同社は2008年度以降の実用化を目指す。
近年、電子機器は高性能化が進み、中央演算処理装置(CPU)などから出る熱が増加している。高温になると電子部品が動かなくなるため、放熱対策が小型化の課題となっている。
とうもろこし原料のバイオプラスチック「ポリ乳酸」は土中では水と二酸化炭素に分解され、焼却しても環境への悪影響が小さい。NECはこれに、熱伝導性が高い炭素繊維を10~30%混ぜて、新素材を開発した。このプラスチックを、パソコンや携帯電話のボディーに使えば、ステンレスの1~2倍の速さで熱を伝えるため、効率的な放熱ができるという。
例えば、こちらによると、通常のCFRPの熱伝導率は数十W/mKレベルであり、三菱電機が開発した衛星用のCFRPの熱伝導率は、何と純銅の393W/mKを上回る500W/mKとある。今回のNECのプラスチックの熱伝導率はステンレスの1~2倍程度とあるが、ステンレスの熱伝導率は15~25W/mK程度だから、このプラスチックの熱伝導率は15~50W/mK程度のようだ。やはり熱伝導率だけならば、特に珍しくないと考えて良さそうだ。まあ、ステンレスは金属の中では熱伝導率の悪い材料だしなあ。。
ということで、改めてNECのプレスリリースを読むと、どうやらバイオプラスチックで高熱伝導性を達成したことが初めてというニュースのようだ。バイオプラスチックのメリットとして、このリリースでは再生可能な植物由来であり環境調和性が高いとしか書かれていないのだが、炭素繊維を数十%添加したポリ乳酸プラスチックは再生可能なのだろうか?
もしかすると、たとえ燃やしても、元々が植物由来だからカーボンニュートラルである、というロジックなのだろうか? ポリ乳酸も最初は生分解性が重要視されていたけど、ここでは生分解性には触れられていない(炭素繊維は生分解しないだろうし)。 読売の記事でも「焼却しても環境への悪影響が小さい」なんて書いてあるけど、トウモロコシからプラスチックを作るまでのエネルギーだって馬鹿にならないし、植物由来で使い捨てよりは、再利用が容易な素材を繰り返し利用する方がトータルの環境負荷は小さいと思うけどなあ。
ところで、プレスリリースには、「高度な熱伝導性と、金属では劣っていた平面方向への伝熱性を実現」という表現が出てくる。金属の伝熱は等方的であり、平面方向への伝熱性が劣っているというのは考えにくい。もしかすると、金属では平面方向だけに熱を伝えるということはできないが、この素材は平面方向だけが伝熱性に優れ、それとは垂直の方向には熱を伝えにくいということを主張したいのだろうか? 確かに、パソコンの底面などがあまり熱くならないようにしつつ、平面内だけで熱をヒートシンクに輸送できれば、それなりに快適だろうと思う。
でも、面と垂直な方向の熱伝導率が低い場合、どうやって熱源からこのプラスチック中の炭素繊維に熱を流すかが問題となりそうだ。プラスチックの炭素繊維層と熱源とを直接接続する金属板のようなものを使うのかもしれない。
なお、読売のニュースのタイトルに出てくる「熱伝導速度」という表現だが、普通はあまり使わない言葉じゃないだろうか? 熱伝導性が高い・低いというとき、普通は熱の伝わる速さよりは、伝わる熱量の大小を問題にするから、この表現に違和感を感じるのだろうか。(熱の移動の場合は、熱流束(単位面積を単位時間に通過する熱量)の大きさで議論する:ウィキペディア) もっとも、google検索で見ると、ac.jpドメインで「熱伝導速度」という表記が使われている例も全く無いわけではないようだ。
結局のところ、熱伝導の場合には、サイズと温度条件を揃えれば、いわゆる熱の移動速度は熱伝導率に比例するだろうから、熱伝導速度という表現でも良いのかもしれない。 一方、電気伝導の場合には、電気伝導度と電気(電位)の移動速度は全く別の話であり、たとえ低電気伝導度の素材でも電位は瞬間的に伝わるはずだ。電気の伝わる速さ)
ちなみに、冒頭の4/10の読売のニュースだが、これは4/9の同じニュースを改訂したものらしい。4/9のニュースは、熱伝導、金属の2倍…バイオプラスチックをNEC開発となっており、4/10版ではわざわざタイトルの「熱伝導」を「熱伝導速度」に変えたようだ。 一方、記事の中を比較すると4/9の記事では「ステンレスの1~2倍の速度で熱を伝える」などの部分が、4/10の記事では「ステンレスの1~2倍の速さで熱を伝える」と変わっている。不思議だ。。。 (少なくとも、NECのリリース内には熱伝導速度や速さという用語は出てこないので、この辺は読売の記者のボキャブラリなのだと思われる)
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